第83話アルベルトが突き付けた条件

 授業が終わるとアルベルトはいつもそそくさと教室を出ていく。

 今日はそうはいかない。


「アルベルト」


「何だ? エリアス」


「もう決着をつけよう。こんなこと終わりにしよう。それとも俺が怖いのか? 俺を避けているのは」


 今までアルベルトを煽ってまで、試合に漕ぎ着けようとは思わなかった。

 でも、そんなことも言ってられない。


 これ以上アルベルトの横暴を許すわけにはいかない。

 不必要に魔法試合で相手を痛めつけたり、大勢を引き連れて周りの生徒達を怖がらせている。


「何だと……? 僕が貴様に怯えているだと? 冗談はやめろ」


「アルベルト様がてめえなんかに怯えてるわけねえだろ!」


「そうですよ、エリアス様。この世の至高の存在であるアルベルト様が貴方程度の方に怯えるわけがありません」


 アルベルトといつも一緒にいるハーゲンとフランツという男が教室の外で待っていた。

 彼らはS組ではない。


 アルベルトの授業が終わると、いつも待ち構えている。


「お前たちには関係ないだろ」


 取り巻きというだけで俺たちの因縁には関係ないので、口を出されると腹が立つ。


「何だと!」


「私たちはアルベルト様の派閥ですよ。関係ないわけがありません」


「待て、お前たち。エリアス、分かった。勝負を受けよう」


「お、おい、アルベルト様いいのかよ?」


「そうですよ、この様な輩にアルベルト様が関わる必要はないです」


「大丈夫だ、お前たち。僕は負けない」


 やっとこの時が来た。

 長い因縁に決着をつける時が。


「だが、条件がある」


「何?」


 この期に及んでまだ何かあるのか……。


「貴様の妹、フィオナといったか? その娘とフランツが戦って、その娘が勝ったら勝負を受けてやろう」


 こいつは……。

 俺の痛いところを付いてくる。


 ミラ様といい、フィオナといい。


 やっと決着を付けられると思ったけど、フィオナを危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「済まない、アルベルト。その勝負受けられ――」


「いいですわ、その勝負受けましょう」


 フィオナが俺の言葉を遮って、勝手に勝負を受けてしまった。


「お、おい、フィオナ?」


「心配には及びません、お兄様。私は魔法試合というものに興味がありましたの。華麗に勝利してみせますから、お兄様も勝ってください」


 何を考えてるんだ、フィオナは。

 能天気過ぎるだろ。


「魔法試合は遊びじゃないんだ。下手したら命を落とすこともあるんだぞ?」


「あら、私も遊びじゃありませんわ。お相手の攻撃を食らわなければ、亡くなることはないのでしょう?」


「それはそうだが……」


「決まりだな。フランツ、やれるな?」


「は! アルベルト様の命ならば喜んで」


「くっ、アルベルト、約束は守れよ!」


「ああ、その娘が勝ったらな。まあ、無理だろうが。ふはははは、はーはっはっ!」


 魔法初心者のフィオナを狙ってきやがって。

 許すわけにはいかない。






 俺はフィオナの腕を掴んで人気のないところに連れてきた。


「痛い、痛いですわ、お兄様」


「済まない。でも、何で試合を受けたんだ? 俺はフィオナが心配で……試合なんかして欲しくない」


「ふう、周りに人はいないわね。エリアス、貴方を守るためよ」


「俺を? 俺は守られるような弱い人間じゃない。フィオナは知らないかもしれないが、俺は中等部一年の序列一位だ」


「知ってるわ」


「じゃあ、どうして?」


「エリアスは怯えている」


「俺が? 何に?」


「エリアスは自分自身が傷つくことは恐れていない。でも、仲間が傷つくことを異常に恐れている。みんなはそれ程弱くないわ。ミラさんも、イルザさんも、アンナさんも、ハンナさんも、ハリエットさんも。彼女たちのことを下に見てるんじゃないの? だから必要以上に怯えている。彼女たちは自立した人たちよ。変にエリアスが守ろうとしなくても良い。自分の身は自分で守れるわ」


「痛いところを突かれたな。下に見ているというのは否定したいけど、必要以上に怯えているのは、そうかもしれない。誰かが傷つくのは怖いんだ。フィオナは短期間しかいないのに良く見てるんだな」


「エリアスのそういう優しいところが好――いえ、何でもないわ。私は負けない。見ていて、エリアス」


「ああ、フィオナ。必ず勝てよ」


「ええ、お兄様。じゃあ、参りましょうか」


「あ、ああ」


 この変わり身の早さに脱帽する。

 フィオナの能天気なところに救われてる部分があるんだよな。


 試合に勝って、また馬鹿みたいなやり取りがしたい。



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