第67話カイの魔法

 試合当日。

 魔法闘技場内の観客席は満員だ。


「キャ~、エリアス君カワイイ~」


「キャ~、エリアス君、頑張って~、応援してるわ~」


 リズベット会長、本来なら中立の立場なのに、俺に肩入れしすぎだろ。

 どこで作ったのか俺の顔と、L•O•V•Eの文字が刻まれた団扇を持っている。


「カイ様~」


「カイ君、素敵~」


 会場内の声援は五分五分だ。

 カイ先輩、人気があったのか。


 性格はともかく、見た目はいいから、見た目は。


 今日の審判はアクセル先生だ。

 先生から注意事項が説明されている。


「面白い組み合わせじゃねえか。全く予想だにしないカードだな。駒の確認の前にエリアスに説明しておくことがある」


「はい」


「魔法試合に魔杖や魔導書の持ち込みが出来るのは知っていると思うが、カイの魔道具は少々特殊でな。俺から何を使ってるか言及を避けるが、どうかと思ってな? どうと言っても、ルールで認められているから、禁止には出来ないが」


「分かりました」


 魔法試合には魔杖が持ち込めるのは知っていた。

 その他の武器に関しては、木剣のような鋭利でないものであれば持ち込める。


 ただし、斬りつけるためではなく、魔法剣の様に魔法を纏わせるための目的で持ち込みが許可されている。


 俺は反射的に切りつけそうなので、木剣の持ち込みはしていない。

 魔力を増幅できる魔杖は気になっていたが、しっくりくる物が見つからずそのままになっていた。


「それでは、駒の確認をする。カイは全学年序列十位、エリアスは百七十位、そうなってくると、エリアスの賭けられる駒は決まってくるぞ?」


「ええ、そうですね。俺はキングを賭けます」


 俺は中等部一年の序列は一位だが、全学年の方はまだ上級生と戦ったことがないので高くない。


 クイーンの駒で対戦できるのは序列差百までなので、自ずと選択肢は限られる。


「てめえ、舐めてんのかよ。キングを賭けて負けたら即退学だぜ。俺にとっては都合がいいが、見下されているようで腹立たしいぜ」


「何を言っているのですか、カイ先輩。選択肢が一つしかないのなら、それを選ばざるを得ないでしょう」


「ああ言えばこう言う、ムカつく奴だぜ、てめえは」


「カイは何の駒を賭ける?」


「ポーンしかないでしょ。こんな奴にそれ以外の駒を賭ける価値はないですよ」


「分かった、では、始め!」






 試合が始まった。


「お前みたいに努力が全てだと思っている奴に世間の厳しさを教えてやるよ」


「思ってないですけど、努力は大切だと思います」


 俺は努力で全て解決できるとは思わないけど、努力は嫌いではない。


「この世は運が全てだ!」


 カイ先輩の指にはサイコロが握られている。

 あれが彼の魔道具か。


 と言っても、俺は原作知識で知っていたが。


 サイコロは六つあり、カイ先輩はそれを転がした。

 一の目が三つ揃った。


「先ずはこんなものか。食らえ!」


 宙から炎が現われ、俺の方へ飛来してくる。

 俺はそれを余裕で躱す。


「何かしましたか?」


「な……に……躱した? まぐれか?」


 カイ先輩は魔法を避けられたことがないのだろう。

 それに魔法を躱されて驚愕しているということは、俺の試合を見たことがないということだ。


 俺としては都合が良いが。


 次は三の目が四つ揃った。

 暴風が襲ってくるがそれも難なく躱す。


「てめえはかなりの強運の持ち主の様だな。ここまで運で耐えてるとは」


 原作開始時点のカイは全ては運次第という考え方だった。

 色々な人との出会いで成長していくのだが、まだその段階までいっていない。


 次は六の目が六つ揃った。


「だがそれもここまでだ! ゾロ目が揃った!」


 火、水、風、土、氷、雷の魔法が宙に現れる。

 カイ先輩は勝利を確信している。


 避けても避けても魔法が襲ってくる。

 だが、俺は全て避けきった。


「な……なんだと……」


 カイ先輩の余裕の表情が崩れた。

 ここからは俺の番だ。


「貴方が何を信じようが勝手です。ならば、俺の信じるものをお見せします」


 最後は普通の氷魔法か雷魔法で相手を制圧して終わるつもりだった。

 でも気が変わった。


 俺の持っている実力を見せる。

 俺は魔氷竜と魔雷竜を展開する。


「な……なんだ、それは……?」


 魔氷竜と魔雷竜はカイ先輩に噛みつく。


「がはっ……」


 彼は地面に倒れこむ。


「はあはあ、リズベット会長のことは諦められない。いやだ、負けたくない。いいところを見せるんだ」


 軽薄な様に見えて、リズベット会長への想いは本物の様だ。


 だが、俺も負けるわけにはいかない。


 今はアルベルトのことや、自分のことで精一杯だ。

 生徒会に入る余裕はない。


 それに自らの教示。

 俺は再び魔氷竜と魔雷竜を展開した。


「な……まだ召喚できるのか……」


「違います」


「?」


「これは召喚魔法じゃないので、召喚という表現は違うと言っているのです。まだという言葉についても間違いです。まだまだ俺は使用できます」


 魔氷竜と魔雷竜は、飽くまで魔法を具現化したものに過ぎないので、召喚魔法ではない。

 召喚という言葉がカイ先輩の口から出たので、否定させてもらった。


 一度や二度使ったところで俺の魔力には影響がないので、そこも否定させてもらった。


「お……俺の負けだ……」


「勝負あり、勝者エリアス」


 これで俺は生徒会に入らないで済む。

 今はアルベルトのことが優先だ。


 申し訳ない気持ちもあるが、ここは譲れなかった。


 

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