第99話王国側の実力

「エリアス」


「リステアード様」


 リステアード様の後ろには、何人かの跪いた男達がいた。


「もう余は誰も跪かせないと決めたのに、こやつらが勝手にな。困ったものだ」


 跪いた男達は傷だらけになっていた。

 リステアード様も無事穏便に、帝国での学生生活を送っているようだ。


「我らはリステアード様に付いて行くと決めたのです。跪くくらい当たり前です」


「困ったものだ」


「ははは」


「ルイーサ様、素敵です~」


「ルイーサ様、かっこいい~」


「よせ、私は持てはやされるのは好きではない。ほっておいてくれないか?」


「きゃぁぁぁ! そういうクールなところも素敵~」


「突き放されても付いて行きます~」


「エリアスか……困ったものだ」


 ルイーサ様に付き従っている者たちは傷一つない。

 俺やリステアード様みたいに、穏便にいく必要すらなかったということか。


「イルザさん、自分が守ります」


「いや、俺が」


「よしてくださいまし。わたくしの身は自分で守れます」


 イルザさんも人気の様だ。


「エリアス君、もう困ったものですわ」


「はは、イルザさん、人気者だね」


「ブリュンヒルデ様~」


「ブリュンヒルデ様が魔王軍の四天王を倒したって本当ですか?」


「ああ、本当だよ」


 俺たちが帝国に来る原因を作ったブリュンヒルデ様は一番人気だ。

 彼女の武勇は帝国にまで知れ渡っている。


「どうでした? 恐ろしくありませんでしたか?」


「そうそう、物凄く強かったのではありませんか?」


「大したことなかったよ。エリアスの方が百億倍強かった」


「エリアス? どなたです?」


「ほんと、ほんと。気になります」


 ブリュンヒルデ先輩は、俺を指差した。


「この方? 素敵~!」


「きゃあああぁぁぁ! かわいいぃぃぃ!」


「げっ……ブリュンヒルデ先輩、何言ってるんですか?」


「ははは。本当のことだよ」


 俺は嫌な予感がしたので、逃げることにした。


「きゃあああぁぁぁ! 待って~、エリアス君~」






 何とか逃げ切れた。


「はは、入学早々人気者だね」


「ふう、俺は穏便に凄ししたいのに」


「そうなの? エリアスはちやほやされたくないんだ?」


「ああ、事情もあるしね」


「?」


「ああ、こっちの話」


 国王から穏便にと言われているから、俺はその約束を守らねばならない。


「調子乗ってやがるな、王国人」


 俺に絡んできたのは、金髪を逆立てたガラの悪い男だ。


「ヴァレール……」


「あ? コゼット、いつから俺を呼び捨て出来る立場になった? この平民が。いや、平民というのもおこがましいか。ふははは」


 物凄い感じの悪い男だ。

 貴族か? この国の貴族は権力を笠に着た禄でもない連中なのか? それともこいつが特別なのか?


「別に俺は調子に乗っているつもりはない。王国人が来てみんな舞い上がっているんだろう。時期が過ぎればそのうち飽きるだろう。それに、貴族とか平民とかどうでもいいだろ。この国は実力主義でなく、生まれが全てなのか?」


