第97話穏便な帝国生活

 俺は魔法学校に帰り、みんなに今回のことを話した。


「しばらく会えなくなるのね。寂しくなるわね……必ず、必ず無事で帰ってきなさいよ!」


「アンナさん、大袈裟だって。そんなに心配することもないって。観光気分で楽しんでくるよ、はは」


「もう、こっちは心配してるのに気楽ね」


「はは」


「エリアス君、お土産話を聞かせて欲しいわ。私は帝国の文化や戦力が気になるのよね。本当に噂は本当なのか。今後の王国の繁栄のためにもデータを沢山とってきて欲しいわ」


「ああ、ハンナさん。期待しといて」


 ハンナさんが言っていること。

 帝国は王国の戦力の五倍とも、十倍とも噂されている。


 それが本当なら、休戦中とはいえ、無視できる話ではない。


「ハリエットも帝国の技術が気になりますの」


「ハリエットさん。帰ってきたら色々話せると思う」


 あまり帝国の内情をペラペラ話すとスパイのようにも思える。

 でも国王は言っていた。


 穏便にと。

 穏便に帝国の技術や知識を、王国に齎したいと思う。


「エリアス君、行ってしまうのね?」


「ああ、エミリー。言ってくる。アルベルトの様子はどうだ?」


「寮で大人しくしている。もう変なことしないといいんだけど」


「確かに。直ぐに帰ってこれると思うから、今度は魔法試合であいつと決着つけたいな」


「エリアス君に敵う人はもういないよ」


「はは、アルベルトもまた昇りつめて来ると信じてるよ」


 あれからアルベルトには会っていない。

 魔光剣で元の状態に戻したかったが、その機会がなかった。


 もう危険なことをしないと信じたい。


「エリアス、元気でね。ちゃんと食べるのよ。寝るのよ。帝国の食べ物が口に合わないかもしれないから何か持っていく?」


「リア姉様、心配しすぎですって。でも、ありがとうございます。頑張ってきます」


「エリアス、貴方なら大丈夫。私のデータが言ってる。エリアスに敵う人間などいない。それは帝国でも一緒。存分に力を発揮してきなさい」


「レア姉様、ありがとうございます。頑張ってきます」


「エリアス、折角再会出来たのにもう行っちゃうの? また会えなくなるの?」


「フィオナ、落ち着いて。口調が戻ってる。みんなに俺たちの関係がばれる。直ぐに戻ってくるから心配しないで」


 俺はみんなに聞こえない様に、小声でフィオナに告げた。


「分かった……分かりましたわ、お兄様。お兄様のお帰りをフィオナはお待ちしています」


 みんなから激励をもらった。

 気が引き締まる。


「みんな、行ってくる! 必ず無事で帰ってくる!」


 みんなにお別れを告げた。

 でも、短い期間だ。


 穏便に楽しんで来ようと思う。





「帝国とはどんなところなのでしょう? まあ、わたくしはどんなところでも順応してみせますが」


「イルザさんらしいね。直ぐに慣れると思うよ」


 確かに帝国の情報は王国に入ってこない。

 世界でも最大の国土と、勢力を誇る国としか分からない。


 馬車の外には王国側の警備隊がいる。

 国境だ。


 交流がなかった帝国に俺は入ろうとしている。

 感慨深いものがある。






 馬車が帝国立プリュフォール学園に到着した。

 荘厳な門が目の前に広がっている。


 これから帝国での生活が始まるのか。

 学校に到着すると、事務員から色々説明があった。

 俺とミラ様は同じクラスだが、みんなは違うクラスらしい。


 全寮制で、寮の場所や施設など。

 説明が終わると、担任を紹介された。


 ヴァランタンという男は、金髪を短く切り揃えた屈強な男だ。


「こっちだ。来い」


 ヴァランタン先生は、低い声で言い放った。





「おいおい、来たぞ……」


「マジか……王国人だ」


 教室は騒然としていた。

 それもそうだろう。


 王国人を見たのはみんな初めてだから。


「静まれ! 転校生だ。エリアスとミラ。王国から来た。貴様らの席はあそこだ」


 ヴァランタン先生は淡々と言い放った。

 そして俺たちが席に着き、ホームルームが終わるとそそくさと教室から出ていった。


 随分と寡黙で、無愛想だ。

 そう感じるのは、俺の周りが騒がしすぎるだけか。


 それとも帝国人はみんなこうなのだろうか。


「よろしくね、エリアス。わたしはコゼット」


「ああ、よろしく」


 隣の席の小柄な女性から声を掛けられた。

 金髪碧眼で、人懐っこそうな女性だ。


 帝国にも優しそうな人がいて良かった。

 そう、俺が思っていると……


「弱そうだな、ははは」


「言ってやるな、はは。王国は帝国の十分の一の戦力しかないのだから」


「いや、百分の一だろ」


「いや、千分の一だろ」


「「「はははは!」」」


 辺りの者たちは、王国人である俺たちを嘲笑している。


「エリアス、気にしないで良いよ」


「ありがとう、コゼットさん」


 帝国にも良い人はいるんだな。

 そうでない人間の方が多いけど。


「おい、王国人」


 五人くらいのグループから声を掛けられた。


「ん? 俺?」


「お前以外に誰がいる! 面を貸せ!」


「ああ」


「おい、お前らやめろよ!」


 コゼットさんが、男たちを咎めた。


「大丈夫、コゼットさん。直ぐに終わる」


 俺は男たちと人気のない場所にやって来た。

 国王にはくれぐれも穏便にと釘を刺された。


 穏便に行かないとな。





「すんませんしたぁぁぁ!」


 ふう、無事に穏便に終わった。

 男たちは何故か俺の前で土下座している。


 力加減を間違えてたら、跡形もなく消し飛ばしてた。

 生きているということは、力加減を間違えなかったのだろう。


 まあ、穏便にと言われてたから、俺が何をしたとは言わないが。


 これから俺の穏便な帝国生活が始まる。

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