第51話同級生

 授業は必須科目の魔法基礎、魔法応用、魔法実技の他に、魔道具学や魔法薬学といった選択科目がある。


 必須科目は一年S組の教室で行われるが、選択科目は教室を移動する。

 席も自由である。


 選択科目を受ける際に困ったことが起きている。

 常に俺の両隣の席を陣取ろうとする女生徒がいるからだ。


「エリアス、あんたの横に座りたいわけじゃないんだからね」


 アンナ・フォン・レーヴェンタール。

 レーヴェンタール伯爵家の令嬢だ。


『あんたの横に座りたいわけじゃないんだらね』と言われて、毎回隣を陣取らても困る。

 リア姉様がツン(デレ?)キャラでなくなって、俺を認めてくれる様になったのに、新たなツン(デレ?)キャラ登場だ。


「……」


 もう一人俺の隣に座ってくるのは、ハンナ・フォン・パレンツァン。

 パレンツァン伯爵家の令嬢だ。


 無言で俺の横に座ってきて、「ここが私の居場所ですけど何か?」みたいな顔をしている。

 レア姉様が無言キャラでなくなったのに、新たな無口キャラ登場だ。


「アンナさん、ハンナさん、どうして毎回エリアスの隣に座るんですの? わたくしもエリアス君の隣に座りたいですわ」


「私もよ。どうして二人ともエリアスの隣に座るのよ? 私もエリアスの隣に座りたいわ。もちろん同級生としてよ。それ以上の感情は……い、言わせないでよ!」


 イルザさんとミラ様はアンナさんとハンナさんに抗議の意思を表明している。

 別に席なんて自由なんだからどこでもいいのに。


 何で俺の隣に座りたいんだよ。

 俺は強くなりたいのと、知識を吸収したいだけなので、無用な諍いを起こす意味が分からない。


「うっさいわね、イルザ、ミラ。席なんて自由なんだから何処に座ろうが良いでしょ。あんたらもエリアスの隣に座りたいんなら早く来て座ってれば良いじゃない」


 俺もアンナさんの意見に同意だ。

 席なんて自由なんだから、座りたい席があるのなら早く来ればよい。


 毎回俺の隣に座ってくるアンナさんとハンナさんには迷惑してるけど。


「ぐぬ……正論ですわね……。次は負けませんわよ、エリアス君の隣の席争奪戦に」


「確かにそうね。私も負ける気はないわ」


「……ふふ、二人とも滑稽ね」


 勝手に俺の隣の席争奪戦なんて始めないで欲しい。

 そして、ハンナさん、王女様と公爵令嬢を馬鹿にしないで欲しい。






「……ですの」


 現在は魔道具学の授業が行われている。

 アホ毛がぴょこんと飛び出た背の低い、同級生とは思えない幼女っぽい女性が意見を述べている。


 ハリエット・フォン・ミヒャエリス。

 ミヒャエリス侯爵家の令嬢だ。


「今後のことを考えると雷魔法は有用ですの。攻撃の手段だけでなく、エネルギーとしても優秀ですの」


 ハリエットさんの意見はこの国では少数派だ。

 魔道具の研究が進んではいるが、物を温めたければ火を、冷ましたければ氷魔法を使うというのが常識だ。


 鍋を火で温め、箱に氷を入れて冷やすというのがこの国の常識である。

 ハリエットさんの意見は俺には当然に分かるが、俺がここでIHクッキングヒーターや冷蔵庫のことを説明しても皆にはちんぷんかんぷんだろう。


「ハリエット君、そうは言うが、この国では火や氷の方が有用だと信じられておる。己の主張を通すからには明確な根拠を示すのじゃ」


 ワルモンド副学校長は、ハリエットさんの意見を一蹴した。


「ですの……」


 ハリエットさんは自らの主張を否定され、意気消沈している。


「ワルモンド副学校長」


「何じゃ?」


 俺はIHや冷蔵庫といった家電の理屈をワルモンド副学校長に説明した。

 もちろん、俺が転生者だということは伏せ、過去の文献にヒントを得て理論を考えついたことを伝えた。


「そうは言われてもな……」


 ワルモンド副学校長は俺の理論を理解してくれなかった。


「素晴らしい!」


 教壇でワルモンド副学校長が授業をしているが、教室の後ろではヴァルデマー学校長が授業を聞いていた。


 何か気になることでもあったのだろうか。


「エリアス君、君の理論は素晴らしい。直ぐに君の理論で作った魔道具を量産させよう」


 ヴァルデマー学校長は俺の理論を支持してくれた。


「ヴァルデマー学校長、お願いがあります」


「何だね?」


「ハリエットさんと共同研究、論文を発表させていただけないでしょうか?」


「ですの?」


「ああ、ごめん、ハリエットさん、勝手に。駄目だったかな?」


「ですの!」


 言葉からは分からないけど、表情や声色から承諾したものと俺は判断した。


「良いだろう。素晴らしい成果を期待している」


「ヴァルデマー、勝手に進めおって……」


「父上……いえ、先代、若い眼を潰すべきではないですよ?」


「儂はそういう意味で言っておらん。ただ、この国の常識を申しただけじゃ。お主の勝手にするが良い。お主の責任でな」


「かしこまりました。新しいことをするためにはリスクが伴います。それを引き受ける覚悟など疾うに出来ております」


 魔法実技や理論の勉強があるが、俺とハリエットさんは共同研究をすることになった。

 ワルモンド副学校長の常識を押し付ける考え方に反発した結果だ。


 生活が便利になるのはありがたい。

 大変だけど頑張るしかない。




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