第87話エリアスVSアルベルト

 フィオナとハリエットも、イルザやアンナたち同様孤立していた。

 だが、エミリーの助力があり、間一髪助かっている。


 エミリーの獅子奮迅の活躍で、エリアスたちはアルベルト派閥を撃退していた。


(アルベルト、もうやめて。こんなことを続けて何になるの? 私がアルベルトを止めてみせる、何としてでも)


 エミリーは悲壮な決意でアルベルトを探していた。






「アルベルト、決着の時だ!」


「貴様の死という結末でな。ふはははは、はーはっはっ」


 俺たちは魔法をぶつけ合っている。

 アルベルトの魔法試合を見てきたが、回を重ねる毎に上達している。


 前回の試合からさらに上達している。

 方法は良くないとしても、努力はしてきたのがよく分かる。


「アルベルト、努力してきたんだな。お前、言ってたもんな強くなりたいって。それが叶ったな」


「黙れ、上から目線で何様だ! 貴様はいつも上から僕を見下ろしてきた。そういうところが気に食わないんだ」


 俺の魔氷竜と魔雷竜をアルベルトは闇魔法で防ぐ。


「そうじゃない。お前のことを認めてるんだ。お前は才能がある。悪しき力に頼らなくてもお前は強くなれていた」


「黙れと言っている! 貴様に何が分かる。持たざる者の気持ちなど貴様には分かるまい。全てを持って生まれてきた貴様に!」


 アルベルトが漆黒の鎌を振るってくるが、俺は体を振って躱す。


「俺にだって持ってない物はある。お前はそれを持っている。五年前の王都で見たお前は輝いていた。純粋だった。あの時のお前を思い出してくれ」


「黙れ! 黙れ、黙れ、黙れ! あの時の僕は僕でない。あの様な脆弱だった過去など認められるわけがない。過去など捨ててきた! 僕は前に進む。どんな手段を用いてもな」


 アルベルトの攻撃がさらに苛烈になる。

 幾重にもなる漆黒の大鎌が俺目掛けて向ってくる。


 だが、その攻撃を食らうわけにはいかない。 

 俺は冷静に太刀筋を見極め躱す。


「俺はあの純粋だったお前を見習ってたんだぞ。今は強くなくてもいつか必ず強くなる。そういう想いが人を前に進ませるんじゃないのか? 人は強くなくてもいい。強くなりたいという意思が尊いんじゃないのか?」


「戯言を。人は上か下かでしか物事を見れない。上を見ては嫉妬し、下を見ては侮蔑する。人はその様な生き物だ。貴様の様な綺麗言を抜かす奴は虫唾が走る。必ず殺して黙らせてやる」


 アルベルトの攻撃が、感情の昂りともに激しくなる。

 速度は速くなったが、感情が露わになっているので読みやすくなっている。


「お前の言う様な人がこの世にいるのは否定できない。でもそうじゃない人もいる。その人たちのためにも俺は負けられない!」


 俺はみんなのことを思い浮かべていた。


 ソフィア、フィオナ、ミラ様、リア姉様、レア姉様、父上、母上、クリストフ、ルイーサ様、ナディア様、リステアード様、イルザさん、アンナさん、ハンナさん、ハリエットさん。


 そして、エミリー。


「随分恵まれた環境で育ったんだな。羨ましいよ。僕にはそんな人いなかった。誰もがそんなに恵まれている環境で育ったわけじゃないぞ! 世間知らずが!」


 アルベルトの攻撃を躱す。

 そして、魔氷竜と魔雷竜を撃つが、アルベルトの闇の障壁に防がれる。


 アルベルトは攻撃的な性格で、大鎌という印象的な武器を扱うが、奴の本来の強みは防御だ。


 変幻自在に領域を広げることで、俺の攻撃を防いでいる。


「お前にもエミリーがいるだろうが。彼女の存在は支えにならなかったのか?」


「黙れ! 貴様がエミリーの名を口にするな! エミリーは僕のだ!」


「エミリーは誰のものでもない。彼女には彼女の人生がある。誰かに支配されていいわけがない」


「黙れと言っている! 僕たちのことを何も知らないくせに。知った風な口を聞くな!」


「ああ、確かに俺はお前のこともエミリーのことも知らないのかもしれない。でも、知りたいとは思う」


「貴様などに僕たちのことを知ってほしくない! もう限界だ。貴様を殺してその口を塞いでやる」


「アルベルト、もう分かりあえないのか……俺たちはまだやり直せる余地はあると思っていたのに……」


「この期に及んでまだその様なことを……僕たちはどちらかが死ぬまで戦い続けないとならない。もちろん、貴様が死んでな。ふはははは、あーはっはっは!」


「くっ……アルベルト……」


 俺の魔法とアルベルトの魔法が鬩ぎ合い、中央で爆風が起こる。


「エリアス、その程度か? 達者なのは口だけの様だな」


「舐めるな! 魔氷竜と魔雷竜が一体ずつしか出せないと思ってるなら、大間違いだぞ!」


 俺は魔氷竜と魔雷竜の連撃を放つ。

 ルイーサ様の氷壁を崩した攻撃だ。


「ぐ……がはっ……」


 俺の攻撃を食らったアルベルトは吹き飛び、地面に落下する。


「くくっ……まだだ。僕にはこれがある!」


 アルベルトが起き上がりそう言うと、俺を漆黒の鎖が縛った。

 必ず来ると思っていたが、ここでとは。


 アルベルトの試合を何回も見たからな。

 だが、それも対策済みだ。


「デスペル!」


 俺がそう唱えると、漆黒の鎖がさらさらと砂の様に消え去った。


「な……んだと……」


「エミリーとの勉強の成果だ。俺が無策でお前との戦いに望むと思ったか?」


 まだまだエミリーよりは解呪は上手くないが、鎖から解き放つことができた。


「く……まだだ!」


 アルベルトはやけになって攻撃してくるが、もうそうなると相手にならない。

 そんなやけくその攻撃が俺に当たるわけがない。


 俺は再び、魔氷竜と魔雷竜の連撃を叩き込む。


「ぐ……がはっ……」


 アルベルトは再び吹き飛び、地面に落下する。


「う……うう……」


 アルベルトは起き上がってこようとするが、体の自由が利かないようだ。


 俺はアルベルトに向って、魔力を練る。


「くくっ……結局綺麗事を並べても止めは刺すんだな。もうこの世に未練はない。好きにしろ」


「黙れ、アルベルト。お前のことを大事に思ってくれる人がいるのに、その様なことを言うな。自らの命を軽んじることは許さんぞ」


「発言と行動が伴ってないぞ。どうせ貴様も他人の命を軽々しく奪うのだろう?」


「黙って見ていろ」


 これはクリストフとの五年間の修業の集大成。


 そして、エミリーとの呪いと解呪の勉強の成果だ。


 俺は腕を振り上げる。


「くくっ……僕の人生もここまでか。下らない人生だった」


「貴方たち、何やってるの? 止めなさい!」


 そこで、俺たちの戦いを制止する者が現れた。


 マリーヌ先生だ。



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