第59話魔法師団団長

「エリアス様~」


 と、呼びかけてきた女性は俺の腕にしがみ付いてきた。

 二つの柔らかい感触が伝わってくる。


「お姉様、何をしてらっしゃるの? エリアス君が困っているではありませんか!」


 怒りを露わにしたのはイルザさんだ。

 イルザさんが言うように、俺は本当に困惑している。


 そして、俺の腕にしがみ付いているのが、イルザさんの姉であり、ディートリヒ家魔法師団団長イゾルダ・フォン・フェルゼンシュタインだ。


「ああ、イルザいたのね。何って愛する殿方とのスキンシップではありませんか? この様な場所でエリアス様と再会できるなんて運命ですわ。愛の力ですわ」


「まったく……何を仰っているのやら。早くその手をどかしなさい!」


 イルザさんは、イゾルダの手を掴んで放そうとしている。


「やめなさい、イルザ。わたくしとエリアス様の仲を引き裂こうとするのは」


「そう仰っているのはお姉様だけですわ。エリアス君は迷惑しています」


「そうですよ、団長。もうやめてください。部下として団長のこの様な姿、恥ずかしいです」


 クリストフの援護射撃だ。


「まあ、クリストフまで。仕方ありませんわね。今日のところはここまでにしますが、わたくしは諦めたわけではありませんから」


「クリストフ、大変だな、変な上司を持つと」


 俺は小声でクリストフに囁いた。


「ええ、全く」


「何を仰ってますの? そこ」


「「いえ、何でも」」


 俺は心底クリストフを同情した。







 俺たちは冒険者ギルドに戻ってきた。


「ありがとうございます、みなさん。助かりました」


「いえ、こちらは生徒に損害が出なくて良かったです」


 マリーヌ先生は生徒の身を預かる立場から、生徒に損害がでなくて安堵しているようだ。


「早速で申し訳ないですが、みなさんの査定を発表させていただきます。ブリュンヒルデ様大金貨五百枚、エリアス様大金貨五百枚。イルザ様大金貨四百枚、ハリエット様大金三百枚、アンナ様、ハンナ様大金貨二百枚、ヴィルヘルム様大金貨百枚、ミラ様大金貨五十枚です。ただし、冒険者登録前の功績については基本、報酬の支払いはしておりません。今回は事態も事態ですし、ギルドからの感謝を込めましてこの場で冒険者登録をしてくださるのなら今回の報酬をお支払いします」


「ふ~ん、ボクとエリアスが同額なんだ」


 ブリュンヒルデ先輩はギルドマスターに、抗議の視線を向けている。


「申し訳ございません。ですが、ギルドの査定は正確です。これが揺らげばギルドの信用は地に落ちます。どうかご納得いただけませんか?」


「ボクは納得してないわけじゃないんだよ。実際に現場にいたからね。エリアスの実力は折り紙つきだよ。エリアスの実力が想像以上だったのでビックリしちゃったんだよね。勘違いさせてごめん、ギルマス。ギルドの査定は信用してるよ。これからもよろしくね」


「ありがとうございます。ご納得いただけて幸いです」


「わたくしも登録しますわ」


「イルザ様、よろしいのですか? お父上の許可は? それに貴方のお姉様は?」


「わたくしは自立した女性ですわ。お父様の許可は必要ありません。それにお姉様も関係ありません。わたくしの意思でそうするのです」


「畏まりました。推薦して下さる方は……」


「私が推薦します。イルザさんの実力は私が太鼓判を押します」


「ボクも推薦するよ。新一年生であれだけやれるのはいないと思うよ。エリアスを除けば。お姉さんのことは気になるけど」


「ブリュンヒルデ先輩、推薦なさっていただいたことは素直に感謝いたしますけど、お姉様のことは関係ありません」


「ああ、ごめんよ」


「では、イルザ様はBランクからでよろしいですな? 他にも登録したい方はいらっしゃいますか?」


「ですの!」


「あたしもよ」


「……」


「畏まりました。みなさん、登録させていただきます」


 皆、続々と冒険者登録をした。

 仲間が増えて嬉しい。


 だが、俺には気になることがあった。


「先程の査定のリストの中にアルベルトという名前がありませんでしたが、どうたっだんでしょうか?」


「アルベルト様? 職員からの報告はありませんでしたが、調べさせましょうか?」


「いえ、大丈夫です。少し気になっただけですから」


 ブリュンヒルデ先輩が言うようにギルドの査定は正確だ。

 査定漏れはないだろう。


 何を企んでいる、アルベルト。


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