第36話 気づく

さて、どうしたもんか。


あの後、清水が下を向いたままなので、そのままじっと待ってると……。


「ふぅ、待たせてごめんなさい」


「いや、平気だ」


「さて、帰ろうかな。もう、すっかり暗くなっちゃったし」


「送っていくか?」


「ううん、大丈夫よ。割とすぐそこだから。それじゃあ、ここで解散しましょう」


そう言い立ち上がり、晴れやかな表情で振り返る。

どうやら、すっきりしたらしい。


「わかった。それじゃ、またな」


「ええ、今日は……その、ありがとう。すごくスッキリしたというか……うまく言えないけど。と、とにかく、また明日!」


「お。おう、また明日」


もじもじした清水が、タタタッと走り去っていく。

俺はその姿が見えなくなるまで、その場で立ちつくす。

よくわからない、胸の痛みを感じながら。







しばらくしたら、俺も家に帰宅する。

その間も、俺の心はざわついていた。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」


「……ただいま」


「どうしたの? 何かあったの? 今日、清水さんと一緒だったんだよね?」


妹が心配して、顔を覗き込んでくる。

しまった、顔に出てしまっていたか。


「いや、何でもない……事もない。俺の黒歴史がバレただけだ」


「あぁー、あのころのお兄ちゃんかぁ。それは、確かに苦い顔になるよね」


「ほっとけ。そういや、まだ飯まで時間あるか?」


「うん、これから作るところー」


「それじゃ、先に風呂でも入ってくる」


「うん、わかった。ジェルしてるから落としたいもんね」


どうにか誤魔化した俺は、洗面所に行って風呂場に行く。

そして、思い切りシャワー浴びる。

ばちばちと頭に当たる水が、俺のざわついた心を洗い流す気がした。


「……母親が亡くなってるのか」


どうして、あいつと居ると居心地がいいのかわかったかもしれない。

お互いに相手に踏み込まないようにしつつも、何処かで孤独を感じているから。

少なくとも、俺自身は自分の気持ちに気付いた。


「結局、一人になりたいとか言いながらも寂しがっていたわけだ……我ながら情けない」


そんなんだから、全部が中途半端なんだ。

知り合いのところでバイトして、孤独に勉強して学校に通って、出来るだけ人と関わらずにいきたいと思っていた。

なのに、結局はところは清水や悟やらと関わってる。


「別に、あのくらいなら跳ね除けることだって簡単だったはずだ。冷たくして、適当に理由をつけて……」


でも、俺はそうしなかった。

アキトやその他の友達にも、今は関わらないでくれと頼んだり。

もし嫌なら、全ての関わりを切ればいいだけだった。


「くそっ……何もかも中途半端だ、自分に腹が立つ。特に清水に対しては、自分で理由をつけて関わってる気がする」


洗い手つきで髪を洗いジェルを落とし、ささっと身体を洗う。


そして湯船に浸かり、湯の中に沈む。


このもやもやした気持ちが消えるように。





風呂から出た俺は、和室にある親父の仏壇に行く。


そして、そこで正座をして手を合わせて心の中で念じる。


(親父、久しぶり……といっても、ここにはいないか。ちょっと、自分が情けないと思ってさ。親父が生きていたら、喝を入れられるんだろうな。あんたは女々しかったりする男が嫌いだったし……男ならしっかりしろって? 時代錯誤なことを……でも、俺もそっち方が好みだ)


「ったく、親父のことは好きじゃなかったけど似てるのだけは否定できない」


「お兄ちゃん? めずらしいね。そして、お兄ちゃんとお父さんは似てますよー。意外と頭でっかちだし頑固だし」


「美優……まあ、そうかもな。美憂、お前がいてくれて良かったよ」


「きゅ、急にどうしたの?」


「いんや、何でもない。それより、腹が減ったな」


「もう、そういうことか。もうすぐ出来るから手伝ってよ」


「へいへい」


美優が出て行ったあと、一度だけ仏壇に振り返る。


(親父、少しやる気を出してみるよ)


そう問いかけ、和室を後にするのだった。





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