第44話バラ色の学生生活なんてない

 講堂までの道を歩いていると、リア姉様、レア姉様、ルイーサ様、ヴィルヘルムがやって来た。


「よう、エリアス。さらに逞しくなりやがったな。入学おめでとう。何だよ、こりゃ……。目立ちすぎだろ、わはははは!!!」


「ヴィルヘルム、久しぶり。何だろね、これ……はは……」


 ヴィルヘルムは以前よりも逞しくなり、穏やかになった。


 生徒たちが深々とお辞儀をし、その目の前を通るのをヴィルヘルムやルイーサ様、姉様たちに見られるのは気恥ずかしさがあった。


「ミラ、エリアス、入学おめでとう。歓迎する。随分派手に目立っているな、ふふふ」


「ルイーサ様、お久しぶりです。ありがとうございます」


「お姉様、お久しぶりです。私はこんなこと望んでないのに……もう……」


 ルイーサ様は以前よりも表情が優しくなった。


「エリアス、会いたかったんだからね。あんたほどの男ならこの程度の歓迎なんて当たり前なんだからね」


「リア姉様、お久しぶりです。いえ、恐縮です」


 リア姉様はツン要素がなくなり、俺を認めてくれるようになった。


「エリアス、久しぶり。歓迎するわ。もう知っていると思うけど、この学校は厳しいランキング制度で有名よ。魔法だけでなく幅広い教養が必要になるわ。日々生徒たちが切磋琢磨しているわ。まあ、エリアスにはこんなこと言う必要ないかしら。貴方のこれまで積み上げてきた努力や実績からしたら恐れるに足りないでしょうね。入試の序列は一位だったのよね。姉として鼻が高いわ。何か分からないことがあったら、この私に訊きなさい。いつでも歓迎するわ」


「レア姉様、お久しぶりです。ありがとうございます」


 レア姉様は滅茶苦茶喋るようになった。


 皆、大人の表情と雰囲気を身に纏っていた。

 皆を見ていると俺も学生生活が始まると実感する。


 皆は各々の教室に戻っていった。





 俺とミラ様は引き続き講堂に向かっていると、女性から引きとめられた。


「お待ちくださいまし、エリアス君」


 彼女はイルザ・フォン・フェルゼンシュタイン。

 フェルゼンシュタイン家の令嬢だ。


 フェルゼンシュタイン家は、ディートリヒ家、フリードリヒ家と並び公爵御三家と呼ばれ、御三家の一翼を担っている。


「入試の時は悔しい思いをしましたが、わたくしは負けるつもりは御座いませんから」


 彼女とは入試の時の対戦相手であった。

 俺が終始圧倒していたが。


 あからさまに対抗心を向けてきた。

 入試での実技試験と序列で負けたのが悔しいのだろう。


「お久しぶりです、イルザさん。俺にライバル心を燃やすのは勝手ですが、足元を掬われないように。ミラ様がいますし」


 イルザさんの入学時の序列は二位だ。

 俺が一位、ミラ様が三位だ。


「そうでしたわね。お初にお目にかかります、ミラ様。イルザ・フォン・フェルゼンシュタインで御座います。以後お見知りおきを」


「お初って、何度も晩餐会でお会いしたじゃない、イルザさん。覚えていないのかしら?」


 ミラ様、珍しく感情が隠せていない。

 ここまでわざとらしく煽ってきたら誰でも腹は立つが。


 公爵令嬢ともなれば、王家の人間と交流が盛んだろうから、初対面ということはまずないだろう。


 イルザさん本人も、敢えてミラ様の感情を逆撫でするようなことを言ってるのだろう。


 競争が激しいと言われる魔法学校の戦いが既に始まっていた。

 序列、そして女同士の意地の戦い。


 イルザさんもミラ様のことを認めているから出た発言とも言えるが。

 いつ順位が入れ替わるかもしれない立場。


 俺も他人の心配ばかりしている場合ではない。

 同学年に上の順位がいないので、常に狙われる立場。


 気を引き締めていかなければならない。


「そうでしたわね。エリアス君もミラ様もこれから切磋琢磨していこうではありませんか。では、失礼しますわ」


 強烈なキャラだったな

 出来れば関わりあいたくない。





 講堂に近づいてきたところでモノクルを掛けた、利発そうな男に話しかけられた。


「お初にお目にかかります、ミラ様、エリアス様。私はフランツ・フォン・グレルマンで御座います。お二人の派閥に入りたいと切に願っております。お二人ならばこの学校、いえ、この国を変えることが出来ると信じております。どうかお願いいたします」


「俺は派閥とか興味ないから」


「私もです。エリアスは仲間であり、同志でありますので派閥と見られるのは不本意です」


 俺の利発そうだと思った印象を返してくれ。

 こいつは馬鹿なのか? 王女様を前に国を変えるとか不敬にも程があるだろ。


 眼鏡キャラは賢いという俺の価値観は間違っていたのか?


「どうか、そう言わず……」


「だから、俺たちは派閥じゃないって」


 変なキャラに絡まれ、学園生活を楽しみたいという俺の願いは早くも崩れ去りそうだった。


 俺は強くなりたいだけなのに……。





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