第39話 ビリヤードは危険
ビルのエレベーターに乗り、四階へと行く。
そして、扉が開けば……そこは一階まるごとラウンドワンだ。
「あっ、ラウンドワン……きたことないわ」
「まあ、出来たのは最近だしな。俺も出来たばっかりの頃に、二、三回来たくらいだ」
「そうなの?」
「ああ、めちゃくちゃ久しぶりだ。さて、今日はゲームコーナーには用はないな」
「……ゲームコーナー」
清水の視線がちょろちょろ動き、ゲームコーナーに興味津々の様子だ。
言ったら怒られるから言わないが、小動物のようで可愛らしい。
「おいおい、ゲームがやりたいのか?」
「し、仕方ないじゃない、ゲームとかもしたことないもの」
「もしかして、家庭用ゲームとかスマホゲームとかも?」
「ないわよ。うちは私一人だし、親はそういうのに興味なかったし……悪い?」
「いや、そういうこともあるか。俺自身も、家庭用ゲームとかは妹がいなきゃやってなかったし」
小学生の時は外で遊んでいたし、中学はずっと部活漬けの毎日だった。
無論、たまに友達の家に行ってスマブ○とかそういうゲームはやってた。
ただゲーセンはともかく、家庭用ゲームを自分家でやるのは高校に入ってからだ。
「やっぱり、兄妹がいたら違ったのかな……色々なことが」
「清水……」
「ご、ごめんなさい……えっと、今日はゲーセンは我慢するわ。私も、身体を動かさなきゃだし」
「まあ、ゲーセンでも動く系はあるが……じゃあ、また今度来るとしよう」
「……ありがと」
すると、俯きがちにボソッと礼を言うのだった。
これは、もっと色々な所に連れてってやりたいと思ってしまう。
……その前に、自分のことをきちんとしないといけないな。
受付を済ませたら、スポッチャにて運動開始だ。
バトミントン、テニス、卓球、バスケ、ビリヤードにゴーカートまである。
その他に多種多様な遊びがあり、一日中だろうと遊び足りない施設だ。
俺自身も、中学の時は良く入り浸っていた記憶がある。
「うわぁ……遊具がいっぱいあるわね」
「さて、どれからにする?」
「迷うわ……三時間パックよね?」
「ああ、ひとまずはな」
「それじゃ、効率的に決めないと……卓球? バトミントンとかしたことないかもしれないし……バスケは二人でやってもあれだし、ビリヤード? ゴーカートって乗ったことない。あれって、高校生でも乗れるのかしら?」
一人でブツブツ言いながら、ずっと悩んでいる様子。
その姿は面白いが、どうにか笑わないように堪える。
ただ、このままでは無駄に時間が過ぎてしまうのは確かだ。
「またくれば良いから、適当でいいじゃないか?」
「……また来ても良いの?」
「なんか、前にも聞いた台詞だな。別にいつでも付き合うさ」
「……それじゃあ、ビリヤードがしたいわ」
「いや、全然動かねえし」
「べ、別に良いじゃない。一度、やってみたかったのよ」
「へいへい、わかりましたよ」
ひとまずビリヤードがある場所に行き、キューを取って台のそばに行く。
俺もやるのは二年ぶりだった。
中学の頃はよくアキトと一緒に来たり、叔父さんに連れてきてもらってきたりしていた。
「さて、ナインボールにするか」
「ナインボール? そもそも、使い方がわからないんだけど……」
「極めようと思ったら話は別だが、見た目より難しくはない。基本的に、白い玉を使って番号順に落としていくゲームだ」
「一から九まであるから、それを順番にってこと?」
「そういうことだ。まずは、最初にショットをするから見てろ」
俺は姿勢を低くし、キューを構えて目を細める。
武道と一緒だ、力を一点に集約させ——腕を抜く!
カーン!という感高い音と共に、ボールがあちこちに散らばっていく。
どうやら、腕は鈍くなってなかったようで安心する。
「あれ? 一番が落ちちゃったけど……」
「そしたら二番から落としていけば良い。んで、落としたら連続でプレーができる。あと気をつけるのは、次に落とす玉の前に別のボールに触れるとチョンボだ。選手が交代し、片方が好きな位置にボールを置いて始めることが出来る」
「へぇ、面白いわね。ということは、入れ方も大事ってことよね? 二番を落とすだけじゃなくて、次のボールを見据えて打つみたいな」
「おっ、流石は理解が早いな。中級者になると、敢えて嫌な位置にボールを残して相手にチョンボさせることもある」
「なるほど、ミスを誘うってことね……うん、大体わかったわ」
「今回は本来なら俺がもう一回打つんだが、練習だし清水がやって良いぞ」
「……よし、やってみるわ」
キューを構えて清水が真剣な表情を見せた。
その横顔はとても綺麗で、不覚にも見惚れてしまう。
構えも様になっており、まるでベテランの風格を出していた。
「……ふっ! ……あれ?」
「……ププ……あははっ!」
気合を入れて放った突きは空を切った。
つまり、ボールに当たらずチョンボである。
「わ、笑うことないじゃない! こっちは初めてなんだから!」
「いやー、すまんすまん。構えがあまりに立派だったもんで」
「むぅ……なんか、腕が真っ直ぐに行かなかったわ」
「ちょっと力が入りすぎたな。あと、添えてある左手が緩かったかもしれない」
「教えなさいよ……いえ、教えてください」
両手でスカートの端を掴んで、悔しそうに上目遣いをしてくる。
本当に、負けず嫌いらしい。
学校の奴らが見ても、本人だとわからないかもしれない。
「良いけど、密着することになるが?」
「うっ……変なところ触らない?」
「意図的に触ることはない」
「でも、前に胸を……わ、忘れなさい!」
「自分で言ってるし!」
くそぉぉ……! もう忘れていたのに!
倒れそうになって助けた時の話た……意外と胸があったな。
今見ると、スレンダーに見えるのだが。
「な、何を見てるのよ?」
「あぁー、今のは俺が悪かった……すまん」
「べ、別に良いわよ……」
「それで、やめとくか? そのうち、慣れるだろうし」
「いえ、教えてちょうだい。それに……貴方のことは信用してるから」
「お、おう……んじゃ、やりますか」
俺は後ろから抱きつく形で、清水を補佐する。
そして同じようにキューを構える姿勢をとった。
良い香りが……いや何も考えるな、無心だ無心だ、明鏡止水だ。
「こ、これでどうするの?」
「腕の力はいらない。引いて押す、ただそれだけだ。ただ、気持ち少し下を打つイメージだ」
俺は押さえた清水の手ごと、キューを引いて押す。
するとスコーンという音がし、二番が台の上を転がった。
「あっ、真っ直ぐに行ったわ」
「少し下を打つことで、真っ直ぐに行くんだよ。あとはボールが行き過ぎないためにも。白いボールが穴に入ったら、それもチョンボになる」
「一緒に入っちゃったらだめってことね。もう一回やっても良い?」
「ああ、もちろんだ。というか、気がすむまでやってくれ」
俺は近くにある椅子に座り、バレないように息を吐く。
清水は夢中でキューを突いて、ああでもないこうでもないと呟いていた。
……あんなん、意識するなって方が無理があるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます