第14話 忘れ物と山登り
そんな苦行?を乗り越え、どうにか目的地に到着する。
1時間半あったが、実質的には二人で漫画を読んでいた。
本当に、二人とも乗り物酔いしない体質でよかった。
……あのまま聖女様状態の清水と話すのはきつい。
「ほら着いたぞー、ささっと降りろー」
「はーい」
「ここには戻って来れないから忘れ物しないようになー!」
みんながバスから降りる中、清水だけが残っていた。
というか、清水が出て行かないと俺が出れないのだが。
「お、おい? 何してんだ?」
「私は最後まで残って、忘れ物がないかチェックしないと。それで私は左側を見るから、貴方は右側を見てちょうだい」
「なんで俺が……いや、わかったよ」
「ふふ、まだまだ使えそうね」
「はぁ、借りた代償はデカかったか」
俺は仕方ないので、右側の忘れ物チェックをしていく。
そして、椅子の端っこにスマホが落ちてるのを発見する。
「おっ、この席は誰だ?」
「そこに座ってたのは小島君ね。多分、ポッケから落ちたんじゃない?」
「なるほど。というか、誰が座ってるとか知ってんのか」
「全員が座った時に確認したわよ」
「はぁ〜相変わらずすげぇな。それじゃあ、届けるのよろしく」
「いや、貴方が拾ったんだから」
「えぇ……俺、小島とか言われてもわからんし」
そもそも、クラス全員の顔と名前が一致しない。
まだ二年生になって一ヶ月も経ってないし、全然関わってないし。
というか、覚える気がしない……楽しくやってんのを見るのもアレだしな。
「ほら、あそこにいる男の子よ。髪がツンツンしてて、ちょっと制服を着崩してる人」
「……あぁー」
バスから見えるそいつは、如何にもなチャラ男というか、イキってる感じがした。
個人的には中学生まで許されるが、高校生になってもやってると……アレだな。
「露骨に嫌な顔をしないでよ。私だって、出来れば関わりたくないし……よく話し掛けてくるから。ただ、口は悪いけど心底悪い人ではないかも。一応、直接的なことはしてこないし」
「まあ、見た目で判断するのは良くないわな。仕方ない、俺が行ってくる」
清水が男を面倒に思っているのはわかってるので、そのままバスを降りていく。
そして男子とわちゃわちゃしてる、そいつの元に向かう。
「おーい、小島君?」
「あん? なんだよ?」
「これ、小島君のスマホじゃない?」
「んだよ、お前が拾ったんかよ。清水さんが拾ってくれる思ったのに」
「ダッセー、他の奴に見つかってやんの」
「うるせー、あわよくば話せるくらいにしか思ってねえし」
なるほど、そういう狙いだったのか。
そいつは悪いことをしてしまったが、こっちにも借りがあるからな。
「それはすまない。俺が見つけてしまった」
「い、いや、別に謝ることはないけどよ……逢沢って言ったけ?」
「ああ、同じクラスの逢沢優馬だよ」
「ふーん、俺は小島隆だ。聖女様と同じ班とか羨ましいぜ」
「まあ、たまたまだけど」
「……とにかく、探させて悪かったよ」
そして俺からスマホを受け取り、友達と共に去っていく。
確かに話した感じでは、そこまで悪い奴には見えなかったな。
まあ、俺も含めて……本当の顔で過ごしてない奴もいるから人のことは言えない。
そして、少し遅れて清水がバスから降りてくる。
「だ、大丈夫だった?」
「なんだ、心配してくれたのか?」
「だ、だって、あのグループはクラスでもやんちゃというか……私が頼んだことで、貴方に何かあったら困るし」
「あれくらいなら可愛いもんだよ。清水には借りもあるし……まあ、心配してくれてありがとな」
「べ、別に貴方の心配はしてないわ。妹さんから、お兄ちゃんをよろしくお願いしますってきただけだし」
「あいつめ、いつの間に。とりあえず、俺達も悟と合流するか」
俺達は並んで歩きだし、集合場所へ向かう。
そして、そのことに違和感を覚えなくなってきている自分に気づくのだった。
◇
一度、クラスごとに集合して、最終確認をする。
欠席者はいない者はなく、三十二人揃ってるようだ。
「よし、 全員揃ってるな。山登りはクラスごとに登ることになってる。クラス別で、二十分事にスタートだ。すでに前のクラスは登っているので、俺達もいくとしよう。一番前に俺、一番後ろは清水が担当してくれ。誰か怪我とか遅れてるとかあれば、渡したスマホから指定した番号にかけてくれ」
