第63話ミラの戦い方

「アルベルト、ミラへの挑戦はやめろ。私が相手になる」


 ルイーサ様はミラ様の代わりにアルベルトの挑戦を受けるつもりだ。


「ルイーサ王女、貴方とは戦うつもりはありません。僕はミラ様王女を切り刻みたいのです。常に周りから守られているお姫様をね。あははははは、あーはっはっはっ!」


「貴様ー!」


「お姉様、やめてください」


 ルイーサ様はアルベルトに殴りかかりそうな勢いだったが、ミラ様はそれを制止した。


「アルベルト、分かりました。その挑戦受けましょう」


「ミラ様!」


「ミラ!」


「本当ですか? 嬉しいな~。お姫様を切り刻めるのは気持ちいいだろうな」


「勘違いしないで、アルベルト。私は不戦敗の規定を使うわ」


「は? 今、挑戦を受けるって……」


「不戦敗の規定は実際に戦闘は行わないけど、公式記録に勝ち負けがつくわ。順位も駒も相手に差し出すし。駒はポーンを差し出すわ」


 不戦敗規定。


 ・不戦敗(不戦勝)の規定がある。(上位者が挑戦を申し込んできた下位者を自分より強いと判断した場合の、実際の対戦を避ける規定である。無用な損害を避けるためである。上位者は挑戦を申し込んできた下位者に順位を明け渡し、駒を明け渡す。実際の対戦は行わないが、公式記録には残る。不戦敗者は通常の敗者と同様に二週間の挑戦権を剥奪される)


 挑戦は受けるが、実際の戦闘を省略する規定。

 無用な損害を避けるための規定だ。


 対戦相手が危険だと判断した場合、順位と駒を差し出して自らの身を守る最終防衛策だ。

 順位と駒を相手に差し出すのは、最終的な方法なので、生徒たちは採用したくない方法だろう。


「ふざけるな! 戦え! 規定を盾に逃げるのか!」


「逃げてないわ。順位と駒を差し出すのよ。軽々しく出来る方法ではないわ。これが私の戦い方よ。強さが全てではないわ。頭を使った方法もあることを覚えておくことね」


「何が起こっている……こんなことが許されるのか……」


「アルベルト、諦めろ、お前の負けだ。ミラ様の仰る通り強さが全てではない。今回の規定だけでなく、社会に出れば法律問題にぶち当たることもある。いつまでも自分の思う通りに行くと思うな」


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなー!」


「諦めろ。順位と駒が手に入るんだ。本来なら喜ぶべきことだろ。ここは受け入れるしかないぞ。それとも俺と戦うか? 受けて立つぞ。まだ俺の方が序列は上だ。俺は不戦敗規定は使わないから安心してかかってこい」


「ふざけるな! そんな安い挑発にのるか! 貴様は最後だと言ってるだろうが。貴様には大事な人間が殺されていくのを見せつけ、絶望感を味わわせてから殺してやる。それまではお預けだ」


「アルベルト、もうやめて……」


「エミリー、なんで分かってくれない……」


「分かるわけないでしょ……元のアルベルトに戻ってよ……」


 エミリーの悲痛な願いもアルベルトには届かない。


「ちっ、興冷めだ。帰る」


 アルベルトは帰ろうとしている。

 俺は伝えたいことがあった。


「アルベルト、よろしくな」


「は?」


「今度からクラスメイトになるだろ? これから一緒のクラスになるからよろしくと言っている」


 アルベルトはミラ様に不戦勝したことで序列が二位になった。

 俺がイルザさんに勝ったことでミラ様は二位に繰り上がっていた。


 そのミラ様にアルベルトが不戦勝したことで、序列が二位になった。


「ふん、忌々しい男だ。そんなことで僕が喜ぶか」


「いつでも挑戦は受け付けるぞ。かかってこい」


「話を聞かない男だ。貴様は最後だと言っているのに。いつか必ず殺してやるから楽しみにしていろ」


 これからはアルベルトがすぐ近くにいることになる。

 必ず解決策を見つけてみせる。



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