第86話エリアス派閥VSアルベルト派閥
アンナVSハーゲンside
「今助ける」
「ええ、ありがとう」
(アルベルト派閥が助けに入ってくれた……? どういう風の吹き回し? いえ、今は助け合う時よ。いつもは敵対しているとはいえ、今は仲間のはずよ。疑ってる場合じゃない)
だが、アルベルト派閥はアンナを助ける振りをして、その場を離脱する。
(どういうこと……? 何で助けるって言ったのに、離れていくの。それに、エリアスたちからどんどん引き離されている気がする。いえ、気がするじゃなくて、実際引き離されている)
アンナは場の異変に気付きつつあった。
自分がエリアスや仲間から引き離されて孤立していることを。
「よう、カワイ子ちゃん」
(げっ、アルベルトといつも一緒にいる蛇みたいな気持ち悪い奴……カワイ子ちゃんって、キモッ!)
ハーゲンがアンナに近寄って来た。
「何の用? 今は戦闘中よ。集中して」
「つれねえな。楽しんでいけよ、ほら」
ハーゲンはアンナに闇魔法を放った。
「ちょ……、何してんのよ……危ないわね」
アンナはその魔法を間一髪躱す。
「ちっ、躱しやがったか。なら、これはどうだ!」
ハーゲンが言うと、漆黒の鎖が出現し、アンナの四肢を縛る。
「何してんのよ! 放しなさい!」
「それは出来ねえ頼みだ。それにしてもいい眺めだな。ひゃはははは!」
「げっ、キモッ!」
「誉め言葉だ、うひゃひゃひゃひゃ! お楽しみはこれからだ!」
ハーゲンが言うと、彼の手元に漆黒の鎌が現れた。
アルベルトのものよりは小ぶりだが殺傷力は高い。
「ひゃはははは! 切り刻んでやるぜ!」
ハーゲンはアンナに切りかかろうとしている。
(くっ……、こんなところで死ぬわけにはいかない。でも、流石にヤバい。どうすれば……? 助けて、エリアス!)
「ひゃはははは!」
ハーゲンとアンナの距離は近づいている。
その時だった。
「我が主よ、力を貸したまえ。其の力を以て、かの者を忌まわしき呪縛から解き放ちたまえ。デスペル!」
何者かがそう唱えると、アンナは漆黒の鎖から解き放たれた。
「動ける!」
アンナは間一髪ハーゲンの鎌を躱した。
ハーゲンは勢い余ってこける。
「何だと!?」
「エミリー!」
アンナを鎖から解き放ったのはエミリーだった。
「大丈夫、アンナさん?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「ちっ、いいところだったのによ。なら、もう一回!」
「くっ……」
漆黒の鎖が再びアンナを縛る。
「何度やっても無駄。デスペル!」
アンナは鎖から解放される。
「何だと!?」
ハーゲンは予期しない事態に驚愕している。
「よくもやってくれたわね! 今度はあたしの番よ! ファイアブラスト!」
「ぐっ……がはっ……」
アンナの魔法を食らったハーゲンは、地面をごろごろと転がった後気絶する。
「エミリー! ありがとう!」
アンナはエミリーに駆け寄る。
「アンナさん、無事で良かった」
「エミリー、でも、どうして?」
エミリーは場の違和感にいち早く気付いた。
アルベルトと長い間過ごしたので、彼の放つ魔力が広範囲で流れ込んでいるのに気付けた。
彼女は飛行魔法で場の状況を確認しようとしていたら、ハーゲンに襲われているアンナを見つけたので助けに来た。
「飛行魔法でアンナさんを見つけたから助けに来たの。ごめん、アンナさん。私行かなくちゃ。場が思った以上に荒れている」
「ええ、気を付けてね。ありがとう」
「アンナさんも」
エミリーは仲間を助けるため飛び立った。
イルザVSフランツside
(さてさて、これはどういうことですの。わたくし、孤立してしまいましたわ。偶然というわけでもなさそうですわね。誰かさんの仕業なのでしょうか)
イルザも場の異変に気付いていた。
「イルザさん、助けます」
(先程からこればっかりですわ。助けると言っては、その場から離れて、また近づいてきて離れるを繰り返してますわ。恐らくわたくしをみなさまから離したいのでしょう。もっと早く気付けばエリアス君やみなさんと離れずに済んだものを。過ぎたことを申してもしょうがないですが)
「ええ、助かりますわ」
(わたくしが彼らの企みに気付いていることは、察知されてはなりませんわ。ここは素直に助けを求める振りをしませんと)
イルザが目前の魔王軍を見ていると、アルベルト派閥はその場を離れていく。
(貴方たちが離れていくのをわたくしは気付いていますのよ。人間の視野というものはそんなに狭くありませんわ)
イルザは横目で離れていくアルベルト派閥を捉えていた。
他の人間ならこうはいかないだろう。
目前の魔王軍に気を取られて、他の者たちまで気にする余裕はない。
大勢の魔王軍にも全く怯まないイルザだからできる芸当だろう。
「ひゃはははは! 改革、改革~!!!」
フランツがイルザの近くまで迫っていた。
(あの方はフランツさんでしたか……? フィオナさんと戦った。何故この様な場所に……?)