「はい、わかりました。というわけで、私達は最後尾みたいだね」
「なるほど、了解」
「うん、わかった」
「は、はい!」
つまり俺達の班が、そういう役目って事だ。
まあ、清水がいる以上仕方ないか。
それに、一番後ろなら目立たなくていいし楽だ。
そして順番に登り始める。
すると、必然的に……こうなるわな。
「でね、これがまた面白くて……」
「ふぁ〜、見てみようかなぁ」
「あの二人、仲が良いね?」
「ああ、そうみたいだな」
悟と森川さんは、本当に気があうみたいだ。
二人とも小柄だし、性格ものんびりしてるからかも。
まあ、友達としては複雑だが喜ぶとしよう。
「というか、私達も仲良くしよ?」
「ヘイトを買うから嫌です」
「もう、平気だってば。ここなら最後尾だし」
「後ろから次のクラスが来るかもしれんし。というか、悟達が前にいるし」
「まだまだ来ないから平気よ。それと普通に話してよ……あの二人も、話に夢中で全然こっちに意識向いてないし」
ふと前を見ると、俺たちのことなど眼中になさそうだった。
ずっと仲良くアニメや漫画の話をしている。
「もしかして、付き合っちゃったり? そういう雰囲気なのかな?」
「さあ? どうだろうか? そういうのは、俺には分からん」
「……そうなの?」
「自慢じゃないが、彼女なんかいたことないし。そもそも、好きってことがよくわからん」
可愛いなとか、どきっとするなとかはある。
ただ、それが好きなのかと言われると……わからない。
「そ、そうなんだ……私も実はないの」
「まあ、全部断ってるしな」
「それもあるけど……私も好きってよくわからなくて。何をもって好きってことなんだろう? だって、私を好きっていう人は容姿とか性格を見てるんだと思うんだけど……ねっ?」
「……まあ、清水の場合は色々と難しいか」
そもそも、そいつらが見てる清水が幻想ってわけだし。
それを見抜けないのもそうだが、隠してる清水の方もあれなのでどっちが悪いとかはないが。
◇
そんな会話をしつつ、山を上っていくと……お昼少し前に中継地点に到着した。
幸い、特に問題なく全員が登ることができたらしい。
「よーし、全員いるな。怪我をした奴、足が痛い奴はいないか? まだまだ先はあるから、いたらすぐに言えよー」
「先生、私が見てみますねー」
「おっ、流石は清水だ。じゃあ、女子の方を頼む。男子ともに聞いたら、仮病を使いそうだ」
「ふふ、そんなことないですって」
だが、俺は見た……男子の奴らが一瞬だけ喜び、その後肩を落としたことも。
やはり、聖女様人気は凄いらしい。
清水が女子に回る中、礼二さんが俺の方にもやってきた。
「よし、お前で最後だ……どうだ、元気にやってるか?」
「まあ、それなりに」
「そうか。亮一さんからたまに聞くが、無理はするなよ?」
「うん、ありがとう。無理をすることのヤバさは知ってるつもり」
「そうだわな。明子さんは元気か? 小言は言われると思うが、顔は出してやれ」
俺は礼二さんに言われると弱い。
身内に言われるのは、また別の感じがするから。
「……頑張る」
「ははっ、そうしな。それにしても……何やら面白いことになってるな?」
「……聖女様のこと?」
「ああ。どうやら、仲良くなったみたいだな? 個人情報なので詳しくは言えないが、あの子も色々と複雑らしい。何かあれば、力になってやってくれ」
「……礼二さんがいうなら仕方ないなぁ」
「くく、助かるぜ。それじゃ、お前もせっかくのイベントだから楽しめよ」
そういい、清水の方に確認をしに行く。
そしてすぐに話を終え、清水が戻ってきた。
「ふぅ、ただいま」
「お疲れさん」
「ありがとうー。えっと、これから班でお昼を食べてって」
「それじゃ、あの二人と合流するか」
その後、四人でブルーシートの上で昼飯を食べる。
相変わらずあの二人は仲良いし、清水はあちこちからくる生徒の相手をしていた。
俺は久々のボッチを味わいつつ、礼二さんの言葉を思い出していた。
とりあえず、母さんには顔を出さないとなぁ。
あとは清水か……薄々感づいてはいたが、あいつにも何か訳がありそうだ。
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