「生意気な奴だ。俺が貴族だと? まあそうだが、そこら辺の貴族と一緒にするな。俺の父はヴァンサン将軍だ。そして叔父はヴァランタン先生だ」


 ヴァランタン先生はこいつの叔父なのか。

 いかつい見た目は似ている気もするが、口数は全然違う様だ。


「それが?」


「なんだと?」


「父親とか、叔父の威光を借りてるだけだろ? お前の凄さが何一つ伝わってこない。お前は何か誇れることをしたのか? そうだったら謝るが」


「て……てめえ……」


 図星だったようだ。

 何も言い返してこない。


「帝国では血統がなによりも重要視されてるんですのよ。そんなことも知らないとは、これだから王国人は」


「フランシーヌ……」


 黒髪長髪の高飛車な女性は、フランシーヌという様だ。


「高貴な血統からは優秀な人間が生まれてくる。当然ではありませんこと? ちなみにわたくしの兄上はナルシス将軍ですのよ、お~ほっほっほ!」


 また将軍家の血筋の者か。

 随分傲慢だな、将軍の子供たちは。


「俺は別にそうは思わないな。そうでない人間を見てきたし」


 アルベルトは平民出身だが、俺と互角に戦えるまでに成長した。

 その方法や、戦い方は褒められたものでないとしても。


 それにエミリーも。

 彼女は独学で飛行魔法や高度な解呪を使いこなす。


 血統が全てという見方は、浅慮としかいいようがない。


「ということは、貴方は平民ですの? そのことから現実逃避するために、その様なことをおっしゃっているんですの?」


「いや、俺は公爵家だ。ディートリヒ家の人間だ。ことさらに家柄を誇示したくないが、聞かれたから答えるだけだ」


「ディ……ディートリヒ家ですって? まさか父上の名前はレオンというのでは?」


「ああ、その通りだ」


「おいおい、まじかよ……」


「レオンだって……帝国の将軍をも上回るという」


「馬鹿! それは言うな! 誰かに聞こえたら只では済まんぞ」


「ああ……済まない」


 教室内は騒然としている。

 父上の武勇は帝国まで知れ渡っており、その息子が俺だからだ。


「そんな高貴な家に生まれたのに、血統を否定するとは。全く気が知れませんわ」


「俺も血統の全てを否定しているわけではない。ただ、平民にも優秀な人間がいることを知って欲しいだけだ」


「そんな人間わたくしは知りませんわ。ねえ? コゼット?」


「わたしに言うなよ」


 平民であるコゼットさんを見下しているのが、ひしひしと伝わってくる。

 これが帝国の現実か。


「そ、そうだ……血統は全てだ。貴族に生まれた人間は偉いんだ。ぼ、僕の姉上はシャルロット将軍だぞ……」


「シャルル……」


 シャルルと呼ばれた、銀髪の気弱そうな男も俺に絡んできた。

 いい加減めんどくさくなってきた。


 帝国の血統主義というものが。


「何か証明出来ればいいんだけどな……」


「何だと?」


 その時、ガラガラと教室のドアを開ける音が聞こえた。

 ヴァランタン先生だ。


「次の授業は魔法実技だ。王国の者も、学年に関わらず皆参加してもらうことになった」


「おお、俺たちの実力を王国人に見せつける時が来たか」


「ふふ、ビビって逃げ帰るか、王国人ども、ははは」


「ははは、そうだな」


 教室内は俺たちを嘲笑する声が響いている。


「静まれ! 魔法実技棟に早々に移動するぞ」






 俺たちはヴァランタン先生に連れられ、魔法実技棟に移動してきた。


「ふふ、楽しみだね、エリアス」


「ブリュンヒルデ先輩」


 帝国の奴らは自分たちの実力に自信があるようだけど、ブリュンヒルデ先輩の魔法を見たらそんなことも言ってられないだろう。


「は!」


「やあ!」


 生徒たちは的に向って魔法を撃っている。

 それを計測する機械で計測している。


 機械技術的なものは王国より帝国が優れている。

 だからといって、帝国の方が魔法を使う力が優れているとは限らない。


「ど、どうだ。八十点だ」


 シャルルは魔法を的に放ち、八十点だった。


「ご覧あれ、八十五点ですわ」


「くっ……フランシーヌ……」


 フランシーヌは八十五点だ。

 シャルルは悔しそうだ。


「俺は九十だ、こんなもんか」


 ヴァレールは九十点だ。


「中々やりますわね、ヴァレール」


「ふん」


 ヴァレールは興味なさそうだ。


「では次は王国の者よ、頼めるか?」


「分かりました。王家の血を引くものとして者として、私が行きましょう」


 ミラ様が一番最初に行くようだ。


「くくく、楽しみだな。王国人の魔法は」


「というか、魔法使えんのか? はは」


「ははは、言ってやるな」


 帝国側は完全に俺たち王国人を見下している。

 まあ、それも直ぐにひっくり返るが。


「な……百万だと……」


「何……」


「まあ、こんなものかしら。エリアスたちはこんなものではないわよ」


 ミラ様の魔法は百万点だった。

 帝国側は驚愕している。


「三千万……五千万……八千万だと……」


 リズベット会長は三千万、リステアード様は五千万、ルイーサ様は八千万だった。


「一億だと……」


 イルザさんは一億だ。


「次はボクが行くよ」


 次はブリュンヒルデ先輩の番だ。


「おいおい、ブリュンヒルデだ……」


「ああ、魔王軍の四天王を倒した」


「どうなるんだ……?」


 帝国側は固唾を飲んでいる。

 俺もブリュンヒルデ先輩の魔法の威力は気になる。


「じゅ、十億だと……」


「機械の故障とか……?」


「でも魔王軍の四天王を倒したんだぞ? そのくらいあっても不思議じゃない」


「くっ……王国民のクセに……」


 帝国側は驚愕している。


「さあ、次はエリアスの番だよ」


「はい」


 ブリュンヒルデ先輩に促される。

 俺はブリュンヒルデ先輩との戦いから、魔力の強化に努めてきた。


 ブリュンヒルデ先輩にはまだ追いついてないと思うけど、みんなに俺の成長を見て欲しい。


「こっちも十億だと……」


「おいおい、どうなってるんだ。王国民という奴らは、脆弱という噂は嘘だったのか……」


「やるじゃん、エリアス。まさか魔力でもボクと並ぶとはね。怖い、怖い」


「はは」


「クソ! 王国民が!」


「くっ……王国民がこれほどですとは……」


「怖くない、怖くなんかないぞ、王国民……」


 帝国側に俺たちの力を示せたと思う。

 あくまでも穏便に。

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