第58話VS魔王軍獣人軍団

 攻めてきているのは獣人の軍団だ。


「ちぃ、数が多いな。広範囲魔法が使えない俺には向いてないぜ。ブリュンヒルデ、エリアス任せた」


 ヴィルヘルムは拳の岩を纏って戦うスタイルだ。

 岩を投げて攻撃することも出来るみたいだけど、広範囲魔法は出来ないみたいだ。


「分かった。エリアス、やれるね? ヴィルヘルム、マリーヌ先生、戦えそうな生徒は君たちが守って。ミラは先生とヴィルヘルムのサポート。広範囲魔法が使える子はボクとエリアスに付いてきて」


 ほとんどの生徒はギルドに残った。

 戦う意思と能力のある生徒が付いてきた。


 本来これほどの大規模戦闘に戦闘経験が乏しい生徒がついてくるのは、望ましいことではないが、非常事態だ。


 猫の手も借りたい。


 ブリュンヒルデ先輩が『一人で速攻で終わらせられる』と言っているが、一人でも戦力はいる方がいいだろう。


 俺は前線に出るので、ミラ様とは離れてしまう。


「ミラ様、お気をつけて」


「エリアスも」






 ブリュンヒルデ先輩は、その自信満々な発言と違わず圧倒的な戦闘力だった。

 一瞬で数百、数千といった魔法軍を蹴散らしている。


 俺も負けないように魔法で応戦している。


「さあ、かかっていらっしゃい、魔王軍。わたくしがお相手になって差し上げますわよ」


 イルザさんは氷魔法で魔王軍を蹴散らしている。


「フェルゼンシュタイン家の子だったかな? いいの?」


「何がですの? ブリュンヒルデ先輩?」


「君は冒険者登録してないんだろ?」


「構いませんわ。有事ですもの。そのようなこと言ってられませんわ」


「報酬出ないよ?」


「構いませんわ。わたくしの実力を先輩やエリアスにお見せできれば」


「ありがとう、イルザさん」


「礼には及びませんわ」


 イルザさんの存在はありがたい。

 実際に戦ったことがある俺が保証する。


 氷魔法以外にも雷、火、土といった魔法が魔王軍を殲滅している。


「ですの!」


「エリアス、一人でかっこつけないでよね」


「……」


 ハリエットさん、アンナさん、ハンナさんだ。


「皆、ありがとう!」


「ですの!」


「礼は終わってから」


「……」


 三人の魔法はイルザさんに負けず劣らず凄い威力だった。


 ハリエットさんは研究オタク、アンナさんはツン(デレ?)キャラ、ハンナさんは無口キャラという認識しかなかったが、ハリエットさんは序列四位、アンナさんは五位、ハンナさんは六位なので弱いわけがなかった。


 こんなにクラスメイトが頼りになるなんて思わなかった。


 俺たち六人の力で数万、数十万といった軍勢を短時間で殲滅できていた。

 特にブリュンヒルデ先輩は圧倒的だ。


 普段はボクっ娘で緊張感のない喋り方をしているが、流石全学年序列一位。

 そして、王国、魔族、帝国を含めた全戦力の中でも最強と謳われるだけある。






 まだ安堵するべきではないが、もう勝負は決したと思う。

 魔王軍の大部分の戦力は削った。


 俺たちの真正面から、タキシードを着たウェアウルフが歩を進めてきた。


「私は魔王軍獣人軍団副団長マケ・イッヌです。人間のみなさん、この程度で勝利を確信されているのですか? 甘い、甘い。私が出てきたからには簡単にはいきませんよ。これ以上の戦力が削られるのはこちらとしても望ましくない。そちらの大将と一騎打ちをしたい。いざ尋常にしょう―――」


「あ、ごめん。言い終わる前に倒しちゃったね。話が長かったから倒しちゃった」


 マケ・イッヌと名乗った獣人軍団副団長は一瞬でブリュンヒルデ先輩に倒された。

 ブリュンヒルデ先輩の攻撃は早すぎて目で追うのがやっとだった。


 俺は先輩と戦うシミュレーションを頭の中でしてみたが、全く勝てる術が見つからなかった。


 まだ先輩とは戦えないな。

 戦いたい気持ちはあるけど。


 獣人軍団はほぼ壊滅状態だったが、残った兵は撤退していった。


「みんな、深追いはしないでいいよ。今回の目的は防衛だからね」


 防衛と言いながら魔王軍の一部隊を壊滅に近い状態まで追い込むなんて恐ろしい人だ。





 国境付近には防衛隊がいた。

 その中にクリストフの姿が見えた。


「クリストフ」


「おお、エリアス様。エリアス様も防衛の任務に参加していたのですね。でも、どうして?」


「冒険者登録していたところに、魔族討伐の依頼が入ってきて、受けることにした」


「エリアス様が冒険者に? はは、らしいですね。相変わらずの行動力で」


「初めての魔族戦だったよ。まあ、ブリュンヒルデ先輩がほとんど倒したから俺の出番はなかったけど、はは。ああ、こちらはブリュンヒルデ先輩」


 俺はクリストフにブリュンヒルデ先輩を紹介した。


「お噂は予予伺っております。私はディートリヒ家魔法師団副団長クリストフでございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


「ああ、よろしくね、クリストフ。どんな噂か気になるね。ボクがほとんど倒したなんてことはないよ。エリアスの方が倒してたような……同じくらいかな」


「私の口から申し上げるのは憚られます。はは、流石エリアス様。獅子奮迅のご活躍が目に浮かびます」


「怪物ってことじゃないの?」


「ひどいな、エリアス。これでもボクは公爵令嬢なんだよ」


 そうだった。ブリュンヒルデ先輩ほど公爵令嬢という言葉が似合わない人はいない。


「クリストフ、近頃魔族の攻勢はどうなっている?」


 俺は話をはぐらかした。


「日に日に苛烈になっています。我々は死霊軍と戦っていました」


「そうなんだ。俺たちは獣人軍と戦っていた」


 我々という言葉に俺は嫌な予感がした


「エリアス様~」


「げっ……」


 あまり関わりたくない人物と遭遇してしまった。

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