第55話エミリー&アルベルトside

 エミリーside


 アルベルトがおかしくなってしまったのは、あの黒兜のせい。

 以前はあんなに優しかったのに強さに異常に囚われるようになってしまった。


 今の私に出来るのは解決の糸口を見つけるために、呪いや解呪の勉強をすることだけ。

 アルベルトの状態が呪いのせいなのかは分からないけど、何もしないでも事態が好転するとは思えない。


 正直私の頭では分からないことが多過ぎるけど、一縷の望みにかけるしかない。


 解決策がなくて行き詰まっていたところに、エリアス様がやって来た。

 彼はアルベルトのことを一緒に考えるために、呪いや解呪の勉強をしてくれることになった。


 序列一位で他にもやることが沢山あるのに、こちらに労力を割いていただけるなんて優しいお方。





 相変わらず事態は好転しない。

 エリアス様は、息抜きに今日は勉強を休もうと言ってくれた。


 私たちは野原で談笑している。

 魔法学校に入った時にはエリアス様のことは、雲の上の人で様付で呼んでいたのに自然と君付けに変わっていた。


 馴れ馴れしいと思われてないかな。


 エリアス君は私の学生生活を気遣ってくれた。

 誰も私のことなんて気にかけてくれないから嬉しかった。


 以前の優しいアルベルトなら気遣ってくれたけど、もうアルベルトは私のことなんて見ていない。


 強さに執着して、他の事なんてどうでも良さそうだった。


 エリアス君に私のなんちゃって飛行魔法を見せた。

 故郷が田舎だったので、高いところから色々なところを見晴らせたらいいなと思って考えただけのお遊びだった。


 それをエリアス君は褒めてくれた。

 発想が凄いと。


 エリアス君といると心が温かくなる。

 私の発言、行動を肯定してくれる。





 私は子供の頃のことを思い出していた。

 王都での武闘祭。


 凄く強そうな人が集まっていた。

 アルベルトは私と違って武器が扱えるが、とても彼らとは戦えるとも思えない。


 戦闘経験が違い過ぎる。

 アルベルトには悪いけど、ただ怪我をしないでと願うしかなかった。


 王都の入口で出会ったのがエリアス君だった。

 話を聞いていると、ディートリヒ家のご令息ということだった。


 田舎に住んでいる私でも知っている。

 名君レオン様。


 圧倒的な戦闘能力と統治能力。

 その血を受け継ぐのがエリアス君。


 エリアス君の見た目は幼いけれど、雰囲気は大人だった。

 それでも、武闘祭の参加者には勝てるとは思わなかった。


 だけど、私の予想を大きく裏切りエリアス君は勝ち進んだ。

 猛者を軽々と倒し、アルベルトも一回戦で負けた。


 残念ながら反則負けになったけど、あの場の主役はエリアス君だった。


 あの時は完全に住む世界が違うお方だと思った。


 でも、魔法学校に入ってから印象が変わった。

 私の勝手な偏見だけど、貴族は他人の痛みが分からない冷たい人の集まりだと思っていた。


 もちろん、同級生にもそういう人はいる。

 でも、エリアス君は違った。


 私のことを気遣ってくれる。


 今日は偶々二人きりだけど、いつもエリアス君の周りには人が沢山いる。

 それも女性が。


 私がアルベルトを好きだと勘違いされてないかな。

 アルベルトのことは小さい頃から一緒で、姉弟の様にしか思えない。


 今は逆で近寄りたくない。

 何を考えているのか分からないから。


 今はもっとエリアス君のことを知りたいのと、もっと私のことを知ってほしい。





 アルベルトside


 クソ! 何が魔氷竜だ、魔雷竜だ、エリアスのごみが。

 僕の方がまだ強い。


 切り札がある。

 でも、不確定要素が増えた。


 それに、最近はエミリーと一緒にいる。

 どういうつもりだ? 僕の大切なを奪うつもりか。


 エミリーは僕のだ。

 誰にも渡さない。





 僕は子供の頃のことを思い出していた。

 武闘祭に参加しようと王都の入口までやってきたら、メイドを連れた貴族のお坊ちゃんがやって来た。


 こいつも武闘祭に参加する? 貴族の道楽か。

 だが、予想を裏切り奴は優勝した。


 そして僕は奴に一回戦で負けた。

 思い出しただけで腹が立つ。


 よほど自分の力を誇示したかったのか、一瞬で僕を倒した。

 思い出したくない記憶だ。


 負けたことも認めたくない。


 あー腹が立つ、このイライラはどうしてくれよう。

 今すぐ奴を殺したいのに、生存本能か、僕の中で危険信号が警告を発している。


 師匠にも腹が立つ。

 このまま修業を続けていたらエリアスを殺せるという話だったのに、その域まで達していない。


 師匠には、エリアスの戦いを粒さに報告している。

 師匠はエリアスの話をすると物凄く楽しそうだ。


 まさか僕の獲物を横取りするつもりじゃないだろうな。


 本音を言えば今すぐ奴を殺したい。

 だが、無策で挑んで返り討ちにあうほど僕は愚鈍ではない。


 最終的に必ず奴を討つ。

 その前に楽しい余興を考えた。


 奴といつも一緒にいる平和ボケした王女様を、奴の目の前で殺したらどんな顔をするだろうな。


 それに、他の王族も皆殺しだ。


 絶望に打ちひしがれる奴の顔を見るのも一興だ。


「あははははは、はーはっはっはっ!」


 覚悟していろ、エリアス。

 貴様に絶望を見せてやる。


 


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