第47話アルベルトVSデレック

 生徒たちは学校長に引率されて、魔法闘技場に移動した。

 強大な闘技場の建物に入ると中には中心に対戦舞台があり、その周りに多数の観客席がある。


 対戦舞台に選手と審判が入場するとその周りを魔法障壁が展開されるのと同時に、観客席に魔法障壁が展開される。


 試合を観戦する生徒たちの安全を守るためだ。


「それで、誰と対戦したい、アルベルト君?」


 アルベルトは学校長から認識されている? 序列百位のはずだが。

 逆にそれが目立ったのか。


「そこの木偶の坊です」


 アルベルトは正門で絡んでいた大男を指差した。


「あぁ、誰が木偶の坊だ、チビの平民が! 俺はデレック・ボンホフ様だ」


「貴様だ。自分に様をつけるなゴミが」


「あぁ? ぶっ飛ばすぞ!」


 アルベルトが戦いたいのはあの大男だったのか。

 確かに異様に険悪だったからな。


「二人とも、そこまでになさい。審判は私、中等部一年S組担任マリーヌ・エルスターが務めるわ。入場しなさい」


 審判は学校長でなく、女性の教師が務めるようだ。

 中等部一年S組ということは、俺とミラ様とイルザさんの担任か。


 こんなところで自分たちの担任の顔を知ることになろうとは。

 エルスター先生が先に対戦舞台に入り、その後に選手二人が入場した。


 エルスター先生の合図で魔法障壁が展開された。


「学校長から説明があった通り、対戦はチェスの駒を使うわ。二人はどうするの?」


「俺はポーンだ」


「僕はキングだ」


「!?」


 観客席がざわついている。

 それもそのはず、キングを賭けて負けたら即退学だ。


「あーはっはっはっ、これはお笑い種だ。平民はルールも知らないのかよ? キングを賭けて負けたら即退学だぜ。まぁ、俺にとっては好都合だがよ、あーはっはっはっ!」


「君、いいの? 後でやり直しは効かないわよ?」


「ええ、こんな図体だけのゴミに負ける可能性は万に一つ、いや、億に一つもありませんから。一生誰かの駒にしかなれない木偶の坊なんかに」


「てめえ! なめんな! いいだろう、俺もキングだ!」


「おいおい、君まで。本当にいいの?」


「ああ、上等だ」


 観客席はさらにざわついている。

 これでどちらかが必ず退学することになった。


「それでは、始め!」


 アルベルトは禍々しい闇の魔力を体の周りに纏っている。

 対戦舞台と観客席は魔法障壁で隔てられているとはいえ、不快感が襲ってくる。


 デレックは無属性魔法を拳に纏ってアルベルトに殴りかかろうとしていた。


「デレック、やめろ、危険だ!」


 俺は咄嗟に叫んだ。

 アルベルトは闇魔法の障壁を目の前に展開していたが、俺の声に驚いたのかデレックの踏み込みが甘くなり、闇魔法に飲み込まれずに済んだ。


「うわ、うわ、なんだ……やめろ!」


 デレックは必死に自らに纏わりついてくる闇魔法を振り払おうとしていた。


 だが、デレックは闇魔法の侵食に飲み込まれようとしていた。

 闇魔法は常時アルベルトの周囲に渦巻き、彼を守っているが、その範囲を徐々に広げている。


 アルベルトの周りの闇魔法が防御の役割を担い、範囲を広げている闇魔法が攻撃の役目を担っているのだろう。


 攻防一体となっており、隙がない。

 デレックは何とか下がりながら耐えているが、防戦一方だ。


「そろそろ頃合いか」


 そうアルベルトが呟くと、範囲を広げている闇魔法が巨大な漆黒の鎌に形を変えた。

 対戦舞台の上空にも魔法障壁が展開されているが、そこまで届きそうな大きさだった。


「な……何だよそれ……」


 デレックは腰を抜かし、完全に戦意喪失している。


 アルベルトは腕を振り上げた。

 彼の腕の動きと大鎌は連動しているのか?


「終わりだ」


「や……やめてくれ……わ……悪かった……あ……謝るから……」


 デレックは涙や涎を垂れ流している。

 眼前に広がる死の恐怖からだろう。


「もう遅い。試合前に気付けば良かったな、実力差に。木偶の坊」


「アルベルト、もうやめてー!!!」


 エミリーの悲痛な叫びは魔法闘技場全体に響き渡った。


 アルベルトは腕を振り下ろした。

 その大鎌がデレックを切り裂く……ことはなかった。


 デレックとアルベルトの間に魔法障壁が展開され大鎌の攻撃を防いだからだ。


「そこまで、もう勝負はついているわ。彼はもう戦意喪失している。これ以上の戦闘は認めないわ」


 魔法障壁を展開したのは審判のエルスター先生だ。


「あれ~、おかしいな。闇魔法は術者の能力差を覆すって師匠に教わったのに」


「君の師匠は間違った事はいってないわ。だが、こうも言ってなかったの? 圧倒的な実力差がある場合は除くと」


「確かに。言ってました。あ~。忘れてました。それにしても残念だな。この場で先生を殺すことが出来ないなんて。まだまだ僕も実力不足ですね。鍛えなおさなきゃ」


 数人の教師はアルベルトに手の平を翳し睨み付けている。


「分かってますって。もうしません。怖い、怖い」


「もう嫌だよ、元のアルベルトに戻ってよ!」


 エミリーの悲痛な叫びは会場中に響き渡った。


「君、キングの駒を賭けて負けたんだ。どうなるかは分かってるな?」


 エルスター先生は残酷にも負けたばかりのデレックに退学通告を突き付ける。

 命を助けてもらっただけありがたいとは思うが。


「……」


 デレックは完全に茫然自失で、エルスター先生の呼びかけに応えない。

 試合が終了したので、対戦舞台の魔法障壁が解除される。


 アルベルトが対戦舞台を降り、俺に近づいてきた。


「エリアス、次は貴様だ。覚悟しておけ」


 今度は以前より明瞭に意思を伝えてきた。

 皆の注目を集めた男の宣戦布告だった。



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