第85話アルベルトの策略

 現在、アルベルトから魔法試合の期日の連絡を待っている。

 約束は守るという言葉を信じたい。


 今日は冒険者研修の日だ。

 学校生活はアルベルトのことだけではないので、普段の授業も受けないといけない。


 正直アルベルトのことを考えていないと言ったら嘘になるが、目の前のことに集中しなくては。


 引率はアクセル先生とマリーヌ先生である。

 マリーヌ先生が何の依頼を受けるか考えていると、男性がギルドに飛び込んできた。


「大変です、魔王軍が攻めてきました。魔法学校の方々、お力添えいただけないでしょうか?」


「お聞きの通りです。マリーヌ先生、アクセル先生、お力添えいただけないでしょうか?」


 ギルマスから正式に依頼が来た。


「そうね……アクセル、どうする?」


「受けるしかねえだろ。こんな面白えこと。何て不謹慎なこと言ってる場合じゃねえか。国民の命がかかってるんだからよ」


 アクセル先生、普段は面白いことにしか興味がないけど、まともなことも言うんだな。


「そうね、迷ってると手遅れになる。ギルマスさん、その依頼受けます」


「ありがとうございます」


「俺とマリーヌは殿を務める。エリアス、イルザ、フィオナ、アンナ、ハリエット、ハンナ、エミリーは最前線を頼めるか?」


 アクセル先生から指示が飛ぶ。


「もちろん」


「任せて下さいまし」


「もちろんです」


「任せてよ」


「ですの!」


「……」


「分かりました」


 みんなも乗り気なようだ。


「先生、私は……?」


「ミラ、お前は俺たちの近くにいろ。」


「わ……分かりました」


 ミラ様、また後方だ。

 本当は前線に行きたいのだろうか。


「それと、アルベルトとその取り巻き連中、お前らも前線を頼めるか?」


 アクセル先生はアルベルトにも前線に出て欲しいようだ。


「どうします、アルベルト様? アルベルト様にこの様な低レベルな任務似合いませんが」


「だるいっすよね、アルベルト様?」


 アルベルトの取り巻き二人は、アルベルトに意見を求める。


「ふん、まあいいだろう。フランツ、ハーゲン、バーニー、それと他の皆もやるぞ。僕たちにかかれば魔族など恐れるに足りない」


 アルベルト派閥はフランツやハーゲン、新しく入ったバーニーの他に相当な人数が所属していて、魔法学校の最大派閥になろうとしていた。


「ああ、アルベルト様、頼もしいです」


「この機会にアルベルト様の偉大さを、他の奴らに見せつけてやろうぜ」


「ふん、お前がやる気を出すとは珍しいな」


 アクセル先生はアルベルトが依頼を受けたことに驚愕している。

 確かにアルベルトは授業に積極的でないからな。


「僕はいつもやる気はありますよ。魔法試合だって結構やってるじゃないですか?」


 確かにアルベルトは、魔法試合の数だけは凄い。

 あまり見ていて気持ちの良い戦い方ではないが。


「そうだったな。期待しているぜ」


「任せて下さい」


 こんなに積極的なアルベルトは珍しい。

 何か心境の変化でもあったのだろうか。


「それ以外の奴らは俺とマリーヌの近くにいろ。無理はするな。負傷したら躊躇せず戦線を離れろ。戦闘の意思のない者は隠れててもいい」


「「はい」」


 アクセル先生から迷いのない指示が飛ぶ。

 後方はアクセル先生たちに任せておけばいいだろう。







 以前魔王軍と戦ったおかげか、前より落ち着いて戦えている。

 アルベルトも真面目に戦っている様に見える。


 だが、俺は何かの違和感を感じていた。


「ふん、エリアス。愚かな。かかったな」


「何!?」


 気付けばその場にいるのは、俺、アルベルト、魔王軍だった。

 魔王軍は問題なく倒せているが、他の皆が近くにいないのが気になった。


「勝負を受けてやると言っただろう? これがその答えだ」


「何を言っている?」


「誰が魔法試合で決着をつけると言った? これが僕の答えだ!」


 アルベルトは闇魔法を撃ってくる。

 俺はそれを躱す。


「何をしている、アルベルト? 今は魔王軍が襲ってきているんだぞ」


「そんなことはどうでもいい。今が僕たちの決着の時ではないのか?」


「今は依頼に集中しろ。こんなことをしている場合ではない」


「いや、今だ。今こそ僕たちの決着の時だ。それと気になることがないか?」


 確かに気になっていることはある。

 何故皆が近くにいない……? まさか……?


「お前の仕業か、アルベルト?」


「ご名答、流石だな。貴様の仲間は僕の仲間が分断させてもらった」


「何! くそ!」


 俺はその場を離れようとした。


「待て、どこに行く?」


「みんなを助けに行く」


「それは無理だ」


「どうして?」


「貴様が動けば戦線が崩れる。今は僕と貴様が最前線だ。貴様が動けば目の前にいる魔族が後方に雪崩れ込むぞ」


「くっ……」


 アルベルトの言っていることは間違いではない。

 現に今も、俺とアルベルトは喋りながら魔王軍を倒している。


 一体一体の強さは大したことはないが、数が多い。

 俺がここを離れると、ミラ様やアクセル先生、マリーヌ先生がいる殿に魔王軍が雪崩れ込む可能性がある。


 それは何としても避けたい。

 これも全てアルベルトの策略なのか?


「ああ、そうだよ」


「くっ……」


 アルベルトは俺の心を見透かしているかのように言い放ってきた。


「僕の仲間たちは、貴様の仲間に助けに入るように見せかけて離脱する。また助けに入るように見せかけて離脱する。これを繰り返して貴様の仲間たちを孤立させていった」


 まるで事前に準備でもしてたようなことを言う。

 まさか……?


「そうだよ、僕はこの時を待っていた。派閥のみんなには事前に僕の計画を説明していた。上手く僕の指示通り動いてくれて良かった。くくくっ。後、アクセル先生が偶然僕たちを前線に指名してくれたおかげもある。戦闘経験の少ない者は後方にいるしかないから、貴様たちの他に戦力になるのは僕たちだけだ。一人でも戦力になる者を前線に送らなければならないから、僕たちが指名されたという訳だ。まあ、先程は偶然と言ったが、アクセル先生も僕の手の平の上で踊らされていたんだよ、くくっ」


 また、アルベルトは俺の心を見透かしたように言い放ってきた。

 これじゃあ、全てアルベルトの思うが儘じゃないか。


 そんなことは許せない。

 さっさとアルベルトを倒して、みんなを助けに行かなければ。


「いいだろう、アルベルト。長い因縁に決着の時だ」


「くくっ、貴様が死んでな。ついでに貴様の仲間も死んでな。ふはははは、あーはっはっは!」


「そんなことはさせない。行くぞ、アルベルト」


「来い、エリアス。決着の時だ」


 俺は必ず勝つ。

 そして、みんなを助けに行くんだ。


 

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