第50話マリーヌ&アクセル&ワルモンドside
マリーヌside
私はマリーヌ・エルスター。
ソロモン魔法学校中等部一年S組担任よ。
私が魔法学校の教師になったのは優秀な生徒を育てるため……というのは建前で、魔法学校の教師は王宮職と並んで人気の職業だからよ。
就職先を決めないといけないタイミングで、王宮職と魔法学校の教師か悩んだけど、魔法学校の教師を選んだ。
王宮職の方が安定しているし魅力的だったけど、魔法学校時代に同級生が嬉々として魔法について語っているのに影響を受けて魔法学校にしたわ。
最初はこの選択が正しかったのかは分からないけど、魔法が苦手だった子が得意になる過程を見るのはやりがいを感じるわ。
今年は一年S組の担任に選ばれた。
フェルゼンシュタイン家のご令嬢イルザさん、ディートリヒ家のご令息エリアス君、そして、第三王女ミラ様……いえ、ミラさん。
これだけのメンツを引き受けるのは身が引き締まるわ。
正直私には荷が重い気もするけれど、そうも言ってられない。
自分が選んだ選択なのだから。
今年はそのメンバーとは別に注目を集めている生徒がいる。
D組のアルベルト君よ。
入試の時は異彩を放っていた。
入試で闇魔法を使うなんて聞いたことがない。
在学中に体得する子もいるけれど、それは極々少数のトップの子よ。
火、水、風、土といった基本四属性を扱うのも大変なのに、希少属性の氷、雷、更には光、闇といった属性魔法を扱えるのはごく少数。
入学式で学校長からランキング戦のルール説明が行われている。
アルベルト君は早くも興味津々といった感じね。
私がアルベルト君とデレック君の試合の審判を務めることになった。
驚くことにアルベルト君は何の躊躇もせずにキングの駒を賭けたわ。
挑発に乗りデレック君もキングを賭けた。
この国は魔法至上主義。
魔法学校を退学すると少なからず生き辛い人生になってしまう。
退学する生徒は平民が通う学校に転校することになるけど、出世コースからは完全に外れるわ。
私は制止したけど、デレック君は聞く耳を持たない。
私は逡巡したけれど、学校長がゴーサインを出したので試合を始めざるを得ない。
アルベルト君の闇魔法は自らの周囲に展開し、その範囲を広げ相手の領域を奪っていく。
攻防一体の隙が無い魔法ね。
それに彼には切り札がある。
私は学生時代、目を魔法で鍛えることにはまっていた。
私が彼の魔力の流れを探っていると、闇魔法とは別の何かが潜んでいた。
いえ、魔法なのかも怪しいわ。
何か得体のしれない力。
裏で糸を引く人物がいる可能性もある。
でも、今は試合に集中しないといけない。
アルベルト君の闇魔法は漆黒の大鎌に形を変えた。
あり得ない。
魔法を武器や生き物の形に変えるなんて、大人でもほとんどいないのに。
アルベルト君の大鎌を見て、デレック君は腰を抜かしてしまったわ。
私は試合を止めるか逡巡していた。
基本的に審判は試合を止めない。
試合を決定づけるダメージが入るか、ギブアップするかしないと基本的には試合を止められないわ。
大鎌が振り下ろされれば、決定的なダメージどころかデレック君の命を確実に刈り取るだろう。
ただそれは予測の話なので、現実にダメージが入ってないのなら難しい。
ギブアップに関しても、『ギブアップ』や『参りました』という文言なら認められるけれど、『悪かった』や『謝る』といった文言では判断が難しい。
文脈的には認めているともとれるけど、判断が難しい。
アルベルト君の腕が振り下ろされそうとしている。
悩んでいる暇はない。
私は魔法障壁を展開した。
生徒の命を守らなければならない。
幸い私の魔法障壁でデレック君を守れた。
アルベルト君の潜在能力は凄いけど、現時点では私の方が上。
