第24話 カラオケにて

 その後、駅近くのカラオケ店に入る。


 ここまでくれば、もう人目を気にすることもない。


「わぁ……ここがカラオケ……随分と静かなのね」


「最近の防音設備は良いみたいだからな。さて、機種に何にするかなぁ……うげぇ、めちゃくちゃ新しくなってる」


「機種があるの? それは何か違いがあったりする?」


「DAMとかジョイサウンドがあるな。DAMの方は歌手の本人映像が多かったり、ジョイはアニメが多かったかと」


 といっても、俺もくるのは中学生の卒業式以来だった。

 あきとや、他数名で遊んだっけ。


「ふーん……それじゃ、DAMの方がいいってこと?」


「いや、一概にそうとは言えない。歌手によっては入ってないことも……まあ、とりあえずDAMでいいか。別に、またくれば良い話だ」


「……またきてくれるんだ」


「ほら、何やってんだ。さっさと受付に行くぞ」


「わ、わかってるわよ!」


 ひとまず、二十時までのフリータイムでドリンクバーを頼む。

 そんなに歌わないが、学生だしこっちの方が結果的に安く済むし。


「ドリンクバー?」


「……おいおい、何処のお嬢様だよ。まさか、ドリンクバーを知らないのか?」


「う、うるさいわね、名前は知ってるわよ。ただ、初めてってだけで……」


「まさか、ファミレスとかないのか?」


 今時、そんな高校生がいるのか。

 いや、そういう俺も中学生以来行ってないけど。


「……ないわよ。ほとんど、うちで食べることが多かったから」


「まあ、そういうこともあるか。ファミレス行ってると、なんだかんだでお金かかるしな。とりあえず、好きなのを飲むと良い」


「う、うん……いっぱいあるのね。うーん、どれにしようかな?」


 その様子は、まるでおもちゃ屋に来た子供だった。

 俺は何とか笑わないように口を引き締める。

 可愛いとか言ったら、確実に睨まれるし。


「時間はあるから適当でいいだろ」


「そっか、飲み放題なのよね」


「というか、学校で普段の話題とかどうしてんだ? その感じだと、あんまり出かけてもないだろ」


「うっ……そうなのよ。だから、いつも相槌を打ったり話を合わせたりしてるわ」


「あぁーなるほど。そいつは、随分と疲れることしてんなぁ」


 そんな会話をしながら、指定された部屋に入る。

 最新式の部屋らしく、綺麗だし結構広い。


「おっ、良い部屋だ。これなら寛げるな」


「そうなの? 全部同じじゃないの?」


「通される部屋によっては、狭すぎたり広すぎたりするんだよ。俺、一人カラオケ行った時に……十人が入る大部屋に通されて悲しい目にあったし」


 あの時の感情を、なんて表現すれば良いのか……元々一人できたから、寂しいってわけでもないし。

 まあ、最後には貸切みたいに楽しくなったけど。


「そ、それはきついわね。というか、一人カラオケこれるんだ?」


「まあ、いけなくはない」


「凄いわね。私はラーメン屋もいけないし、一人だと何処も入れないかも」


「まじか、俺は行こうと思えばいけるくらいか」


「いいなぁ、私もラーメン屋とか行きたい。ただ、なんか人目につくから嫌なのよ」


「そりゃ、清水が一人で来たら目立つわな。それより、ささっと歌うぞ」


 上着をハンガーにかけて、俺は奥の長いソファーに座る。

 清水は女子だし、ドリンクバー近い方が楽だしな。

 すると、何故か清水がオロオロしていた。


「どうした?」


「ど、何処に座ればいいの?」


「……ププ」


 だめだ、今度は我慢できなかった。

 完璧な女の子だと思っていたが、意外とポンコツらしい。


「わ、笑わないでよ!」


「す、すまんすまん。別に好きなところに座ったらいい。入り口近くにもソファーあるだろ」


「でも、機械の使い方とかわからないし……ここでいいかな」


「……待て待て、隣に座るんかい」


「だって、使い方とか知らないし」


「へいへい。んじゃ、サクッと入れていくか」


 操作をしてると、清水が覗き込むように身体を近づけてくる。

 その際に髪から、バスで感じた甘い香りがしてきた。

 やばい、これを嗅いでると変になる。


「あっ、このボタンは何? 採点とか書いてあるわ」


「お、おおっ、採点な」


「点数が出るってやつね、聞いたことあるわ。それじゃ、これもやってみたい」


「わ、わかったから」


 待て待て、身を乗り出して迫ってくるな……俺の腕に、お前の胸が触れているんだよ!

 なんか柔らかいし……というか、いつもより大きく見えるのは気のせいか?

 そういや、あの時触れた時も見た目より大きかったような……いかんいかん。


「何を変な顔して……っ〜!?」


「は、早く退いてくれると助かる」


「な、なんで言わないのよ!?」


「言えるかよ!」


「むぅ……別にわざとじゃないんだから」


「わかってるよ。ほら、ささっと歌うぞ」


 このままではまずいと思い、急いで曲を入れる。


 普段の言動で忘れそうになるが、こいつはとびきりの美少女だったな。


 ……カラオケは失敗だったかもしれない。







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