第73話リアVSルイーサ

 俺は本日行われる魔法試合一覧を掲示板で確認していた。

 本日の注目試合リア姉様とルイーサ様の試合だ。





 俺たちは魔法闘技場に移動した。

 間もなく試合が開始される。


「リア様、頑張って~」


「リア様、今日も美しい~」


「ルイーサ様、頑張って~」


「ルイーサ様、今日も麗しいです」


 会場の声援は五分五分である。

 二人ともかなりの人気だ。


「お姉様……」


 ミラ様は祈るように呟いている。

 複雑な心境だろう。


 俺もどちらにも負けて欲しくなく複雑だ。


 審判はマリーヌ先生で既に入場している。

 続いて選手二人が入場してくる。


「今日は大一番ね。貴方たちの試合とはね。お互い悔いの残らない様に全力を出し尽くして。駒は何を賭ける?」


「ポーンを賭けます」


「あたしもポーンよ」


 二人ともポーンか。

 序列が離れていない二人だからそれしか選択肢がないと言える。


「では、始め!」


「行くわよ!」


「来い、リア」


 先制攻撃はリア姉様だ。

 雷魔法が迸る。


 それをルイーサ様は氷壁で防ぐ。


「今度はこちらの番だ」


「かかってきなさい」


 今度はルイーサ様が氷塊を放つ。

 それをリア姉様は魔法障壁で防ぐ。


「おー、完全に互角だ」


「流石お二人、別格だ」


「勝負付くのか、この試合」


 観客からは二人は互角に見えているのだろう。

 だが、俺にはそうは見えなかった。


 余裕の表情のルイーサ様と、焦りが隠せないリア姉様。

 今まで一度も勝ったことがないから、この試合にかける思いはひとしおだろう。


 それが重荷になってリア姉様から余裕を失わせているように見える。






 二人の攻防は続き、終盤戦に入ってきた。


「はあはあ、相変わらずやるわね、ルイーサ」


「お前もな、リア。腕を上げたな」


「お世辞はいいのよ。あたしが欲しいのは勝利だけ」


 辺りの緊張感が高まってくる。

 その原因はリア姉様だ。


 リア姉様の魔力は獅子の姿に変わった。


「これがあたしの切り札、魔雷獣獅子王よ! 行くわよ、ルイーサ。あたしはエリアスの背中に追いつくって決めたんだから!」


「なるほど、これほどの力を隠し持っていたとは。途轍もない研鑽を積んだようだな、リア。だが、私も負けるわけにはいかぬ」


 リア姉様の魔雷獣獅子王はルイーサ様に向かって飛びつく。

 それは、ルイーサ様の氷の障壁を貫く。


 リア姉様の勝利かと思われたが、そうはいかなかった。

 爆風から姿を現したルイーサ様は無傷とはいかなかったが、まだまだ余裕が見て取れた。


「嘘……決まったと思ったのに……」


「中々の一撃だったぞ。だが、忘れたのか? 私には強化魔法がある。お前の魔雷獣は氷壁を貫いたが、私は咄嗟の判断で自らの魔法防御を上げることで対処した。氷壁で威力が落ちていたことで難を逃れた。そして、切り札は最後まで取っておくのだったな。切り札というのはこういうタイミングで使うものだ」


「な……」


 宙に無数の氷の鳥が飛んでいた。

 それらはリア姉様を取り囲んでいた。


「魔氷鳥だ。お前の研鑽は認めよう。だが、私も遊んでいたわけではない。エリアスの背中を追いかけているのはお前だけではないということだ」


「くっ……もう、魔力がない……あたしの負けよ、参ったわ……」


「勝負あり、勝者ルイーサ」


 ルイーサ様の勝利でこの試合は幕を閉じた。

 対戦舞台の魔法障壁が解除され、俺はリア姉様に駆け寄った。


「リア姉様、大丈夫ですか? 今すぐ回復します、ヒール」


「ありがとう、エリアス。大丈夫よ。おかげで少し楽になった」


「リア、良い試合だった。腕を上げたな」


 ルイーサ様はリア姉様に手を差し出した。

 リア姉様はその手を掴んで起き上がった。


「ったく、ちょっとは手加減しなさいよね。おかげで下がってた順位がまた下がったじゃない」


「済まない」


「ふふ、冗談よ。またやりましょう、ルイーサ」


 リア姉様は少しよろめきながら会場を後にしようとしている。


「あ……姉様」


「ほっといてやれ、エリアス。一人になりたい時もある」


 俺はリア姉様が気になったので、呼び止めようとしたが、ルイーサ様に制止された。

 確かに、敗者にかける言葉というものは難しい。


「エリアス、私の挑戦を受けてくれないか?」


「わかりました」


 別にリア姉様の敵討ちで試合を受けたわけじゃない。

 正々堂々とした試合で遺恨はない。


 二人の試合に対する想いに応えるためだ。

 それと、ルイーサ様に俺の魔法がどれだけ上達したか見せる時だ。


 あれから五年の歳月が流れた。

 俺もあの時のままじゃない。





 俺が教室に帰ろうとしていると、むせび泣く声が聞こえてきた。


「う……う……勝ちたかった……エリアスの背中に追いつきたかった……姉として良いところを見せたかった……」


 リア姉様だ。

 正々堂々全力で勝負したからといって、負けたことは悔しいだろう。


 弟に泣いている場面を見られなくないだろうし、かける言葉も見つからなかったので、ここはそっとしておくのが良いと思い、その場を去った。



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