第77話シナリオブレイク(怠惰)

 ミラ様と中庭を歩いていると、リステアード様が一人で黄昏ていた。

 前は大勢の取り巻きがいたのに、今は一人だ。


「お兄様」


「ミラか……情けないところを見せてしまったな……」


「何がです? いつも通りのお兄様だと思いますが」


 ミラ様のこういうところが良いと思う。

 取り巻きに逃げられて情けないところを、妹に見られたくないであろうリステアード様。


 そのリステアード様に対していつも通りに振る舞う。

 違和感を感じさせず、当然のように振る舞う。


 中々出来ることではない。

 一人だろうが、大勢に囲まれていようが兄は兄であり、何ら変わることなどない。


「皆、余の下から離れていった。力を失ってしまった余には利用価値がなくなってしまったということなのかな……」


 たかが一試合負けたくらいで離れていく奴らは離れていけばいいと思う。

 そんな奴らは仲間じゃない。


「お兄様、私がいます。私はいつまでも離れません。ご安心ください」


「ミラ……ありがとう……」


 リステアード様の目尻と目元には涙が溜まっている。

 珍しい光景だ。


「俺もいます。安心してください」


「エリアス、ありがとう」


 リステアード様から感謝されるなんて思ってもみなかった。


「でも、出来る事なら以前の傲岸不遜なお兄様を見たいです。ふふ」


「本人の前で言うことか? はは」


 本来なら傲岸不遜なんて本人の目の前でいうのは失礼に当たるだろう。

 でも、この場面ではよかった。


 場が和んだ。


「俺も以前の傲岸不遜なリステアード様がリステアード様らしいと思いますよ。はは」


「エリアスまで。ありがとう、二人とも。余を励まそうとしてくれて」


「お兄様、もっと肩の力を抜いても良いのですよ。ミラはいつまでもお兄様の味方です。そのことを忘れないで下さい。お兄様は一人じゃないことを」


「リステアード様、一度負けたくらいなんですか? その程度のことで貴方の価値は下がりません。今はゆっくりしてください。でも、もう一度貴方が立ち上がったところが見たいです」


「あ……ああ、ありがとう。余は今一度立ち上がれる!」


 リステアード様が元気になって良かった。






「ではそろそろ参るか。休み時間も終わる」


「はい」


 俺たちが教室に戻ろうとしたら、何人かの生徒が息を切らして走ってきた。


「申し訳ございません、リステアード様。学校の課題が忙しくお傍を離れてしまいました」


「私は体調を崩しておりました。でも、それは言い訳になりません。片時もお傍を離れないと誓ったのですから」


「お前たち……余が敗北したので、余の下から去ったのではなかったのか?」


 取り巻きの人たちはリステアード様の下から去ったのではなかった。

 課題や体調不良で、やむにやまれなかった様だ。


「私はリステアード様が負けたなどと認めておりません。あの時は何かの間違いだったのです。或いは一生に一度あるかないかの奇跡が起こった。真の勝者はリステアード様只お一人です」


「私はリステアード様の下を去ろうなどと考えたことはございません。地獄の底まででも付いて行くと誓いましたから」


「お前たち……」


 リステアード様の目に生気が戻った気がする。


「お前たち、参るぞ!」


「「は!」」


 取り巻きを連れて歩くリステアード様の足取りは軽かった。



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