第82話フィオナの魔法

 選択科目が終わったら、次は魔法実技の時間だ。

 選択科目と違って必修科目は中等部一年S組の教室でやるのだが、魔法実技に関しては例外で魔法実技棟で行う。


「はいはい、どんどんやろうね~、魔法は使わないと上達しないわよ」


 マリーヌ先生の言っていることは本当だ。

 魔法は使わないと上達しない。


「えい!」


「やあ!」


 生徒たちは魔法水晶に向かって、魔法を撃っている。

 成績優秀なS組といえど、魔法を習い始めたばかりだ。


 一部の例外を除いて。


「アイストルネードですわ~」


 イルザさんが魔法を詠唱すると、冷気が迸る。


「イルザさん、凄~い!」


「流石イルザさん!」


「当然ですわ」


 イルザさんはまんざらでもないようだ。


「ファイアブラスト!」


「アンナさんも凄い!」


「アンナさ~ん」


「まだまだよ、あたしはもっと強くなれる」


 アンナさん、ストイックだな。


「ロックブラスト!」


「ハンナさん、無口なのに凄~い!」


「ハンナさ~ん」


「……」


 ハンナさん、何か応えてやれよ。

 そして、魔法の詠唱は普通にやるんだな。


「サンダーブラストですの!」


「きゃあああ、ハリエットさん、可愛いのに凄ーい」


「ハリエットさん、可愛い」


 アンナさんやハンナさんは他の生徒に比べて、遥かに優秀だ。

 そのアンナさんやハンナさんよりハリエットさんは二段階や三段階上だ。


 イルザさんとも良い勝負ができるんじゃないだろうか。

 俺は見てみたい。


 魔法理論の成績が優秀なハリエットさんは、それが魔法実技に活かされている。

 魔法理論と実技は違うという意見もあるが、俺はそうは思わない。


 もちろん、理屈で解っていても体内に魔力がなければ放出できない。

 それでも一を一として放出するのか、一を十として放出するのかは理屈が大事だ。


 続いての生徒で周りが静まり返った。

 アルベルトだ。


 アルベルトはミラ様に不戦勝したことで、S組二位になっていた。

 アルベルトが闇魔法を漆黒の鎌に変えて、それを魔法水晶に振るうと空気が震えた。


「……」


「……」


 イルザさんたちみたいに、歓声は上がらなかった。

 アルベルトを恐れてどの様なリアクションをしたらいいか分からないからだ。


「ふん、こんなものか」


 アルベルトは興味なさげだ。






「じゃあ、続いてはフィオナさんね。フィオナさん、魔法は使える?」


「はい」


 フィオナは構えた。

 フィオナの魔法? 俺は嫌な予感がした。


 どんなのだったけ? 俺は原作知識をフル回転で思い出していた。

 フィオナに魔法を使わせてはいけない。


「フィオナ、やめろ!」


 俺の呼びかけは間に合わなかった。

 フィオナの魔法は闇魔法だ。


 ハーフエルフが使う。

 原作でもフィオナ闇落ちルートで、その闇魔法で世界を危機に陥れていた。


 現在は原作終盤ではないので威力は大したことはないが、他の生徒に知られたら大変だ。


「や……闇魔法……?」


「今の闇魔法よね……?」


 まずい……。

 どうしたら……?


「スゲー、流石フィオナさん!」


「そうよ、凄いわ、フィオナさん!」


「流石エリアス君の妹」


「へ?」


 俺は思わず間抜けな声を発してしまった。

 生徒たちはフィオナに駆け寄っている。


「流石フィオナさん、闇魔法が使えるなんて」


「凄いよ、フィオナさん! 流石エリアス君の妹」


「当然ですわ。まあ、お兄様なんて直ぐに超えてみせますが」


 フィオナの闇魔法は問題視されなかった。

 それどころか賞賛されていた。


 調子に乗った発言まで飛び出してるし。

 でも、許す。


 結果オーライだ。

 なるほど。


 俺はアルベルトを見た。


「?」


 奴と目が合ったので怪訝な顔をしている。

 フィオナの前がアルベルトだったので、皆の感覚が闇魔法に慣れてしまった。


 普通なら危険視される可能性もあったが、アルベルトのおかげで何もなかった。

 俺はアルベルトに歩み寄り礼を言う。


「ありがとう、アルベルト」


「何がだ? 気持ち悪い奴め」


 アルベルトは何のことか分かっていない。

 だがそれでいい。


 本来なら敵対している俺たちだが、今は感謝する


「お兄様、見てくれました?」


「ああ、見てたよ、フィオナ。凄かった」


 俺の気持ちなど知らず、フィオナは楽しそうだ。

 丸く収まったからいいが。


「次はエリアス君ね?」


 マリーヌ先生からご指名だ。


「待ってました~!」


「エリアス君~」


「きゃあああ! エリアス様~!」


「これが見たかったのよ、エリアス様~!」


「そうよ、そうよ、やっぱり大トリはエリアス様よね」


 皆の注目が俺に集まっている。

 ただの授業なのに。


 俺が魔氷竜と魔雷竜を魔法水晶に放つと、魔法水晶はガラガラと崩れ落ちた。

 本来魔法水晶は魔法を吸収するので、崩れないはずだが崩れてしまった。


 アルベルトとフィオナの魔法でも崩れなかったのに。


「う……うおおおぉぉぉぉ!!! エリアス君すげー!!!」


「魔法水晶破壊したー!!! 流石エリアス君ー!!!」


「エリアス様~、凄いですわ~!!!」


「きゃあああ、エリアス様~、素敵~!!!」


「やっぱ、エリアス君しか勝た~ん!!!」


「お兄様、凄いですわ!」


 フィオナが駆け寄ってきた。


「いや、別に普通だろ?」


「普通じゃありませんわ。やっぱりお兄様は凄いですわ~」


 先程までフィオナの魔法が危険視されることを危惧していたはずなのに、何故か今は俺が賞賛されている。


「ちっ、エリアスめ……」


 その様子をアルベルトは苦々しく見つめていた。




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