第23話 待ち合わせ

 自転車に乗り、駅まで十分で着く。


 自転車置き場に置き、時計を見ると二時四十分だった。


 まだ時間に余裕があるので、ゆっくり待ち合わせの駅の時計台の下に行くと……そこには、白のワンピースに青いカーディガンを羽織っている美少女がいた。


 メガネをかけていて、逆に可愛さが強調されているような気がする。


 その証拠に、さっきから男性達が二度見をしていた。


 俺は映画のワンシーンかのような姿に、思わず立ち止まってしまう。


「……おいおい、今からあそこに行くんかい。とりあえず、ジャケットは着といてよかったな」


 すると痺れを切らしたのか、男達が清水に話しかけようとしていた。

 俺は深呼吸をしてから、慌てて清水に近づいていく。


「あ、あの、待ち合わせをしてるので……」


「でも、さっきからずっといるよね?」


「そうそう、もう来ないんじゃない?」


「すまん、待たせたな。俺のツレに何か用か?」


「なん……いえいえ!」


「すいませんでした!」


 すると男達が俺を一瞥して……そそくさと退散していく。

 どうやら、くどい輩ではなかったらしい。

 まあ、穏便に済むならそれに越したことはない。


「あ、ありがとうございました。ただ、本当に待ち合わせをしてて……」


「おい、俺相手に猫をかぶってどうする?」


「えっ? ……もしかして逢沢君?」


「それ以外にいるかよ」


 どうやら、俺とは気づいてなかったらしい。

 確かに、清水の前で前髪をあげてることはなかったが。


「いや、だって全然雰囲気違うし……とにかく、助けてくれてありがと」


「気にすんなって。ただ、くるの早くないか? さっきの男の話だと、結構前からいたみたいだが?」


「べ、別に楽しみで早くきたんじゃないし。少し待ち合わせ時間を間違えただけよ」


「そうか、それならいいが。とりあえず、目立つからささっと行くか」


 俺が歩き出すと、清水が慌てて追いかけてくる。

 そして、歩幅を合わせて並んで歩く。


「それで、今朝も送ったがカラオケで良かったのか?」


「え、ええ、カラオケ行ったことないから」


「よくもまあ、逃れてきたもんだ。散々、誘われてきただろうし。まあ、この間も言ってたが上手くかわしてきたんだろうが」


「ふふ、そこは優等生だったから。ねえ……どうして急に誘ってきたの?」


「別に難しい話じゃない。俺はカラオケに行きたくなった、そして清水はあのバントを知ってる。あれなぁ……友達の前で歌ってもポカンとされるんだよ」


 なにせ、ストライク世代は30半ばから後半の人達だ。

 今は活動自体もしてないから、同世代の人達は知らないし。


「ふふ、確かにそうかも。でも、私も歌いたかったからちょうどいいわ」


「おっ? そうなのか?」


「ちょっとストレスが溜まってるみたい」


「そりゃ、あんだけ猫を被ってたら疲れるわな。生徒会の仕事もあるし、委員長だし」


「貴方は楽でいいわね。私も、そっちでいけたら良かったんだけど」


「いやいや、清水の容姿じゃ無理があるだろ。眼鏡をかけてようが、可愛いのは隠せないし」


 今だって、すれ違う男達が二度見をしているし。

 眼鏡をしてることで、清楚感が増しているかもしれない。

 恐ろしい……中身は全然違うのだが。


「か、可愛い?」


「あん? 何を今更……言ってなかったか?」


「言われたことないわよ……なんなのよ、もう」


「別に言われ慣れてるだろ」


 何故、こいつは照れている?

 相変わらず、よくわからない奴だ。


「そりゃ、そうだけど……ところで、貴方も随分と変わるのね?」


「うん? ああ、この格好か。俺のじゃなくて、親父のを一式借りてきた。美優がたまにはお洒落しろってうるさくてな」


「それもあるけど、そうじゃなくて……髪型とか」


「いや、万が一知り合いに見られたら面倒だしな。こっちの姿なら、高校の奴らはわからないだろう」


「確かにわからないわね……その、似合ってると思う」


「……そいつはどうも」


 恥ずかしいやらなんやらで、全身がむず痒くなってくる。


 今日の清水は何か様子が変だな。


 ……清水が素直だと、少し調子が狂う。






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