第60話友達

 俺たちは休憩時間、昨日の冒険者研修について話し合っていた。


「ブリュンヒルデ先輩、凄かったですわね」


「本当に。同じ人間とは思えないわ」


「ですの」


「……」


「私は後方だったので見られなかったけど、話を聞く限り相当凄そうね」


 皆もブリュンヒルデ先輩の圧倒的な強さに驚愕しているようだった。

 間近で見ていた俺はさらに先輩の強さを思い知らされた。


 ミラ様は後方にいたので、ブリュンヒルデ先輩の戦闘は見られなかった。


 それと気になったことがあった。


「ブリュンヒルデ先輩が強いことは俺も重々承知だけど、皆あのスピードの攻撃や動きが見えたんだ? 俺はギリギリ見えたけど」


「何を仰っていますの? エリアス君」


「そうよ、当たり前じゃない」


「ですの」


「……」


「?」


「何よ? あんた、記憶喪失にでもなった? 目よ。魔力で強化してるでしょ。魔法使いなら当たり前じゃない。あたしたち非力な魔法使いは目を強化するのが当たり前じゃない。ま、あんたみたいない非常識な素早さの奴には分からないだろうけど、目はあたしたち魔法使いには生命線じゃない」


「そうですわよ、エリアス君。油断してるんじゃないですの? 貴方の攻撃力や素早さは驚嘆に値しますけど、目を鍛えることは大事ですわよ。素早さに頼った戦いも良いですけど、目を鍛えることは基本ですわよ。まあ、エリアス君に負けたわたくしが言える立場じゃありませんが」


「いや、イルザさん、ありがとう。油断してたみたいだ。今一度気を引き締めるよ」


 油断してたわけじゃなく、知らなかった。

 魔法使いは素早さを補うため、目を魔力で鍛える。


 俺は恥ずかしくなった。

 魔法使いの中で、目を鍛えるのは常識だったのか。


 俺だけ知らなかったのか。


「大丈夫。知らなかったのよね、エリアス。恥ずかしいことじゃないわ。今のままでも十分エリアスは強い。知らないことは勉強すれば良い。ね?」


 ミラ様は俺の耳元で優しく囁いてくれた。

 少し心が落ち着いた。






 俺は次のランキング戦の対戦相手を考えていた。


「イルザさん、ランキング戦お願いできないかな?」


「何を仰っていますの? わたくしはエリアス君に負けて挑戦権を二週間剥奪されてますのよ。恨み言を申し上げているわけではありませんのよ、申し上げているわけでは。対戦を受けることは出来ますが、わたくしの方が下位ですので拒否権を行使しますわ」


「なんかごめん……」


 イルザさんは俺に負けて序列が三位に落ちていた。

 恨み事を言われてもしょうがない。


「アンナさ―――」


「断る」


「まだ何も言ってないけど……」


「ランキング戦でしょ? あんたとなんかやるわけないでしょ」


「ハリエットさん?」


「ですの」


 許可しているのか拒否しているのか分からない。


「ハンナさん?」


「……」


 こちらも分からない。


「馬鹿じゃないの? あんたとなんかやる奴がいるわけないでしょ。いるとしてもブリュンヒルデ先輩か、アルベルトとかいうやばい奴しかいないでしょ」


「やばい奴って言わないで欲しい」


「何よ? 明らかにやばい奴じゃない?」


「友達なんだ、昔からの。今はああなってしまったけど、今でも友達だと思ってる。戦いを挑まれたら叩き潰すけど、必ず元の関係に戻れると信じてる」


「わ……悪かったわ。謝る。あんたの友達を侮辱して。でも、何があったの? 明らかに普通じゃないのは事実でしょ?」


「それは言えない。アンナさんたちを巻き込むわけにはいかないから。それに俺も分かってないことが多い。解決出来たら言うよ」


「何よ、水臭いわね。困ったことがあったら言いなさいよね」


「ありがとう、アンナさん」


 俺はクラスメイトに恵まれた。

 基本一人で動いているが、困ったら頼ってもいいと言ってくれる。


 アルベルトのことはこれからも考えていかないといけない。

 そして必ず助けてやる。





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