第101話剣術の授業

 今日は剣の授業だ。

 生徒たちは素振りをし、ヴァランタン先生はその様子を観察している。


 俺も久しぶりに剣を振る。

 そういえば、ずっと魔法の修行ばかりで、剣を握る機会がなかった。


 気持ちいい汗を流せると思い楽しみだったが、何か嫌な感覚が襲ってくる。

 何人かが俺に敵対心むき出しの視線を向けているのだ。


 ヴァレールとフランシーヌとシャルルだ。

 いや、その三人だけでない。

 他の生徒も俺に不快な視線を向け、一挙手一投足を観察している。


 奴らも王国人の実力が気になるのだろう。

 いくらでも観察するがいい。

 負ける気はしない。


 逆に俺も奴らの剣筋を観察する。

 悪くはないが、あくまでも普通の剣だ。


 実戦経験がないのだろう。

 対人戦の経験やモンスターと戦った経験がないから、脅威には感じない。


「調子に乗りやがって、クソ王国人が。さっきのは何かの間違いだろう。計測器が壊れてたんだろう。誉れ高き帝国人が、下賤な王国人に劣っているわけがない。それに俺はヴァンサン将軍の息子だ。いつでもあんなクソ王国人、帝国から追放できる。ヴァランタン叔父様に言って、学園から追放してもらうのもいい」


 ヴァレールは怒りに任せて剣を振っている。

 先ほどの授業がよっぽど気に入らなかったのだろう。


「剣術などめんどくさいですわ。わたくしは魔法さえ使えれば結構ですのに。こんなめんどうなことをしないといけないのも王国人のせいですわ。ああ、めんどくさい。わたくしの兄上はナルシス将軍ですのよ。兄上に言ってこんな授業やめさせたいですわ」


 フランシーヌはぶつくさ言いながら、めんどくさそうに素振りしている。

 剣術の授業があるのは俺のせいじゃないぞ。

 勝手に他人のせいにするな。


「計測器の故障だ。そうに決まっている。奴の魔法の実力なんて大したことがないはずだ。それに僕には剣がある。そうだシャルロット姉さま直伝の剣術があるんだ。僕の姉さまはシャルロット将軍だ。僕は強い。そうだ、僕は強いんだ。僕の姉さまはシャルロット将軍だ……」


 シャルルが何かぶつぶつと呟きながら素振りをしている。

 気味が悪いので近づきたくない。

 奴は極度のシスコンなのかな? シャルロット将軍に対するコンプレックスをひしひしと感じる。


 三人に共通するのは、いや、三人だけでなく帝国人に共通するのは、究極の血統主義。

 そして、王国人を見下すということ。


「お、おい? 王国人の剣、中々鋭くないか?」


「そうか? お前の目が節穴ではないのか?」


 俺の剣に対する意見が交わされている。

 別に奴らに褒められたくてやっているわけじゃない。


 それに、手の内を晒すわけにもいかない。

 軽く流す程度で、一割くらいの感覚で剣を振っている。


 だが、血統がすべての帝国で実力で他人を認める者もいるのも現実のようだ。

 勉強になった。面白い。


 軽く流す程度とはいえ、体を動かすのは気持ちいい。

 頭を使う魔法も楽しいが、無心で打ち込める剣も楽しい。


 素振りだけでなく、実践が恋しくなった。

 帝国の将軍は、どの程度の実力なのだろう? 一度手合わせ願いたいものだ。





 休憩時間になり、ミラ様とコゼットさんと談笑している。


「エリアス、君は剣も凄いんだね」


「別に大したことないって」


 まだまだ俺は強くなれるから、こんなところで褒められていい気になっている場合じゃない。


「エリアスは王国の武闘祭で三連覇したのよ。昔から強かったのよ」


「武闘祭? 王国の大会かな? へ~、凄いんだね。帝国でも剣を競う大会があるんだよ。エリアスがどこまでやれるか気になるな。あ、でも王国人は出れるのかな。今まで王国人が帝国に入ってこなかったからわからないや」


「そうなんだ。俺も出てみたいな。俺の剣がどこまで通用するのか気になる」


 生徒たちの剣を観察しているだけじゃ、帝国の実力はわからない。

 騎士や将軍たちの剣といったものを体感してみたい。


 それに久しぶりに大会にも出たい。

 誰かと剣を競い合うのは、心が昂る。





 教室に戻ると、生徒たちはざわついていた。

 生徒たちに広がる空気は、敵対心というより好意的だ。


「なんでシャルロット将軍が」


「きゃー、シャルロット様」


 教壇に女性がいる。

 白銀の鎧を身に纏い、美しい金髪を靡かせている。

 鋭い眼差しは、決然とした意思を宿している。


 男子生徒は、彼女の凛とした姿に目を奪われている。

 女子生徒は羨望の眼差しを向けている。


「静まれ、貴様ら。今日はシャルロット将軍が特別に貴様らに稽古をつけてくださる。では、シャルロット将軍」


「未来ある帝国の騎士たちよ。君たちはこれからの帝国を背負っていくことになる。期待しているわ。今日は学園から依頼を受けて君たちをしごきにきたわ。覚悟していなさい。何て言うのは冗談で、気負わずにやってちょうだい。ただし、遊びじゃないので真剣にね」


「シャルロット将軍にしごかれるのなら本望だぁ」


「本当、本当。素敵だわ、シャルロット様」


 シャルロット将軍は生徒たちの羨望の的だ。

 帝国では英雄的な立ち位置なのだろうか。


 彼女は生徒全員に向けて言葉を発していたが、その鋭い視線は何故か俺一人に向いていた。

 俺、何かしました?

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