担任ではないけれど、彼の動向は注視しないといけない。
教室に移動して、私は自己紹介をした。
教室内の空気は重苦しい。
だけど、イルザさん、ミラさん、エリアス君の三人はその空気を吹き飛ばしてくれた。
イルザさん、ミラさんは箱入り娘なのかと思っていたら、そうではなかった。
三者三様の強さを持っていた。
譲れない想いがあるのが容易に分かる。
私は安定や体裁を気にし魔法学校の教師になった。
そんな低次元な動機とはまるで違っていた。
三人に教えることがあるのか不安になるけど、やるしかない。
これが私の選んだ道。
アクセル
あぁ、退屈だ。
退屈で死にそうだ。
退屈が解消されるかと思って魔法学校の教師なんかになってはみたものの、ガキどもは退屈な奴しかいねえ。
ルイーサとリアは中々見どころはあるが、俺を満足させる程じゃねえ。
ブリュンヒルデは確かに退屈しねえが、奴は規格外すぎて理解が及ぶ存在じゃねえ。
帝国が攻めてこないのはレオン公やディートリヒ家のおかげという奴もいるが、ブリュンヒルデの存在もでけえ。
帝国の戦力は王国の五倍とも十倍とも言われてるが、それは人数の問題で、帝国が攻めてきたとしても、ブリュンヒルデ一人で返り討ちに出来るだろう。
何でこんな学校にいやがるのかは知らねえが、怪物とはああいう奴のことを言うんだろうな。
今年も入試の時期か。
あまり期待はしてないがな。
レオン公の息子はフェルゼンシュタイン家の三女が対戦相手か。
レオン公の息子、フェルゼンシュタイン公の娘、そしてミラ王女くらいか、今年の面白そうな奴は。
フェルゼンシュタイン公の娘は氷使いか。
入試の時点でここまでやれるのは珍しいが、俺を満足させる程じゃねえ。
レオン公の息子はというと……くく、何だよ、ありゃ。
魔法を避けてやがる。
出鱈目すぎるだろ。
魔法なんてものは魔法障壁で防ぐのが常識ってもんだろうが。
それか自分を強化するか、相手を弱体化してダメージを減らすことは出来るが、ダメージは0にはできねえ。
結果はレオン公の息子が圧倒したか。
まあ、そうだろうよ。
奴はまだまだ力を隠し持ってそうだな。
くく、面白そうな男じゃねえか。
それと何やらおかしな奴がいるじゃねえか。
白髪紅眼のチビ。
何て禍々しい空気を纏ってやがるんだ。
人間なのかも怪しいぜ。
ほう、闇魔法を使うのか。
面白いじゃねえか。
それに俺の目は騙せねえぞ。
奴は闇魔法とは別の力を持っているな。
魔法じゃねえのか? 癪だが、俺にもあれが何の力なのかは分からねえ。
どっちにしても、碌な方法で手に入れたもんじゃねえだろうな、くくっ。
入学式で学校長からランキング戦のルール説明が行われたが、その直後にあの白髪チビはランキング戦をやりたいと抜かしやがった。
好戦的な奴だ。
益々気に入った。
試合の対戦相手は威勢がいいだけの大男だ。
あんな奴が強いわけがねえ。
弱い犬程よく吠えるってな。
試合の結果は目に見えている。
白髪チビはキングを賭けやがった。
馬鹿なのか、くくっ。
それ程自分の実力に自信を持っている。
負ける可能性など全く考えてねえな。
キングなんて賭けれる奴はこの学校にはほとんどいねえ。
奪われることを恐れて、後生大事に抱えてやがる。
腰抜けが量産されるだけだ。
あのチビはそんな奴らとは正反対の強心臓だ。
白髪チビは闇の魔力を大鎌に変えやがった。
魔力を具現化するなんて、本当に退屈しない野郎だぜ。
マリーヌは試合を止めるか逡巡してるな。
判断が遅いんだよ。
もう勝負はついている。
早く止めないとあの大男は死ぬぞ。
恐らく審判規定を忠実に守ろうとしてるんだろうが、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ。
奴らしいと言えば、奴らしいが。
