第57話スライム討伐

「それじゃあ、依頼を受けるわよ。そうね、このスライム討伐を受けようかしら。いいわね? ブリュンヒルデさん? ヴィルヘルム君?」


「ああ、俺はいいぜ」


「あ……ああ……」


「どうした、ブリュンヒルデ? 体調でも悪いのか?」


「い……いや……心配させてごめん……」


 依頼は皆に見学させるために簡単なものを受けるようだ。

 ブリュンヒルデ先輩はスライムという単語を聞いた途端、様子がおかしくなった。


 何か過去にあったのだろうか? ブリュンヒルデ先輩ともあろう人が。






 討伐地点までやって来た。

 スライムが現れた。


「ひ……スライム……終わった……」


「い……いやだ……こないでー--!!!」


「お……お母さん、助けて……」


「こ……怖いよーー-!!!」


「ちょっと、みんな、落ち着いて。スライムよ。誰でも倒せるモンスターよ。私や先輩たちがいるから安全よ。これからもっと凶暴なモンスターが出てくるわ。冷静に対処できるように」


 生徒たちは初めてモンスターを見たのか、阿鼻叫喚といった感じだ。

 俺は慣れてるけど、貴族の子たちは遭遇する機会がないのか恐怖に支配されている。


 スライムはぷるぷる揺れて襲ってくる気配がない。

 可愛いもんだ。


「おいおい……大丈夫かよ……なあ、エリアス?」


「はは、まあ、皆初めてモンスターに遭遇して冷静さを失っているんだろう」


「お前は初めてであんな感じだったか?」


「いや……そんなことないけど……」


「ス……スライム……」


 生徒たちが混乱している中、ブリュンヒルデ先輩も様子がおかしかった。


「お……おい、ブリュンヒルデ、本当にどうしたんだ?」


「ブリュンヒルデ先輩……?」


「スライム……可愛い。あんなに可愛いのに倒すなんて無理だー--!!!」


「な……可愛いって、スライムだぞ」


 ヴィルヘルムは拳に土属性魔法を纏い、スライムを殴り飛ばした。


「おい、ヴィルヘルム。殺されたいのか?」


「お……おい……ブリュンヒルデ。顔がマジだぞ……」


「だってマジだから。覚悟しろヴィルヘルム!」


「落ち着いて下さい、ブリュンヒルデ先輩! 先輩だってスライムくらい倒したことあるでしょう?」


「ない。ボクは初めからオーク程度なら倒せたから」


 流石ブリュンヒルデ先輩。

 レベル1の状態で既にオーククラスを倒せていたのか。


 普通の冒険者はスライムから討伐の練習を始めるが、ブリュンヒルデ先輩はその道を通ってこなかったようだ。






 俺たちはブリュンヒルデ先輩を宥めながら冒険者ギルドに帰ってきた。


「ふー、どうだったかしら、みんな? 初めてモンスターに遭遇して怖かったと思うけど、直ぐに慣れるわ。本来なら先輩の雄姿を見て冒険者に憧れるものだけど、今日はイレギュラーというか、先輩の様子がおかしかったわね。こんなことは滅多にないから安心して。報酬の受け取りお願いできるかしら? それと報酬受け取りの説明もお願いしたいのだけど?」


 マリーヌ先生は受付の女性に報酬の受け取りと、説明をお願いした。


「畏まりました。こちらが報酬になります。冒険者の方が依頼を受けますと、ギルド職員が少し離れた場所から冒険者様の動向を観察させていただきます。報酬の査定のためです。ギルド職員が冒険者様の貢献度を査定して、報酬をお支払いします」


「ギルドの査定は正確で有名よ。査定額で文句を言って恥を搔かないようにね」


「ヴィルヘルム様、銀貨百枚でございます。エリアス様、銀貨十枚でございます。当然ですがモンスターを倒されましても、冒険者登録をされていない方には報酬はお支払い出来かねます」


 スライムはほとんどヴィルヘルムが倒したが、俺も倒した。

 その分の報酬が支払われた。


「たったこれっぽっちか。なあ、エリアス?」


「いや、嬉しいよ」


 初任給ってやつか。

 今まで家族に養われる身だったから、素直に嬉しい。


 転生前は学生だったから、本当に初めて働いた。

 これが働くということか。






「大変だ!」


「どうされたのですか?」


 切羽詰まった男性が、ギルドに飛び込んできた。


「魔王軍だ……魔王軍が攻めてきた!」


「魔王軍だと……国境の防衛はどうなっている?」


 男性の声を聞きつけたギルドマスターが奥からやって来た。


「王国軍と公爵家の防衛隊が交戦中です。ですが、数が多くギルドに応援要請を依頼しています。私はその依頼を急ぎ持ってまいりました」


「対応できる冒険者は現在どのくらいいる?」


「現在対応できるのは……」


 ギルドマスターは職員さんに対応できる冒険者がいないか確認している。


「ボクが出るよ」


「俺もだ」


「ブリュンヒルデ様、ヴィルヘルム様、助かります」


「私も出ます」


「エリアス様、よろしいのですか?」


「ええ、自分がどれだけ出来るのか知りたいですから」


「ありがとうございます」


「エリアス、楽しみだよ。君の実力が知りたかったんだよね」


「エリアス、やるぞ」


「ああ、ヴィルヘルム」


「決まったわね。指揮はブリュンヒルデさんにお願いしてもいい?」


「いいよ。僕は指揮官タイプじゃないけど。ボク一人でも速攻で終わるから」


「速攻って……百万以上の大軍勢ですよ……」


「ああ。大丈夫。その程度なら」


 ブリュンヒルデ先輩は余裕そうだ。

 この規模の戦闘は慣れているのだろうか。


 俺は初めての大規模戦闘に出る。

 そして初めての魔王軍戦。


 原作開始時点では既に大罪英雄に負け魔王軍は滅んでいたが、こんな形で対峙することになろうとは。


 本来あり得ないであろうことに俺は直面している。

 もちろん、負けるわけにはいかない。


 

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