第64話リステアード&アルベルトside

 リステアードside


 余はリステアード・フォン・アスルーン。

 アスルーン王国第二王子である。


 余がこの年まで生きて気付いたことがある。

 人は生まれで全てが決まってしまうということに。


 余より遥かに年上の人間が当たり前のように余を崇め奉る日常を送っていると、努力や研鑽などという言葉が馬鹿らしくなってくる。


 余が崇め奉られのは、余の努力ではなく父上の力と先祖代々受け継がれる王家の威光によるものだ。


 学校でも同じことだ。

 周りの人間が擦り寄ってくる。


 周りが余のことを尊敬しているのでなく、利用価値があるから近づいてくることも理解している。


 余はそれを分かったうえで、存分にそれを利用させてもらう。






 余が学校内を歩いていると、生徒たちが跪く。

 もう慣れ過ぎてしまったので、何も思うことはない。


 当たり前の日常だ。

 誰が余を崇め奉ろうが嬉しくもない。


 だが、ある日その当たり前が覆された。


 エリアス・フォン・ディートリヒ。

 レオン公爵の息子だ。


 飄々とした態度だが、余の前に跪く気は微塵もないようだ。

 レオン様が父上より遥かに優秀で、魔族や帝国からの抑止力になっているという噂話を生徒たちがしているのを余は何度か聞いている。


 そんなことは余も重々承知だ。

 王国の威光が以前より落ちたとはいえ、沈丁花は枯れても芳し。


 利用できるものは利用させてもらう。


 その当たり前だった威光が通じない者がいると知ったとき、不快感が襲ってきた。

 余の中にこの様な感情があったとは。


 エリアス、この男は退かない。

 いくら余の威光を示そうとも、この男の前では無意味。


 レオン様の名に免じてここは許そうではないか。


 だが、このアルベルトとかいう平民は許せぬ。

 身分の違いを弁えておらんのか。


 余に跪かぬばかりか、余に挑戦し勝つと世迷言を抜かしておる。

 ランキングというシステムの弊害か。


 この様な身の程知らずを生み出してしまう。

 良かろう、身の程を思い知らせてやろう。





 試合当日。

 会場は余の応援一色だ。


 心の底から余を応援している者などいないことは重々承知。

 精々楽しむが良い。


 試合が始まった。

 平民風情が闇魔法を使う? 何かの間違いか?


 余の魔法が通じないと同じく、平民の魔法も余には通じない。

 膠着状態が続くと思われたが、それが破られた。


 呪いだ。

 漆黒の鎖が余の四肢を縛っておる。


 さらには悍ましい蛇が余の体に纏わりついてくる。

 そして、大鎌を携えた骸骨。


 余の首を刎ねようと嗤っておる。


 初めて感じる死の恐怖。

 皆から崇め奉られ守られ平穏な日々を送っていたというのに、これは何だ?


 平穏な日々が永久に続くと思っていたのに、それが破られた。

 ここから逃げ出したい。


 余は許しを請うた。

 無様に。


 世の中で全てが崩れ落ちた。

 余の価値は何?


 生まれに恵まれただけで、それ以外は何も持ち合わせていない蒙昧。

 余の生きる意味は? 価値は?


 それらが頭の中に渦巻きおかしくなりそうだった。






 アルベルトside


 ミラ王女をどうやって殺そうか思案している時だった。

 エリアスたちがいた。


 ちっ、常に女を連れていいご身分だ。

 いつか奴も、女たちも殺してやる。


 さらに大人数の集団も近くまでやって来た。

 第二王子リステアードとその取り巻きだ。


 エリアスも気に食わないが、こいつも同じくらい気に入らない。

 生まれがいいだけのお坊ちゃんだ。


 そうだ、いいことを思いついた。

 こいつも殺せばいい。


 王族は皆殺しにすると決めていた。

 丁度いい。


 プライドが高そうな男だ。

 挑発すれば乗ってくるだろう。


 リステアードを挑発すると、取り巻きが絡んできた。

 こいつらには用はない。


 自分の力で何もしない、自分の頭で考えない。

 エリアスやリステアード以上に救いようのない輩だ。


 取り巻きを力で制し、リステアードとの試合まで漕ぎ着けた。





 試合当日。

 リステアードへの応援一色だ。


 どうでもいい。

 僕は人気者になりたいわけではない。


 エリアスと王家の人間を殺せればいい。

 傍観者どもは騒いでいろ。


 リステアードの魔法は正直大したことはなかった。

 これが高等部三年序列二位? 魔法学校のランキングは大したことはないな。


 奴は僕が本気を出しているとでも思っているのか。

 余裕の態度だ。


 強がりか、ただの馬鹿か。

 このままでも勝てるが、面白い余興を皆に見せてやろう。


 エリアス戦の切り札だったが、興が乗ってきた。

 これが僕の切り札、呪いの力だ。


 魔法とは理論を異にする力。

 だが、魔力を力の源にするというところは、魔法を学んで役に立っている。


 漆黒の鎖はリステアードの四肢を縛り、漆黒の蛇は奴の体に纏わりついている。

 王族の人間の顔が恐怖で青褪めているのは、この上なく痛快だ。


 奴は死の恐怖を目の前にし、命乞いをした。

 呆気なさ過ぎて興醒めだ。


 エリアスならこの程度のことで命乞いなどしないだろう。

 やっぱり僕のライバルはエリアスだ。


 その前にミラ王女を殺さなければならない。

 エリアスにこの上ない絶望を植え付けるためだ。






 ミラ王女は僕の挑戦を受けると言った。

 よし、これでエリアスに絶望を味わわせることができる。


 だが、そこからの彼女の言葉は信じられないものだった。

 不戦敗規定を使う。


 言ってる意味は分かる。

 だが、感情が追いつかない。


 これ以上ない愉悦が待っていると思ったら、それが崩れ去った。

 僕の計画が……。


 不戦敗規定などあってないものと聞いたことがある。

 相手に無条件で順位と駒を渡すなんて、面子丸つぶれだ。


 それも彼女は王族だ。

 ほとんど使われたことのない、屈辱にまみれた規定を使うなど誰が想像できるものか。


 彼女一人でこんなこと考えつくのか? エリアスの入れ知恵か?

 そんなことはどうでもいい。


 何故、エリアスといい奴らはこんなにも僕を苛つかせる。

 僕の計画通りにいかない。


 ミラ王女は殺せなかったが、エリアス、貴様は必ず殺す。



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