第54話疑似転移魔法
今日もエミリーは図書室に向かっている。
「エミリー、今日は休まないか? アルベルトのことが気になるのは分かるが、根を詰めすぎるのも良くない」
俺は真面目過ぎるエミリーが気になって休むことを提案した。
騒々しい女性軍団が来て、落ち着かないのもあるし。
「エリアス君、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
エミリーは俺のことを様付で呼ばなくなった。
敬語は抜けないが、少しずつ距離が近くなっている。
俺たちは学校の敷地内の野原で談笑している。
「学校生活はどう?」
「少しずつ慣れてきました。魔法実技は不安ですけど。と言っても、理論に自信があるわけじゃないですけど、あはは……エリアス君みたいに上手に魔法が使えたら良いんだけど」
「エミリーは勉強熱心だから、直ぐ上達するよ。エミリーはどんな魔法使うんだっけ? あぁ、悪い。手の内を軽々しく見せるわけにはいかないか」
「気にしないで良いですよ。私とエリアス君では序列が違うから戦う機会なんてなさそうだし。私なんて序列四十二位だから」
「おお、もう直ぐA組が狙える位置。エミリーならS組も直ぐだな」
「S組なんてまだまだ無理。当面の目標はA組に上がること。私は、風属性と治癒と強化魔法が使えます。まだまだ自信ないけど……」
「三属性。凄い」
「三属性なんて……実質二属性だし。治癒と強化は無属性だし」
治癒魔法は使用属性によって優劣がある。
光魔法が一番強く、次が水、その次が無属性、一番弱いのは風。
光属性は加護の力によって、大規模な損害も癒す。
水属性は人間の体の大部分が水ということで有用だ。
無属性は何の属性にも染まっていない純粋な魔力。
この国では属性魔法使いが偉いという風潮があるが、俺はそうは思わない。
何にも染まっていない純粋な魔力を使うので、治癒魔法で使うには優秀だ。
もちろん、攻撃魔法だったら属性魔法の方が強いというのが通説だし、俺もそうだと思うが魔法には色々な使い方がある。
術者の能力もあるし、一概に属性魔法使いが偉いという風潮もどうかと思う。
無属性魔法は纏めて一属性とする考え方があり、治癒と強化が使えても一属性、治癒と強化と弱体が使えても一属性とする考え方がある。
それとは別に治癒だけで一属性、治癒と強化で二属性、治癒と強化と弱体で三属性とする考え方もある。
エミリーが言っているのは前者の考え方だ。
別に俺はそこまで卑屈にならなくてもいいと思う。
「二属性だって十分凄いよ」
「そうですかね……あんまり褒められたことがないから素直に嬉しいです……」
エミリーは俯いて顔を赤くしている。
実力がある者が認められる社会であってほしいと俺は思う。
エミリーは優秀だから、もっと自信を持ってほしい。
「エリアス君、見て」
「え……?」
エミリーの体は浮遊していた。
飛行魔法……? そんな高度な魔法が使えるなんて。
「エミリー、飛行魔法が使えたんだ? 凄い!」
「飛行魔法じゃないわ。強化魔法でジャンプして、風魔法でその高度を維持しているだけ。なんちゃって飛行魔法よ、うふふ」
「それでもその発想は凄い! 待てよ……」
俺はその場である理論を思いついた。
転移魔法だ。
と言っても、疑似転移魔法だ。
高く飛び上がった状態から、超高速、例えば0,000000000000000000000000…………1秒程度で空中を移動できれば、転移魔法ではないが、それに近いことが出来るのでは考えた。
完全に0秒に出来なければ転移魔法とは呼べないが、戦闘や移動に活用できるのではないのかと考えた。
俺はその理論をエミリーに説明した。
「凄い、流石エリアス君!」
「いや、まだ理論だけ。実践はこれからだ」
俺は簡単な風魔法なら使えるようになっていた。
氷や雷ほどではないけど、以前よりかは幾分慣れた。
俺は魔法学校上空からディートリヒ家上空を往復した。
まだ慣れないせいか数秒かかったが、これを一秒以内にしたい。
「エリアス君、どこまで……?」
「ディートリヒ家上空まで」
「凄い、ここからディートリヒ家上空まで凄い距離なのに」
エミリーも十分凄いと思う。
俺たちが話しているのは魔法学校上空だ。
それを高度も落とさずにいるなんて凄いとしか言いようがない。
「エミリー、そろそろ降りようか。魔力がもったいない」
「ええ」
俺たちが地面に降りてから、こちらを盗み見る者がいた。
アルベルトだ。
地面に降りてからというより、ここ数日ずっと俺たちを盗み見ていた。
ここ数日俺とエミリーが一緒にいるのが気に食わないのだろう。
俺と戦いたがっていたはずなのに、ランキング戦を申し込んでくる様子もない。
何か戦えない事情でも出来たのだろうか?
俺はいつでも受けて立つ。
そして元のアルベルトに戻してみせる。
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