間章
第94話ブリュンヒルデVS魔王軍四天王
(エリアスに負けたのは悔しくなかったはずなのに、体が疼くんだよな)
ブリュンヒルデは飛行魔法で魔族領に向かっていた。
アスルーン王国と魔族領との間には国境警備がいるが、ブリュンヒルデは飛行魔法を使っているので、見つからずに魔族領に侵入できている。
彼女はエリアスに負けた後、休憩し魔力を回復させた。
といっても、全快はしていないが。
(この疼きを抑えるためには、魔族を狩るしかない)
彼女はエリアス戦でキングを賭けて負けたので、退学することが決まっている。
まだ退学してはいないが、これから正式に退学手続きに入る予定である。
エリアスに負けた疼きを抑えるために、魔族を狩ることにした。
「何だ、あれは? 人間のように見えるが」
「そんな馬鹿な。何でこんなところに人間が」
飛行していたブリュンヒルデは魔族に見つかった。
といっても、魔族はこんなところを人間が飛んでいるのを、何かの見間違い程度にしか思っていない。
(ん? あれは魔族か?)
ブリュンヒルデも魔族に気付いた。
彼女は高度を落とし、地上に降りた。
「ん? やっぱり人間か。何故こんなところに――」
「人間などいるはずがなかろう。何を言って――」
「知る必要はないよ。君たちは直ぐ死ぬんだし」
ブリュンヒルデは瞬時に魔族を殲滅した。
この攻撃で異変に気付く者達がいた。
「何だ、この異常な魔力は?」
「魔族領に闖入者か? 珍しい。遊んでやろう」
ブリュンヒルデの魔力を察知した者が、続々と刺客を送り込んできた。
「人間止まれ! これ以上は進ませぬぞ」
「人間如きが! 調子に乗りおって。 狼藉もそこまでだ!」
「ふん、消えな」
ブリュンヒルデの魔法で魔族は消滅する。
魔族は通常、闇魔法に耐性を持つ。
逆に光魔法は弱点だ。
彼女の黄金の翼を食らったら、魔族はひとたまりもない。
倒しては現われ、倒しては現われを繰り返し、ブリュンヒルデは数百万という魔族を倒した。
(これだけ倒してもエリアス程の実力者はいない。全然ボクの疼きは抑えられないよ)
ブリュンヒルデの目の前に、軽鎧を身に纏ったウェアウルフがやって来た。
「そこまでだ人間。ここからは魔王軍獣人軍団団長カマセ・イッヌ様が相手だ。今までお前が倒したのは一般兵だ。軍団長相手は初めてだろう。腕に自信はあるかもしれんが、俺はこれまでの奴らとは明らかに実力が違うぞ。覚悟しろ、人――」
「あ、悪い。話が長かったので倒しちゃった。ごめんね」
軍団長クラスでも、ブリュンヒルデの前では瞬殺だった。
その後も、ブリュンヒルデは魔王軍を倒しながら前進している。
(中々歯ごたえのある奴はいないね。このまま進んでても強い奴はいるんだろうか。まあ、最終的には魔王がいるか。流石に魔王は強いだろうね。期待外れということはないと信じたいよ)
「囲め、囲め! 数的有利で押し切れ!」
「人間よ、絶望しろ。魔族の恐ろしさを知れ!」
魔族はブリュンヒルデを囲むが、彼女の双翼の餌食になる。
「絶望を味合わせてくれよ! そんな実力もない癖に。ボクに絶望を味合わせてくれるのはエリアスだけだよ!」
「何を訳の分からないことを抜かしている。これだけの人数に囲まれても怯まないことは称賛に値する。だが、これまで――」
魔族は最後まで言い終わらずに絶命する。
ブリュンヒルデの双翼の餌食になったからだ。
ブリュンヒルデの快進撃は続いている。
(まだだ。まだ足りないよ。もっと来いよ。ボクはエリアスと戦った時の様な高揚感を味わいたいんだ)
「中々やるようだな、人間。我はヴィネ。魔王軍四天王。貴様の戦いは見させてもらった。魔王様の下へ貴様を通すわけにはいかん。いざ尋常に勝負」
ブリュンヒルデの目の前に獅子の魔族が現れた。
魔王軍の各軍団は四天王の配下だ。
四天王の上はもう魔王しかいない。
魔王軍も本気の様だ。
ヴィネは体術に自信があったが、ブリュンヒルデには当たらない。
(エリアスの動きを見たせいか、魔族の動きはどれも遅く見える)
ブリュンヒルデは双翼の連撃を叩き込む。
「ぐ……これほどとは……」
ヴィネはその場に倒れこむ。
一撃で壊滅的なダメージを受けたが、ブリュンヒルデの攻撃を食らって死ななかったのは魔族は彼が初めてだろう。
「ふふ、一撃で死ななかったか。苦しまない様に直ぐに楽にしてあげるよ」
ブリュンヒルデは双翼を振るい、ヴィネは吹き飛んだ。
(ふう、四天王でも満足できない。このまま魔王の下まで行きたいけど、もう魔力がなくなってきた。帰るしかないか。残念だな)
ブリュンヒルデが四天王の一角を落とした。
長らく続いた魔族と人間との勢力図が変わった瞬間でもある。
だが、彼女にとってはどうでもいいことだ。
彼女にとっては、エリアスと戦うことの方が大事だからだ。
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