帝国編

第96話突然の申し出

「まだだ! まだ魔力を上げないと!」


 俺は魔力実技棟で魔法の練習をしていた。

 ブリュンヒルデ先輩には勝ったけど、魔力では負けていた。


 素早さで翻弄しただけで、真っ向から魔法を撃ちあっていたら負けていただろう。

 全学年序列一位になったことで、さらに身が引き締まる思いで魔法の練習に取り組んでいた。


「エリアス、よくやるわね。あんたに勝てる者なんてこの学校にいるわけないのに。何を焦っているんだか」


「アンナさん。誰かに負けるとかいう話でなく、俺はさらなる高みを目指しただけだ」


「ふ~ん、ストイックなのね」


「私もアンナさんの意見に賛成だわ。エリアス君はオーバーワーク気味ね。却って逆効果よ。休息も大事よ」


「そうかな? 俺はまだまだいける気がするんだけど。まあ、ちょっと休もうかな」


「わたくしも負けていられませんわ。エリアス君にはいつも感化されますわ」


「はは、良かった」


「まあ、そうね。エリアスがいることでやる気が出るのは確かね」


「それは否定できない。でも休んで欲しいのは確か」


 アルベルトのことは完全に解決したわけではないけど、放課後は図書室に行く回数が減った。

 解呪の魔法の理解が進んだので、今は勉強時間を減らしている。


 ハリエットさんとの共同研究も軌道に乗っているので、今は彼女や他の人に任せがちになっている。

 その時間を魔法の練習に充てている。


「エリアス、ちょっといいかしら?」


「はい、なんでしょう? ミラ様」


「ちょっと来て欲しいところがあるの。イルザさんも」


 ミラ様から呼び出された。

 どこに行くのだろう。





 そこは教職員質だった。

 そこにはヴァルデマー学校長と、ブリュンヒルデ先輩がいた。


「やあ、エリアス」


 ブリュンヒルデ先輩は、俺との試合でキングを賭けて負けた。

 退学するので、最後の挨拶か?


 だとしたら、悲しすぎる。


「私から君に話さなければならないことがある」


 だが、そこでヴァルデマー学校長から聞かされた話は、全く予期していないものだった。


 ブリュンヒルデ先輩は、魔法試合の規定通り退学になった。

 だが、その後魔王軍四天王を倒した彼女は、特別褒賞ということで学校に復学できることになったのである。


 退学するまでに得た単位はそのままだし、序列も全学年二位ということだった。

 実質退学していないと一緒だ。


 これまでに退学していった生徒や、保護者から批判がくるのは目にみえているが、ヴァルデマー学校長はそれを一身に引き受けるらしい。


「はは、凄い話ですね。でも、何故その話を俺に?」


「関係あるのよ。今回の話はブリュンヒルデさんなしでは語れないから」


「今回の話? ブリュンヒルデ先輩が復学する話ではないんですか?」


「詳しい話はこれから行く場所であるわ」


「?」


 どういうことだろう? 国中を上げてパレードがあるから、魔王軍の四天王が倒されたことは知っていた。


 それがブリュンヒルデ先輩の功績だということも。

 その話と俺がどう関係しているのだろう?


「どういうことだろうね、イルザさん?」


「どういうことが起ころうとも、エリアス君なら大丈夫でしょう。お~ほっほっほ」


「はは、そうだね」


 俺への信頼感半端ないな。






 学校の正門には馬車が止めてあった。

 これでどこかにいくのだろうか?


「エリアスく~ん」


「リズベット会長」


 何故リズベット会長が? 彼女も馬車に乗るのか?


「会長もですか?」


「ええ、そうよ。楽しみ~。エリアス君との初めての旅ね」


「いや、これは旅なんでしょうか?」


「そうに決まってるじゃない?」


 そうなのだろうか?


「エリアス」


「リステアード様」


 リステアード様まで。

 どういう組み合わせなんだ? そして何が起ころうとしているんだ?


「わざわざ済まぬな」


「はあ……」


 事態が分からないので、どうリアクションしていいのか分からない。


「エリアス」


「ルイーサ様」


 ルイーサ様まで。

 リステアード様、ルイーサ様、ミラ様。

 王族関係か? いや待てよ。


 俺、ブリュンヒルデ先輩、イルザさん。

 公爵御三家の人間。


 王族と公爵御の人間が集められたのか? でも、リズベット会長は?

 俺はまだ事態が飲み込めていない。


「具体的な話は父上からあるわ」


 王様から? 俺に? 全く何の話か分からない。






 俺たちは馬車で王都に向かっている。


「嬉しいなったら、嬉しいな。エリアス君と旅が出来て嬉しいな」


「おいおい、会長。遊びじゃないんだぞ?」


「いいじゃない。エリアス君と一緒の空間に入られて私はテンションが上がっているのよ」


 リズベット会長はブリュンヒルデ先輩に窘められている。

 ブリュンヒルデ先輩から窘められるなんて、余程だけど。


「まあ、ボクも嬉しいけど、ふふ」


 この緊張感のなさは何なんだ? 今から重要なことが起きるのではないのか?






 王都に到着した。

 俺たちは馬車を降り、王城に向かう。

 謁見の間に到着した。


「よく来たな、皆のもの。余から今回のことを説明させていただこう」


 王様から説明されたことは次の通りだ。

 ブリュンヒルデ先輩が魔王軍の四天王を倒したことで、人間と魔族の勢力図が入れ替わった。


 そこで王国と帝国が手を組むことになった。

 だが、休戦状態であったり、文化が違う二国だ。


 知らない者同士で、背中は預けられないだろう。


 先ずはお互いの学校の交流を図ろうという話になった。


 王国側からは、王族、公爵家の人間、そして生徒会長枠でリズベット会長。

 成績的にもこの七人は優秀だ。


 成績だけだったら、ここにアルベルトが入ってくるが、奴は現在謹慎中だ。

 今回のメンバーには入らなかった。


「突然の話で済まぬな。辞退する者はおるか?」


 誰も辞退する者はいなかった。


「皆の者、感謝する。だが、今回の交流はくれぐれも穏便にな。今回の話は王国と帝国の仲を深めるためのものだ。再度釘を刺すが、穏便にだぞ。だが、穏便といっても人それぞれだ。それぞれ穏便に過ごしつつも、王国の人間として舐められぬようにな、ふふ」


 なるほど、穏便にか。

 俺は、俺のやり方で穏便に過ごさせてもらおうと思う。

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