第37話 謝罪

 それから俺は、ひとまず勉強に集中した。


 清水と勉強会をしたり、叔父さんのところでバイトをしたりしながら。


 自分の気持ちの整理や、これからのことを考えたり。


 そして、あっという間に二週間が過ぎ……四日間の試験を終えた。


 六月も近くなり、クラス内のグループも完全に固まった頃だ。


 俺はというと、そこに変わりはなく相変わらず悟とばかり話していた。


 別に、そこは無理に変える必要はない。


 ひとまず、目の前のことから一個ずつやっていこう思う。


「ふぅ……終わったか」


「優馬君、お疲れ様」


「悟もお疲れさん。今回はどうだった?」


「いつもより良かったかな。その、森川さんと勉強会とかしたから」


 この二人は相変わらず順調らしい。

 まだ付き合ったりとかはしてないようだが。

 まあ、それは人それぞれのタイミングがあるよな。


「ほほう、道理で連絡が来ないわけだ」


「そ、それは違うよ。それに、優馬君だって最近は忙しそうだったし。漫画とか小説を貸してって言わなくなったし」


「あぁー、まあな。ちょっと、本気を出そうと思って。今は、その準備をしてるところだ。ただ、テストも終わったしまた貸してくれ」


「うん、もちろん。でも、本当に頑張ってたよね。休み時間とかも、ずっと勉強してたし」


 悟の言う通り、俺は一心不乱に勉強をしていた。

 まずはわかりやすい結果が出ると思ったから。

 それをした後に、これからの自分について改めて考えようと思った。


「まあ、二年生最初の試験だしな」


「確かに、推薦とかに影響するからね」


「そういうことだ。さてさて、それじゃ帰るとするわ」


「うん、バイバイ。僕は委員会があるから」


「おう、頑張ってな」


 俺は席を立ち、教室を出て行く。

 すると、ポケットの中でスマホが振動した。

 一応、校則違反ではないが堂々とするのはあれなので、トイレに行って確認をすると……四日ぶりに清水から連絡が来ていた。

 試験期間中はお互いに決めたわけでもないが、一切連絡は取ってなかった。


『試験、お疲れ様。明日とか、何か用事あったりする? 』

『お疲れさん。いや、明日は休みにしてる』

『そうなのね。それじゃ、付き合って欲しいところがあるんだけど……」

『……カラオケか?』

『それも良いけど、今回は別よ。いつも通り、駅前で待ち合わせしましょう』

「了解。それじゃ、時間は後で』


 俺はスマホをしまい、校門を出て行く。

 そして、まずはアキトに電話をかける。

 すると、すぐにアキトが電話に出た。


『おいおい、珍しいじゃん。おっ、試験終わったし遊ぶか?』

「ああ、暇か? この後、どっちかにいこうかと思ったが』

『ってまじかよ!? 待て待て、今日は女の子と遊ぶ約束が……』

「いや、用事があるなら」

『バカいうなっ! 親友が折角連絡してきたっていうのに! ちょっと待ってろ!』


 そこで通話が切れ、俺は校門前に寄りかかり待つことにする。

 そして、その間に深呼吸をした。

 これから、過去を清算するために。





 ◇


 そして。校門で待つこと数分後……アキトが慌ててやってきた。


「よう、アキト。急に悪かったな。女の子は平気だったか?」


「ああ、そっちは平気だ。ったく、学校でお前と話すのなんて初めてじゃね? とりあえず、歩くか?」


「ひとまず、駅まで歩くか」


 そうして、並んで歩き出す。

 方や目立たない俺、方や校内一のモテ男。

 下校中の生徒が、怪訝な視線を向けてくる。


「めちゃくちゃ見られてるけど良いのか?」


「ああ、もう隠すのはやめた」


「はい? ……待て待て、頭がおいつかないのですが?」


「ちょっと、心境の変化があってな……まあ、詳しい話は後にしよう」


 俺がそう言うと、アキトが首を傾げて唸る。

 それも無理のないことで、俺は高校に入ったら関わらないように頼んでいた。

 アキトは目立つし、俺は目立ちたくなかったし。





 地元の駅着き、近くの公園までやってくる。


 ここなら、誰かに聞かれる心配もあるまい。


「んで、聞かせてもらおうじゃん」


「その前に——済まなかった」


「お、おい、何を頭を下げて……」


「俺は! ……俺の勝手な我儘に、お前を付き合わせた。俺の親父が死んだことと、お前との友情とは直接関係がないのに」


 それなのに、俺は親友に押し付けた。

 しばらく関わらないでくれと……そして、こいつはそれを守ってくれた。

 俺が悔い改めるなら、まずはここからでないといけない。


「……はっ、んなこと……お前が一番辛かったに決まってるじゃねえか」


「……お前が泣くんかい」


「うるせえ! くそっ……」


「おっと、感動しちゃったのかな?」


「ああ? 殴るぞ? 」


「「………ははっ!」」


 俺達は顔を見合わせ同時に笑う。

 こんなやり取りは、中学の時以来だった。


「あぁ……ったく、泣きたいんだか笑いたいんだか。んで、説明はしてくれるのか?」


「とある女の子と知り合う機会があってな。その子がきっかけで変わろうと思った。ただ、本人の事情があるから詳しくは言えない」


「それだけわかれば良いさ。付き合ってるのか?」


「そういうんじゃないな。なんというか……同志?」


「ふーん、なるほどなるほど……怪しいな」


「あん? だから、そういうんじゃないっての」


「いや怪しい! よし! そこんところを詳しく教えてもらおうか!」


 俺はアキトに肩を組まれ、そのまま歩き出す。


 散々心配をかけた親友だ、今日くらいは付き合ってやろうと思う。

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