マリーヌは判断が遅くなったが、試合を止めた。
あの状況ではああするしかなかったな。
白髪チビはまだまだ切り札を隠し持ってやがるな。
くく、面白い奴だ。
今日はレオン公の息子とフェルゼンシュタイン公の娘の試合か。
例年入学時の序列一位と二位が戦うのはお決まりだが、今年は意味あるのかねえ。
結果は見えてるだろ。
どうせ入試の再現をして終わりだ。
マリーヌは奴らの担任なので、審判は俺が務めることになった。
レオン公の息子は相変わらず魔法を避けていやがる。
くくっ、非常識な奴だ。
この調子じゃ、フェルゼンシュタイン公の娘が消耗して、レオン公の息子が順当に勝ちって筋書きだな。
だが、試合は予想だにしない事が起こった。
フェルゼンシュタイン公の娘が氷の魔力を竜に変えやがった。
くくっ、面白いじゃねえか。
今年は二人も魔力を具現化出来るなんてよ。
くくっ、今年の新入生は将来有望じゃねえか。
試合前は期待してなかったが、面白いじゃねえかよ。
こうなってくるとレオン公の息子の出方が気になる。
これまでと同じように避けるのか、俺を驚愕させる程の何かを隠し持ってやがるのか。
レオン公の息子はフェルゼンシュタイン公の娘が展開した魔氷竜より遥かにでかい魔氷竜を展開しやがった。
こうなってくると、フェルゼンシュタイン公の娘の魔氷竜が蜥蜴くらいにしか見えないぜ。
レオン公の息子の魔氷竜はフェルゼンシュタイン公の娘の魔氷竜を容易に噛み砕きやがった。
レオン公の息子のフェルゼンシュタイン公の娘を襲い、フェルゼンシュタイン公の娘は吹き飛ばされた。
試合前から分かっていたこととはいえ、フェルゼンシュタイン公の娘は気の毒だぜ。
相手が悪すぎた。
俺ぁ二人を試してみたくなった。
試合に負けたフェルゼンシュタイン公の娘を侮辱したら、どんな反応をするのか見てみたくなった。
別に本当に馬鹿にしているわけではない。
俺の悪い癖だな、くくっ。
レオン公の息子は躊躇なくキングの駒を使って、俺と戦い発言を訂正させたい様だ。
中々見どころがある奴じゃねえか。
仲間が馬鹿にされて黙っていられる様な奴じゃなさそうだな。
他の奴らは仲間が馬鹿にされてもヘラヘラ笑ってるような腰抜けばかりだ。
白髪チビといい、今年の新入生は肝が据わってる奴らが多いな。
悪くねえ、悪くねえよ。
だが、俺とした者がブルっちまった。
こんなことはいつ以来だ。
俺が年端のいかないガキにだと……。
レオン公の再来という噂は伊達じゃねえな。
フェルゼンシュタイン公の娘も俺の言葉では心が折れなかった。
最初は苦労知らずのお嬢様かと思ったが、意外に芯が通ってやがる。
レオン公の息子、フェルゼンシュタイン公の娘、白髪チビ、今年は面白い奴が揃ったな。
特にレオン公の息子、いや、エリアス。
奴はレオン公の再来なんかじゃなく、ブリュンヒルデの再来だ。
ワルモンドside
ヴァルデマーの奴め、何が改革じゃ。
今ある伝統を守っていくことが肝心じゃろうが。
何でも変えれば良いというものじゃないわい。
アルベルトといったか、あの白髪紅眼の生徒は当校に災厄を齎すぞ。
別に闇魔法が悪いというわけじゃない。
当校にも闇魔法の使い手はおる。
それよりも何じゃ、あの禍々しい空気は。
何か憑き物にでも取り憑かれておるのか。
対戦相手に全く敬意を払わない。
相手を叩き潰し、心を折ることしか考えておらぬ。
いや、心を折ることも考えておらんじゃろう。
殺すことしか考えておらん。
どんな環境で育てばあんなことになるんじゃ。
儂にはあの小僧は手に負えんぞ。
ヴァルデマーめ、何を焦っておる。
いや、何を企んでおるのじゃ。
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