第43話エミリーの話

 ミラ様と同じくエミリーは五年間の歳月を経て美しくなっていた。

 でも今はそれより気になることがある。


 アルベルトのことだ。

 アルベルトは黒髪黒眼で気弱そうな男だった。


 それがどうしたことか、髪は白髪になり、目は真紅で狂気に満ちていた。

 言葉も攻撃的になっていた。


「エリアス様、実は……」


 エミリーから聞かされたことは信じがたいことだった。

 ある日エミリーは体調が悪かった。


 アルベルトはどこかに行ってしまい、村の人によるとアルベルトは村の外に出ていったらしい。

 帰ってきたアルベルトは明らかに雰囲気が変わっていたとのこと。


 気弱さがなくなり、自信というよりも狂気的な雰囲気を纏っていた。

 それからもアルベルトは村の外に出るようになった。


 以前から村の外にモンスターを倒しに行くことはあったが、アルベルトはエミリーを避け一人で出ていくようになったらしい。


 体調が良くなったエミリーは、アルベルトを尾行してみることにしたという。

 信じられないことにアルベルトは、モンスターを容易に倒せるようになっていた。


 その力は闇魔法だった。

 何故アルベルトが闇魔法を?


 アルベルトの傍らには黒い鎧を身に纏った者がいたとのこと。

 名前が分からず、頭を覆いつくす兜を被っていることからその者を便宜的に黒兜と呼ぶことにする。


 エミリーは二人と離れているので話している内容は分からないが、黒兜と話しているアルベルトは高揚し、以前からは考えられないような力を発揮するようになった。


 アルベルトが強くなったことは、嬉しい一面、怖い部分もあるとエミリーは言っていた。

 エミリーにだけは以前と変わらず優しく接してくれるが、他者に攻撃的になり、その点も怖いそうだ。


「心配だな、エミリー。君とアルベルトは魔法学校に入学するんだろ? そこで何か解決策が見つかるかもしれない。俺も探してみるよ」


「ありがとうございます、エリアス様」


 エミリーは走ってアルベルトを追っていった。

 しまった、ミラ様を置いてきてしまった。





 俺は元の場所に戻った。


「申し訳ありません、ミラ様」


「様を付けないでって、言ったでしょ?」


「ミ……ミラさん……はは、難しいですね」


「呼び捨てでいいわよ。敬語も必要ないわ。これからは対等な同級生なのだから」


「流石にそれは……努力します、はは……」


 俺は戦闘には自信があるが、人間関係は難しいと思う。

 転生して最初は俺より遥かに年上の者たちから敬われて違和感が拭えなかった。


 もう慣れたが、王女様であるミラ様も対等に接してくれる者が身近におらず寂しいものなのだろうか。


「ふふ、王国最強と謳われるエリアスでも苦手なことがあるのね」


 ミラ様は読心術でも使えるのだろうか。

 いや、俺が単純なだけか。


「私が王国最強? まだまだですよ」


 謙遜でなく、まだまだ俺は最強なんて思ってない。

 もちろん自信はあるが、上には上がいる。


 この学校には怪物がいる。

 今の俺がどう逆立ちしても敵わない人だ。


「俺でいいのよ。中々壁を取り払ってくれないのね。もう五年も一緒にいるのだからもっと心を開いて欲しいな」


「心を閉ざしているように見えます?」


 人付き合いは苦手なりに頑張ってきたつもりだが、そういう風に見られてたのか。


「人としての話じゃなくて、何て言ったらいいんだろう……もっと深いところでの話。て、言ってもエリアスは鈍いからまた理解してくれないんだろうな……でも、そういうところも素敵で気になっちゃうんだよね」


 理解力がなくて呆れられたのだろうか? 女性の方が精神年齢が高くて話が合わないとか?

 やっぱり俺は強くなることだけ考えていたい。


「それより大変だったわね。もう大丈夫なの?」


「ええ、お気になさらず」


 全然大丈夫じゃないけど、ミラ様を敢えて心配させることもないだろう。

 アルベルトのことは気になるが、今の俺に出来ることはなさそうだ。


 何か打開策が見つかれば良いのだが。






 俺たちは受付に来た。

 女性がいたので名前を名乗った。


「こちらが受付でよろしいですか? 私はエリアス・フォン・ディートリヒです」


「ミラ・フォン・アスルーンで御座います」


「え? は? エリアス様……ミラ様……えぇぇぇぇ!!!!! 本物ー!!!!!!」


 女性は事態が理解できていないようだった。

 俺はただ受付を済ませたかっただけなのに。


「エリアス様……」


「ミラ様……」


「お前たち、端に寄れー!!!」


 正門から校舎まで生徒がまばらにいたが、生徒の一人が叫ぶと両端に寄り、深々と頭を下げていた。


「え……何で……皆さん、頭を上げて下さい」


「そうです。そのようなことなさらないで下さい」


「出来ません。我らが今日存在出来るのは王家とディートリヒ家のおかげで御座います」


「お二人と同じ場にいられるだけで光栄で御座います。頭を下げることなど当然で御座います」


 頭が痛くなりそうだ。

 俺は普通に学生生活が送りたかっただけなのに、これは何だ……。


 俺とミラ様は居心地の悪さを感じながら、正門から入学式が行われる講堂までの道を歩いた。

 前途多難だ。


 

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