第42話堕ちた勇者
俺たちは魔法学校に向かう馬車の中で、ソフィアの今後について話し合っていた。
魔法学校は全寮制なので、入学しないでも俺付きのメイドとして女子寮に入寮することは学校側も認めた。
もっとも男子寮には入れないので、ほとんどやることはないが。
俺の入試の結果が序列一位だから、特別に許可が下りた。
だが、ソフィアはその選択肢を受け入れず、ディートリヒ家に残ることになった。
魔法学校に入学しないのにその様な理由で入寮するのは、ソフィアのプライドが許さないのだろう。
俺も散々好き勝手やってきたから文句は言えない。
「ソフィア、本当に良いの?」
ミラ様からソフィアを気遣う言葉が掛けられた。
「名残惜しくないと言ったら嘘になります。エリアス様とは長いですから。でも、色々考えて決めたことです。仕事は沢山あります。レオン様やエラ様の身の回りのお世話。レオン様は騎士団の仕事がやりたいのならやればいいと。その選択肢は今回選びませんでしたが、レオン様のお気遣いもありがたいです」
「そうなのね。我慢できるのかな? そんなに長期間」
「どういう意味ですか? ミラ様こそライバルが減って嬉しいのではないですか?」
「私はエリアスに対してその様な気持ちは……いえ、否定するのもおかしいのよね……」
二人の会話の意味が分からない。
ライバル……? 何の……?
よく分からないけど、何らかの女の戦いが始まっている気がする。
「ソフィ、どうした? 落ち着いて。ミラ様が戸惑っているから」
「エリアス、その呼び方はやめて」
「?」
「様付けで呼ぶのはやめて。今後はただの同級生なのだから」
「もう何年もこの呼び方だから難しいです。でも、努力します」
「ミラ様、抜け駆けですか?」
「ソフィア、私はエリアスと対等な同級生として付き合っていけたらと思っているだけよ」
「付き合うって言いましたね?」
「そういう意味で言ってないわ」
二人が何について言い争っているのかまるで分からない。
二人ともどうしたと言うんだ……?
「晴れの舞台だから二人とも仲良く」
「私たちは仲良しですよ」
「そうよ、ねぇー、ソフィア」
「えぇ、ミラ様」
若干納得出来ない部分もあるが、二人が仲良しだというのなら、良しとするしかないだろう。
魔法学校の正門前までやって来た。
荘厳な門には、三角帽子と杖の紋章が施されている。
ここから見える校舎にも同様の紋章が施されている。
魔法使いを育てる学校ならではだ。
そろそろソフィアと別れる時間だ。
「ソフィ、護衛ありがとう。ソフィの分まで頑張ってくるよ」
「う……う……エリアス様、寂しいです……でもエリアス様なら必ずやってくれると信じています」
「ありがとう、ソフィ。行ってくるよ」
ソフィアの悔しさを背負って俺は魔法学校の正門を潜る。
ソフィアと別れた後、受付と思われる場所で何やらトラブルが起こっている。
「平民でしかも序列百位だと。終わってるな。お前、人間やめろよ! がはははははっ!!!」
「消えろ、ゴミが。殺されたいのか」
「あぁ! 平民が貴族様にその口の効き方はなんだ? お前こそ殺されたいのか!」
大男が小柄な男に絡んでいた。
大男は短髪、筋肉質で声が大きかった。
小柄な男は白髪、目は真紅で鋭いを通り越して狂気に満ちているようであった。
「ちょっと待った!」
俺は二人の間に割って入った。
でも、気乗りしなかったが。
何故かというと、小柄な男の方に俺は忌避感を覚えたからだ。
暗く澱んだ空気を身に纏っている。
大男の方は威勢がいいだけで、小物だというのが簡単に分かったので怖くはないが。
「あぁ、何者だ、てめえ! どこの家の者だ?」
「ディートリヒ家の者だ。エリアスという」
「え……ディ……ディートリヒ家……レオン様の……エリアス様……序列一位の……申し訳ありませんでしたー!!!!!」
大男は土下座して俺に謝った。
「いや、こんなところで土下座しないで……」
「くく、滑稽だな」
「うるせえチビ、てめえには謝ってねえ!」
「君も煽らないで」
「お久しぶりです、エリアス様」
「?」
俺は白髪紅眼の男に知り合いはいないが。
「覚えていないのですね。まあ、当然ですか僕のような者なんて。アルベルトですよ」
「!?」
俺は驚愕していた。
アルベルト? あの原作主人公のアルベルト?
まるで別人じゃないか……。
俺の知っているアルベルトは黒髪黒眼の気弱そうな男だったはず。
優しい目つきが狂気に染まっている。
この五年間で何があったというんだ。
「てめえはぶっ飛ばしてやるからな!」
「こちらのセリフだ」
大男は行ってしまった。
アルベルト? は歩み寄ってきてすれ違いざまに、俺の耳に小声で囁いた。
「エリアス、貴様は必ず殺す」
消え入りそうな小声だったが、その様に聞こえた。
俺の聞き違いか? アルベルトに恨まれる覚えがない。
「エリアス様!」
アルベルトが去った後、可憐な少女から声を掛けられた。
五年経った今でも分かる。
アルベルトの幼馴染のエミリーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます