第69話フバード副会長

「生徒会は遊びではない。やる気のない者は退出願いたい」


 フバード副会長の辛辣な言葉だ。

 だが、俺にとっては都合がいい。


 生徒会に入る余裕がないから、これでお終いに出来る。


「では、俺はここで失礼します。お邪魔しました」


「待って、エリアス君」


 会長、まだ何かあるのだろうか。


「副会長、その言葉は聞き捨てならないわね。別にこちらも遊びではないわよ」


 さっきのやり取りは完全に遊びだった。

 俺の落ち度だ。


「別に会長に言ってるのではないのです。そちらの緊張感のない新入生たちのことです」


 確かに緊張感はない。


「彼らは私のお客様よ。彼らへの侮辱は私への侮辱と取らせてもらうわよ」


 二人は一触即発だ。

 二人というより、完全に会長が切れている。


「会長は普段からよくやってくれています。文句などありません。ですが、そちらの緊張感のない新入生たちが入ることによって、生徒会の士気が落ちないか私は危惧したまでです」


「別に落ちないわよ。その程度で落ちるような士気の持ち主なら辞めてもらっても結構よ」


「いや~、俺は副会長の仰る通りだと思うけどな」


「エリアス君は黙ってて」


 当事者の俺が何故か置いてけぼりを食らってる。


「会長の仰る通りですわ、この陰険眼鏡」


「そうよ、陰険眼鏡」


 二人とも、どうしちゃったんだ、らしくない。

 普段、こんなに口が悪くないのに。


「ちょっと、二人とも失礼だって」


「エリアスが馬鹿にされて黙っていられないわ」


「そうですわ、許せませんわ」


「ミラ様、イルザ様ともあろう方がはしたない。落ち着いていただきたい」


「そうだよ、二人とも。落ち着こう」


「君はどの立場なのかな?」


「俺は副会長の意見に賛成ですよ。生徒会に入れないですし」


「よく分からないな。君は自分が馬鹿にされているのが分からないのか?」


「いや~、俺、馬鹿だから分からないです」


「もうやめろよ、副会長」


 思わぬところから助け船? 否、逆風が吹いた。

 カイ先輩だ。


「君はエリアス君のことは認めていないものと思っていたが?」


「こいつは気に入らねえよ、あぁ、気に入らねえ。でも、見どころのあるやつだ。やる気がないなんて言葉最もこいつに似合わねえ」


「そうですよ、副会長。エリアス君は優秀だと思います」


 オティリア先輩まで。

 余計話がややこしくなってきた。


「カイ君、オティリアさんまで……」


「副会長、もう諦めたら?」


 俺以外のみんなはフバード副会長に敵意むき出しの視線を向けている。


「くっ……」


「何度も言いますけど、俺は生徒会に入りませんからね」


「そこはいいのよ、今は。みんなが腹が立っているのはエリアス君が馬鹿にされていることよ」


「そうですわ」


「そうね」


「そうよ」


「ですの!」


「……」







 何となく副会長が負けたみたいな空気になった。

 別に勝ち負けじゃないのに。


「今日はごめんなさいね、エリアス君。本当は生徒会に入って欲しかったけど、そうも言ってられない雰囲気ね。なにか生徒会に入れない事情があるみたいだし」


「まあ、はい、それは。こちらこそ、申し訳ありません」


 アルベルトのことがあるので生徒会には入れない。

 でも、アルベルトのことが解決したら生徒会に入ることも一つの選択肢に入れてもいいのかもしれない。


 今はそれを口に出さないけど、その時が来る可能性も零ではない。




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