第84話フィオナVSフランツ

 試合の日がやって来た。

 フィオナには心配するなと言われたが、どうしても心配になってしまう。


「お兄様、リラックス、リラックス。試合をしないお兄様がそんなに緊張してどうするんです?」


「ああ、悪い、フィオナ。自分が試合をやった方がいいよ、はは」


 俺がフィオナに心配されてるじゃないかよ。

 もっとしっかりしないと。


「じゃあ、会場入りしようか?」


「ええ」






 魔法闘技場に入った。


「うおおおぉぉぉぉ!!! 待ってましたー!!!」


「妹ちゃん、頑張って~!」


「エリアス様の妹は私たちの妹よ! さあ、応援するわよ!」


「いけいけフィオナ、ゴーゴー!」


「フィオナ~Fight! フィオナ~Yes! Gofight!」


 会場の声援はフィオナ一色だ。


「ここまで応援されるも気持ちよいものですね、お兄様」


「そうか? 俺は慣れすぎて分からないけど」


「もう、お兄様ったら」


「ふん、いい気なもんだ」


 アルベルトたちがやって来た。


「フィオナが圧勝するからな。余裕だよ」


「相変わらず癇に障る奴だ。呑気なことを言っていられるのも今のうちだぞ」


「どうかな? それより、約束は守れよ」


「ああ、そちらが勝てばな。万に一つも可能性はないが」


 何故アルベルトはこんなにフィオナを見くびっている。

 それともフランツは相当腕が立つのか?






 対戦舞台に上がる時間が来た。

 既にアクセル先生が入場している。


 二人も入場しようとしている。


「フィオナ、気を付けて」


「もう、お兄様。心配性ね」






 アクセル先生から試合の注意事項が説明されている。


「おいおい、エリアスに妹がいたのか? リアとレアという姉がいるのは知ってたが、妹とはな、初耳だぜ」


「初めまして、アクセル先生。フィオナです」


「それで、駒はどうする? というより、魔法試合のシステムは知ってるのか?」


「ええ、駒を賭けて戦うのでしたね? キングを賭けて負けたら即退学でしたわね?」


「そこまで分かってりゃ上等。フィオナは序列二十位、フランツは三十位だったな。フィオナは何の駒でもいいが、フランツはナイト以上じゃないと無理だぜ?」


 フィオナは転校生ということで、二十位スタートだ。

 フィオナが転校してきたせいでA組に落ちた生徒がいるが、実力主義の学校なのでしょうがない。


「私はポーンを賭けますわ」


「私はナイトで」


「分かった。では、始め!」


「ひゃはははは! 行きますよ~!」


「うわ、こわ」


 フランツの様子が変わった。

 表情や言動に狂気が満ちている。


 彼は外腕に漆黒の刃を纏った。


「改革、改革、改革~! ひゃはははは!」


 その刃でフィオナに斬りかかる。


「怖いな~、もう。ひょい」


 フィオナはその攻撃を能天気に躱す。


「何だと……? 私の改革が足りなかったと? まだまだ改革~! ひゃはははは!」


「何なのよ、その改革って? 気持ち悪いな~、ひょい、ひょい」


 フィオナは余裕でフランツの攻撃を躱す。

 フィオナがこんなにすばしっこかったなんて。


「私の改革が足りないだと……アルベルト様、よろしいですね?」


「ああ、構わん。行け」


 フランツがアルベルトに何らかの許可を求めた。

 アルベルトはそれを許可した。


 嫌な緊張感が漂ってくる。

 いつものアルベルトの魔法試合の雰囲気だ。


「ひゃはははは! ここからが本当の改革の時間ですよ~!」


「むっ、何これ……?」


 フランツが叫ぶと、フィオナの四肢を漆黒の鎖が縛り、体に漆黒の蛇が纏わりついた。

 あの力を使えるのは、アルベルトだけじゃなかったのか。


「わっ、気持ち悪い」


 確かに。

 鎖はともかく、蛇は気持ち悪い。


「ひゃはははは! これが改革というものですよ~!」


 フランツはフィオナに斬りかかろうとしている。


「フィオナー!」


 俺は叫んでいた。

 フィオナは動けない。


 どうすれば……? そう俺が思っていると、信じられないことが起こった。


「えい!」


 フィオナが力を込めると、漆黒の鎖はぶちっ! と千切れた。

 さらにフィオナは漆黒の蛇を自らの体から引き剥がす。


 呪縛から逃れたフィオナは余裕でフランツの攻撃を躱す。


「ぶっ……」


 勢い余ったフランツは対戦舞台と観客席を隔てている、魔法障壁に顔面をぶつけ鼻血を出す。


「改革?」


 何が起こったみたいに言うな。


「闇魔法ね。未熟よ。研鑽が足りないわね。もっと闇魔法に対する理解がないと私は縛れないわよ。闇魔法の深淵を覗いた私からするとひよっこね」


 フィオナの方がフランツより闇魔法に関しては、一回りも二回りも上だったようだ。


「うら若き乙女を縛るなんて変態の所業ね。許せないわ!」


 フィオナは鎖で縛られたことに立腹していた。


「覚悟なさい!」


 フィオナはフランツに手の平を翳す。

 その手の平からは闇魔法が迸り、フランツに直撃した。


「がっ……は……」


 フランツはドゴォ! どんがらがっしゃんと、地面を転がった。

 起き上がってこない。


「勝負あり! 勝者フィオナ」


「うおおおぉぉぉぉ!!! 妹ちゃん、スゲー!!!」


「きゃあああ! フィオナちゃ~ん」


「キャアアアアア! みなさん、ご覧になって。フィオナさんの勝利よ~!」


「流石、フィオナちゃん。エリアス君の妹なだけはある~!」


 フィオナを称える歓声が上がっている。

 フィオナが対戦舞台から降りてきた。


「いかがでした? お兄様?」


「あ、ああ、凄かった、凄かったよ、フィオナ」


 俺は安堵して涙が出そうだった。


「くっ……こんなはずでは」


 アルベルトは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「アルベルト、約束は覚えているな?」


「あ、ああ。僕は約束は違えない。期日は追って連絡する」


「ああ」


 これでアルベルトとの因縁に決着がつく。

 今度こそは逃がさない。


 何があっても。



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