第103話血統主義

「エリアスは魔法だけでなく剣も凄いんだね」


 授業が終わって、コゼットさんとミラ様と談笑している。


「本当よ。エリアスの剣は昔から凄かったんだから」


 褒められるのは嬉しいが、むずがゆい

 こういう時どう返せば正解なんだろうか? 難しい。


「俺の剣は教えられたものでなく、実戦で学んだものなんだ。だから基本がわかってなくて。勉強になるよ」


 二人に俺がどうやって剣を学んだのかを説明した。

 モンスターとの戦闘。


 そして、骸骨のおじさんとの生死をかけた戦い。

 おじさん、今頃どうしてるかな。


 二人にはおじさんとのことは説明せずに、単にモンスターと戦っていたと説明した。

 おじさんが何者かわかっていないからだ。

 喋る骸骨なんて言っても信じてもらえないだろう。


 そういえば、ヴィルヘルムが連れていた魔狼は喋っていたな。

 そこらへんはつっこまないないでおこう。


 ステータスのことも説明しなかった。

 この世界でステータスが見えているのは、俺だけかもしれない。

 変に話すと、訝しく思われるかもしれないのでやめておいた。


「エリアス、わたしに剣を教えてくれないかな? 駄目?」


 コゼットさんから剣の指南を頼まれてしまった。

 俺、人にものごとを教えたことないな。

 どうしたらいいんだろう。


「さっきも言ったけど、俺の剣は我流だ。教えられることなんてないけど」


「そっか……」


 コゼットさんはうつ向いてしまった。


「けど……」


「けど?」


 コゼットさんは視線を戻す。

 期待の眼差しを向けられてしまう。

 こんなん断れんやろ。


「一緒に素振りをすることはできる。休憩時間や放課後とか」


「やった!」


「私もいいかな? エリアスと一緒にいたい……じゃなかった。一緒に練習したい」


 ミラ様からもお願いされてしまった。

 こっちも断れんやろ。


 それから俺たちは定期的に剣の練習をしている。

 場所はというと、修練場は他の生徒と鉢合わせてしまうから、男子寮と女子寮の庭、コゼットさんの家の前ですることになった。


 男子寮は女子禁制だし、女子寮は男子禁制だから、寮内に入らず庭で練習することにしたのだ。


「コゼットさんはどうして剣を?」


 俺はつい気になったので訊いてみることにした。

 何か強くならないといけない理由でもあるのだろうか。


「単に強くなりたいっていうのもあるけど、変えたいって思ったんだよ」


「変える?」


「ああ。私の家族を見たよね。私の家族だけじゃない。この国の惨状をどうにかしたいと思ったんだよ。血統主義の帝国じゃあ頑張っても出世の見込みはほとんどないけど、なにもしないよりかはね。王国の現状はどうなんだろ?」


 俺は言葉に詰まった。

 貴族生まれで甘やかされて育ったから、王国の現状なんてわからない。


 ソフィアやクリストフの方がその辺の事情には詳しいだろう。

 そういや、二人の出自については軽く聞いたことがあるが、本人たちの口から詳しく聞いたことはない。


 俺は何も知らずに生きてきたんだと思い知らされた。

 でもこれから知ることはできる。

 帝国から帰ったら色々なところを巡り、人々に話を聞いてみたい。


「良いと思うよ。俺もできる限り手伝うよ。王国の現状か……俺は貴族の屋敷で引きこもって育ったから、詳しくないんだ。勉強しておくよ」


「そっか。いいんだ。気にしないで。わたしが気になっただけだから」


 ミラ様はうつ向いている。

 彼女も思うところがあるのだろう。


「変える? ふざけんな! 調子に乗りやがって。平民風情が。この国は血統が全てなんだよ」


 辺りから忌々し気に呟く男性の声が聞こえた。

 辺りを見回しても姿はない。


 影から聞き耳を立てていたのだろう。

 俺は二人に断ってその場を後にし、声がしたであろう方向に向かうことにした。





 先ほどの声は聞き覚えはある。

 おそらくヴァレールだろう。


 声がしたであろう方向に歩いてみると、男子生徒の後姿があった。

 現在は職員室の近くにいる。


 俺は二人を尾行することにした。

 ヴァランタン先生が職員室から出てきて、人気のない場所にヴァレールを連れていった。


「ヴァレール、どうした? 剣でも魔法でも下賤な王国人に遅れをとっているではないか。家の名に泥を塗るつもりか」


「は、申し訳ございません。ヴァランタンおじ様。あの愚かな王国人に必ずや帝国の恐ろしさを見せてやります。わたしの実力はこの程度ではございません」


「ヴァレール、学校でおじ様はやめろと言っている。学校では先生と呼べ。まあ、そんなことはどうでもいい。帝国と家の名に泥を塗るな。兄上には見放されるなよ。この国にいられなくなるぞ」


「は、肝に銘じます」


 ヴァランタン先生は職員室に戻っていく。

 俺は気配を悟られないように注意している。


「クソじじいが! クソ親父が! クソ王国人が! みんな死んでしまえ!」


 随分口が悪いな。

 ストレスが溜まりまくっている様子だ。


 平民生まれのコゼットさんに悩みがあるように、貴族生まれのヴァレールにも悩みがあるわけだ。


 でも、ヴァンサン将軍や、ヴァランタン先生を恨むのは勝手だけど、俺のせいにするなよ。

 俺、何もしてない(はず)からな。

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