「ひゃはははは! イルザさん、改革の時間ですよ~!!!」
「どういう意味ですの? 今は魔王軍との戦いの最中ですよ。落ち着いてくださいまし」
「私は落ち着いてますよ~、改革は改革です! ひゃはははは!」
(話が通じませんわね。かなり精神汚染が進んでますわ。これは闇魔法の力? それとも呪いのせい?)
「行きますよ~、改革~!」
フランツはイルザに闇魔法を放つ。
イルザはそれを余裕をもって躱す。
フランツの攻撃意識が強すぎたために、相手が何をしてくるか容易に察知できたからだ。
(魔法は未熟。躱すのは問題ありませんわ。でも、この様な方と長く同じ場所にいるのは苦痛ですわ)
イルザは、フランツに著しい嫌悪感を感じていた。
(早く終わらせてみなさんと合流したいですわ)
イルザはフランツに手を翳す。
速攻で片を付けるためだ。
「ここからが本当の改革の時間ですよ~!!!」
フランツが言うと、イルザの四肢を漆黒の鎖が縛った。
(来ましたわね。フィオナさんとの試合で見せた魔法。同じ魔法をアルベルト君も使ってましたわね)
「ひゃはははは! 改革ですよ~!」
フランツは外腕に刃を生やし、イルザに迫ってくる。
「近寄らないでいただきたいですわ。わたくしに近づくと手痛い反撃が待ってますわよ」
(とは言ったものの、打つ手なしですわ。どうすれば……?)
「ひゃはははは! 反撃が怖くて改革など出来ませんよ~!」
(くっ……わたくしはこんなところで亡くなるわけにはまいりませんのに……)
イルザが目を瞑ると、誰かの声が聞こえてきた。
「我が主よ、力を貸したまえ。其の力を以て、かの者を忌まわしき呪縛から解き放ちたまえ。デスペル!」
何者かが魔法を唱えると、イルザは鎖から解放された。
「エミリーさん!」
「イルザさん、大丈夫ですか?」
「ええ、でもどうして、エミリーさんが?」
エミリーはアンナを助けた後、他の仲間を探していた。
そこで、イルザを発見し上空から降りてきたのだ。
「説明は後の方が良さそうね」
「そうですわね。先ずは目の前のことを片づけないと」
二人はフランツの方を向いた。
「反撃の時間といきますわよ!」
「ひゃはははは! そうはいきませんよ。まだまだ私の改革は終わりませんよ~!」
フランツが言うと、イルザは再び漆黒の鎖に縛られた。
「くっ……全く忌々しいですわね」
「デスペル!」
エミリーが魔法を唱えると、イルザを縛っていた鎖がさらさらと砂の様に舞い散る。
「改革?」
フランツは驚愕していた。
再び、自らの鎖が破られたことを。
「今度こそ反撃の時間ですわ! 魔氷竜!」
イルザの魔氷竜はフランツに直撃する。
「ぐ……がはっ……改革~……ばた」
フランツは地面をごろごろと転がった後、気絶した。
「助かりましたわ、エミリーさん」
「イルザさんが無事でよかった」
エミリーはイルザに現在起こっていることを説明した。
「確かにアルベルト君の派閥の方たちの様子はおかしかったですわ。そういうことでしたのね」
「私はもう行かないと」
「ええ、気を付けてエミリーさん」
「イルザさんも」
エミリーは再び仲間を助けるために飛び立つ。
そして、アルベルトを止めるために。
ハンナVSバーニーside
(何これ……? 何か変ね……? 私、孤立してる……?)
