第62話アルベルトVSリステアード

 今日の注目の試合はもちろん、アルベルトとリステアード様の試合だ。

 魔法闘技場の観客席は満員だ。


 今日の審判はマリーヌ先生はで、既に対戦舞台に入場している。

 続いて二人が入場する。


 対戦舞台と観客席に魔法障壁が展開されている。


「キャー、リステアード様、頑張って下さーい」


「リステアード様~、愛してま~す」


「一年、負けろ~」


「身の程知らず~、下がれ~」


 観客席はリステアード様の声援とアルベルトへのブーイングで占められている。

 アルベルトへの声援はないが、エミリーは目を瞑って祈っている。


 既にマリーヌ先生から試合の注意事項が説明されている。


「高等部三年序列二位と、中等部新入生序列九十九位が戦うなんて前代未聞ね。学年が違う場合全学年ランキングと高等部ランキングと中等部ランキングが戦闘の結果変動するわね。今回は学年が違うだけでなく、高等部と中等部の試合なので全学年ランキングが変動だけね。リステアード君が勝ったら変動しないけど。駒はどうするの?」


「余はポーンを賭ける」


「僕はキングだ」


「相変わらずそうくるのね。もう二回目だから分かっていると思うけど、負けたら即退学よ。いいのね?」


「もちろん。世間知らずのお坊ちゃんはどうなのかな?」


「余は安っぽい挑発には乗らん。もちろん、貴様ごときには負けんが、世のキングは貴様ごときに賭ける程安くはない」


「ふん、いいさ。どうせ殺すんだし、退学とかはどうでもいい」


「相変わらず腹立たしい奴だ。身の程を教えてやる」


「では、始め!」






 アルベルトは自らの周囲を闇魔法で守っている。

 リステアード様は氷塊をアルベルトに向って放つ。


「ふん、その程度か」


「この程度が全力なわけがなかろう。実力差も分からぬのか、身の程知らずが」


 リステアード様は掌だけでなく、空中から数十、数百と氷塊を放っている。

 だが、アルベルトの防御を崩すことは出来ない。


「やっぱり大したことないな。拍子抜けだ。今度はこちらの番だな」


「いくらでも来い。受けてたとう」


 アルベルトは闇魔法の領域を広げている。

 リステアード様は氷壁を展開し守っている。


 アルベルトの闇魔法はリステアード様の氷壁を崩すことな出来ない。


「むっ……これはどうしたことだ?」


 アルベルトの様子がおかしい。


「弱体魔法も知らぬのか? 下賤な平民め」


「いや、そうじゃなくて。王族ともあろう者が弱体魔法で他人を弱くしないと戦えないのかなって。滑稽だな」


「貴様ー、リステアード様に謝れー!」


「ふざけんなー!」


「黙れー!」


 観客席のリステアード派閥からはブーイングが飛んでいる。


「ふん、防御はそこそこだな。では、貴様の弱体魔法のお返しに珍しいものをお見せしよう」


「貴様に褒められても嬉しくはない。貴様に付き合うのももう飽きた。そろそろ終わりだ」


「そうだね。貴様の死という結末で」


 会場内は緊張感が高まっている。


「お、おい、なんか変じゃないか?」


「え? 何が?」


「気持ち悪い……外に出たい」


「どうしたの? 大丈夫?」


 異変に気付いている者が何人かいる。


「良からぬことが起きようとしてますわね。気が抜けませんわ」


「そうね。とても嫌な感じがする」


 イルザさんとミラ様は異変に気付いている。


「さあ、終わりだ。覚悟しろ!」


 アルベルトが言うと、リステアード様の四肢は漆黒の鎖で繋がれた。

 さらに体に漆黒の蛇が纏わりついている。


「な……なんだ……これは?」


「呪いね?」


「ご名答、マリーヌ先生。呪いは魔法とは違うから違反にしますか? 無駄ですよ。ランキング戦規定は何度も読みこみました。呪いが反則という規定はありませんでした。書いてないということは反則にも出来ないはずです」


「くっ……どうしたら……」


 マリーヌ先生は前代未聞の事態にこの場面をどう判断したらいいのか逡巡している。


「マリーヌ先生、試合を続けて下さい。規定に反則と書いてない以上、反則負けには出来ません」


「学校長……畏まりました」


 マリーヌ先生は学校長の指示で試合を続けるしかなくなった。


 さらにリステアード様の周囲に漆黒のローブを纏い、大鎌を携えた骸骨をアルベルトは展開した。


 骸骨は生き物でなく魔法を具現化し形を変えただけなので、反則負けには出来ないだろう。

 俺やイルザさんの魔氷竜みたいなものだ。


 骸骨は生き物でなく感情などないはずだが、リステアード様の首を撥ねることを待ち焦がれているように、不気味な表情を浮かべている。


 大鎌がリステアード様の首元に突き付けられている。

 リステアード様は顔面蒼白になり、脂汗が滲み出ている。


「ふははははは!!!!! 終わりだ!!! 死ね!!!」


「「お兄様!」」


 ルイーサ様とミラ様の叫びは会場中に響き渡った。


「よ……余の負けだ……」


「は? 何か言った?」


「余の負けです……許して下さい……」


「そこまでよ。それ以上の戦闘は認めないわ」


「ちっ、ギブアップしやがって。殺せると思ったのに。これ以上の手出しは僕の立場が悪くなる。仕方ないな」


「貴様ー! 許さん!」


「お姉様、よして!」


 ルイーサ様はアルベルトが許せないようだ。


 対戦舞台と観客席の魔法障壁が解除された。

 アルベルトはこちらにやって来た。


 俺への宣戦布告か? いつかは来るだろうと思っていたが、この場面なのか。

 必ず叩き潰す。


「アルベルト、次は俺か?」


「勘違いするな、エリアス。貴様は後回しだ。僕の次の標的は……ミラ王女だ。貴様の目の前で貴様の大事な人を切り刻んでやる。あははははは、あーはっはっはっ!」


 アルベルトの標的はミラ様だった。

 俺だったら話は早かったのに。


 この局面をどうやって切り抜けるべきか。


 

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