第38話 試験後のお出かけ

次の日は土曜日なので休みだ。


俺は予定通り、清水と約束したので出かけることにした。


前と同じ場所にいくと、そこには誰もいない。


どうやら、今回は俺が早く着けたようだ。


そのまま、五分ほど待っていると……俺に気づいた清水が駆けてくる。


今日は青いロングスカートに、白Tシャツに女物のジャケットを羽織っていた。


髪後ろで結んでポニーテールっぽくなっており、活動的な印象を受ける。


「ま、待ったかしら?」


「いや、さっき来たところだ」


「……な、なんか、あれね?」


「あん? あれってなんだ?」


「な、なんでもないわ!」


相変わらず、よくわからない奴だ。

まあ、見てる分には飽きないが。


「それで、今日は何をご所望ですかね? 一応、出来る限り願いは叶えるつもりだ」


「ど、どうしたのよ?」


「いや、多分だが……かなり成績が良い。少なくとも、前回よりは確実に」


「そういうことね。私が教えたところ、ほとんど出てきたし」


「いや、ほんとにそれ。おかげで、すらすら解けたわ。というわけで、感謝してる」


本当の理由はそれだけではないが、それを言うのは照れ臭い。

お前を見てたおかげで、少し吹っ切れたなどと。

同じような境遇なのに、その子はこんなにも色々なことを頑張っている。

それを見てたら、自分のなんと情けないことか。


「そ、そんなに褒めても何も出ないわよ?」


「別にいいさ。んで、どうする?」


「そうね……この格好を見て何か思わない?」


「ん? ……似合ってると思うが」


俺は全身を眺めつつ、そんなことを思った。

聖女様状態の印象からいうと、今の格好はギャップがあるだろう。

ただ中身を知ってる俺からすれば、逆に似合ってると感じた。


「そ、そういうことじゃなくて!」


「ん? どういう意味だ?」


「な、なんなのよ……私の格好、この間と違って動きやすそうでしょ?」


「ああ、そういうことか。何かアクティブなことがしたいと?」


「ええ、そういうこと。といっても、遊んだのなんて小学生以来ないからよくわかんなくて……何かおすすめとかある?」


……おすすめねぇ。

清水は運動神経も悪くないし、何でもいい気がするが。

そうなると、あそこくらいしかないか。


「んじゃ、俺は中学時代に良く行った場所に行くか」


「それじゃ、任せるわ。恩に感じてるならエスコートしてよね?」


「へいへい、お嬢様」


俺は清水の歩幅を合わせ、駅前から商店街を歩いていく。

こうして並んで歩いていることに、もう違和感を感じることはなくなった気がする。

なんだかんだで、知り合ってからもう一ヶ月半以上も経っているのか。


「な、なに?」


「いや、二年になった時はこんな風になるとは思ってなかった。まさか、聖女様の中身がこんなだとは」


「ちょっと、こんなとか言わないでよ。というか、それはこっちのセリフだわ。いつも無愛想で、何を考えているのかわからない感じだったくせに。実は貴方、ちょっと怖がられてたりするのよ?」


「なに? ……そうだったのか」


俺はこんなに地味に過ごしているのに。

なるほど、道理で絡まれるわけでもなく、ただ放って置かれたわけだ。


「だって、目立たないのに目立つんだもの。今思うと、隠しきれてなかったのかもね——鬼殺しが……ププ」


「おい、腹黒聖女よ」


「誰が腹黒よ、鬼殺しさん」


「「……はは」」


二人で顔を見合わせて笑う。

そんなことが、やけに心地よく感じる。


「そういえば、もうすぐ体育祭だよな?」


「ええ。来週には6月に入ってテストが返ってきて、その翌週末には体育祭ね。だから、急いで準備をしないといけないし……はぁ、憂鬱だわ。梅雨で延長とかもあるし、去年も大変だったわよ」


「あぁー、生徒会は毎年忙しいらしいな? 調整役やら、準備やらで」


「PTAとの話とか、教師たちとの話し合いとか競技に使う道具だったり……やることが山積みよ。なのに、あの生徒会長ときたら……腹立ってきたわ。一応この格好なのも、体育祭の前に運動がしたいしストレス発散したいっていう意味でもあるのよ」


「ご苦労さん。おっ、そいつはちょうど良かった。今から行くところはおあつらえ向きってやつだ……さあ、到着だ」


「到着って……ここって、ビルよね?」


「ほら、行くぞ」


戸惑う清水の背中を押して歩き出す。


体育祭か……ふむ、良い機会かもしれない。


俺も鈍った体を動かなさいといけないな。




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