ハンナも異変に気付きつつあった。
(アルベルト派閥が私を助ける振りをして、私と皆を分断しようとしている。早く気付けば良かった)
ハンナがアルベルト派閥の企みに気付いた時には、既にハンナは孤立していた。
(他でも同じことが起こっていると見ていいわね。早くここから脱出しなきゃ)
ハンナは魔王軍に苦戦していた。
エリアスやイルザより戦闘力が劣るハンナにとって、魔王軍は強敵である。
と言うより、エリアスやイルザの方が特殊といっていいだろう。
本来魔王軍というものは、人類にとって脅威であり、そうでなければギルドに依頼も来ないだろう。
一般人より遥かに強いハンナでも、魔王軍には苦戦していた。
(鬱陶しいわね。早くここから離れたいのに)
「ハンナさん、お覚悟を。貴方には何も恨みはないですけど、アルベルト様のご命令ですから」
「……?」
バーニーがハンナに近づいてきた。
(アルベルト派閥に最近入った子ね。どうして私に近づいてきてるのかしら? それに、お覚悟? 恨み? アルベルト君の命令? まさか……?)
バーニーがハンナに向って魔法を撃つが、ハンナはバーニーの言葉から攻撃してくると察知し、彼の魔法を躱した。
「僕が魔法を撃った……? 鎖ではなく攻撃魔法を初めて人に撃った……。う……あ……」
バーニーは震えていた。
ハーゲンやフランツを漆黒の鎖で縛ったことはあるが、攻撃魔法を人に撃ったのは初めてだからだ。
元々バーニーは気が弱いのもあるし、正義感もあるので、良心の呵責に悩んでいた。
「う……あ……僕は……?」
バーニーはアルベルトの様に悪には染まれなかった。
アルベルトはシャドウが時間をかけて悪の道に引きずり込んだというのもあるが、バーニーは正義の味方に憧れていたというのもある。
現在、自らの犯した行いに疑問を持ち始めている。
「あ……あ……」
「貴方は何を恐れているの? 何を振るえているの? 何も恐れるものはないはずよ?」
普段無口なハンナが黙っていられなかった。
何かに怯えているバーニーに、憐れみや悲しみ、困惑といった感情が抑えられず、口を出さずにはいられなかったのである。
「僕が恐れているだと? ふざけるな! そんなことない!」
「そっちの方がいいわよ。目の前で震えられてるより、怒りを向けられた方がいい」
ハンナは目の前で恐怖の感情に囚われているバーニーを見るくらいなら、怒りを向けられた方がマシだと思っている。
「うあああああぁぁぁぁ!」
バーニーが叫ぶと、漆黒の鎖がハンナを縛った。
(これが漆黒の鎖ね。アルベルト君の試合で何回か見た。初めて食らったけど、何て悲しいの。彼らの悲しみが、鎖を通して伝ってくるようだわ)
バーニーはハンナに手の平を翳す。
「いいわよ、そのまま撃ってきなさい。私は死なないから」
「あああああああ!」
バーニーが叫ぶと、鎖はさらさらと砂の様に舞い散った。
「出来ないよ……出来ないんだよ……だって君は僕に何もしてないんだもの。そんな人に刃は向けられない……」
バーニーはその場にへたり込んだ。
「じゃあ、もう行っていいのね?」
「ああ……君は僕に止めを刺さないの?」
「貴方が言ったんじゃない? 何もされていない人には、何も出来ないって?」
「僕は君に酷いことをした……許されるべきじゃない……」
「貴方は何もしてないわよ。何も気にする必要はない」
「う……う……ごめんよ、ごめんよ」
その場にはバーニーの慟哭だけが響いた。
エミリーはそのころイルザを助けていたので、ハンナの下には来れなかった。
ハンナは魔王軍に苦戦しながらも、皆の下に向かっている。
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