第72話姉二人

 今日は中庭のベンチに座って姉様たちと談笑している。


「学校生活はどう? エリアス。 困ったことはない? いつでも相談に乗るわよ」


「頼りになる同級生がいて助かっていますし、楽しいです。特に困ったことはないです」


 本当はアルベルトのことがあるけど、姉様たちを巻き込むわけにはいかない。

 姉様たちがアルベルトのことをどう思っているのか気にはなるけど。


 五年前、王都に入る時アルベルトとエミリーに出会った。

 その時に姉様たちも一緒にいた。


 何故あの時姉様たちが王都に行きたがったのかは分からないが、アルベルトのことは覚えているのだろうか。


「そう。良かったわ。あんたの行動力と能力なら何も心配してないわ。でもご飯はちゃんと食べなさいよ。体調を壊したらいけないからね」


「リア姉の言う通りよ。エリアス、貴方の能力は高いわ。入試時序列一位は凄いし、ここまでランキング戦負けなしで序列一位を維持している。教師の間でもエリアスは魔法理論だけでなく、魔道具理論やそれ以外の知識でも目を見張るものがあると持ち切りよ。でも、人間は万能ではないわ。疲労や睡眠不足が重なれば体調を壊す。まあ、貴方はそこら辺のところも考えてるんでしょうけど。でも、姉として心配なのよね。こんなに優秀な弟でもね。リア姉と同じく私もいつでも相談に乗るわ」


「リア姉様、レア姉様、ありがとうございます」


 リア姉様、幼少期に俺に対して敵意むき出しだったのに、年月が経つにつれ優しくなった。

『いつでも相談に乗るわよ』なんて、リア姉様の口から聞けるとは思わなかった。


 レア姉様、昔無口だった反動か途轍もなく喋るようになった。

 リア姉様のことを、リア姉と呼んでいることも初めて知った。


 俺が序列戦負けなしを知っているということは、俺の周囲で起こっていることも気付いている可能性もある。


 姉様二人ともに言えることだが、俺の体調を気遣ってくれてありがたいことだ。

 俺は自分ことはもう喋ることはなさそうなので、姉様たちのことを訊いてみた。


「姉様たちこそどうなんですか? 学校生活は?」


「あたし? あたしはそうね……理論の方はそこまで得意じゃないから実技を頑張りたいと思っているわ。でも、最近調子を落としている。万年序列二位だし、四位まで落ちた。ルイーサには今まで一度も勝てたことはないわ。でも、いつか必ず勝ってみせる。そう思わせてくれたのはあんたのおかげよ、エリアス」


「俺の?」


「そうよ。あたしは今まで怠惰な生活を送っていたし、それに何の疑問を持たなかった。でも、あんたがダンジョンに行ったり、武闘祭で活躍してるのを見て、自分の生き方に疑問を持った。このままでいいのかって。サボってた分の遅れはあるけど、いつかあんたの背中が見えるくらいには近づきたいって思ってる」


「何を言ってるんですか。リア姉様は俺よりも優秀ですよ」


「謙遜もそこまでいくと嫌味よ。あんたの謙虚なところは見習わないといけないけど、それが誰かを気付付けるかもしれないから気をつけなさい」


「申し訳ありません。肝に銘じます」


「謝ることの程じゃないわよ。ははは」


 俺は心から言ったつもりだったが、リア姉様は気分を害したようだ。

 人間の心に疎いところが俺の弱点だな。


「レア姉様はどうですか?」


「私はリア姉と反対で、実技は苦手ね。序列を上げるのは諦めてる。挑戦されたら返り討ちに出来るくらいには鍛えてはいるけど。卒業後は魔法使いではなく、魔道具師になりたいわね」


「将来のことを考えていて偉いです」


「そうでもないわ。現実と折り合いをつけているのよ。この国では魔法使いが偉い。魔法の才能のない者は別の道に進むしかない」


「そうですか。でも誰かのお役に立てることは素晴らしいです」


「相変わらずね、エリアス」


「そうですか、はは」


「そろそろ休憩時間が終わるわね。行こうか」


「はい」


 今日は姉様たちと話せてよかった。

 姉様たちも色々な壁にぶち当たり奮闘している。


 俺も周囲に取り巻く色々な問題に取り組まないといけない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る