第40話レイラ&フィオナside
レイラside
私はレイラ。
半魔の庭を統治するサキュバスです。
私には昔、野心がありました。
魔王になることです。
人間も魔族も私の魔力で魅惑し手駒にすることで、全てを手中にするという野望がありました。
その野望は直ぐになくなりました。
レオン様に敗れ去り、その魅力に惹かれ子を宿し、エリアスを産んでからは完全に私の中から野心の炎はなくなりました。
親人間派の魔族を連れ隠れ里を探していたところ、偶然迷いの森を見つけました。
その奥に私の魔力の半分を使い、ゲートを作り出し、半魔の庭(その当時は半魔が住んでいませんでしたので、半魔の庭とは呼んでいませんでいた。便宜的にそう呼んでいるだけです)を創りました。
私は野心だけでなく魔力も失ってしまったので、これで本当に魔王になる道は潰えました。
もう未練もないですし、良いことですが。
私と親人間派の魔族だけで住むつもりでしたが、ある日人間に迫害されている半魔と迷いの森で出会い、保護を求められたことから半魔も住んでよいことにしました。
レオン様には全く会えませんし、エリアスもたまに遊びに来るくらいです。
エリアスは私に会いたいと駄々をこねディートリヒ家の使用人を困らせるから、半魔の庭から案内役を出して迷わずに半魔の庭までこられるようにするという条件でレオン様は了承したようです。
ふふ、レオン様は怖い顔をして息子に甘いですね。
エリアスが久しぶりに遊びに来ていました。
可愛らしいハーフエルフの子を連れていました。
名前をフィオナというようです。
人間から迫害され各地を転々としていたところで、半魔の庭の噂を聞き、迷いの森でエリアスに出会い保護を求めたようです。
私はサキュバスです。
人の好意というのが手に取るように分かります。
フィオナのエリアスに対する感情。
母として嬉しくはあるのですが、複雑でもあります。
エリアスのフィオナに対する感情。
この子は本当に強くなることしか興味がないのか、色恋沙汰には全く興味がないです。
母として心配になります。
フィオナは純粋な子で直ぐに皆に溶け込みました。
でも、私には気がかりな事があります。
表面には見えないのですが、フィオナの中には何か恐ろしいものが潜んでいる気がするのです。
今のところは何もないのですが、何かのきっかけでそれが飛び出してこない様に、フィオナを良い方向に導いてあげたいです。
フィオナを託してからエリアスは半魔の庭に来なくなりました。
何をしているのでしょう。
母として気になります。
ちゃんとご飯は食べているのでしょうか。
エリアスの事を考えていると、どこかで暗く澱んだ闇の魔力を感じました。
フィオナの中の何かが呼び起こされた? 違う、この魔力はどこか別の場所から発生している。
とても強大で邪悪な力。
世界に何か良からぬ事が齎されようとしている? 私には力の発生源は分からない。
レオン様とエリアスの身に何かなければ良いのですが。
私には半魔の庭の主という立場がある。
無責任にもこの場を離れるわけにはいかない。
私の願いは一つ。
「レオン様、エリアス、生きて」
フィオナside
半魔の庭の生活は何不自由ないものだった。
レイラさんは良くしてくれるし、バーバラさんや他の人たちも親切で穏やかだ。
空腹感に悩まされることもないし、ゲートは人間が通れないから、人間から危害を加えられる心配もない。
各地を転々とする必要もないし、野宿して恐怖から夜も眠れない日々から解放された。
私の信念の『人間と魔族は手を取り合って生きていける』という理想は捨てたつもりはないけど、現実を見た場合、半魔の庭で暮らすのが、私の今の幸せな選択だと思う。
何不自由ない暮らしをさせてもらっているけど、私の中にいつもあるのはエリアス君に会いたいという事だった。
「エリアス君、どうしてるかな」
自然と言葉が零れてくる。
エリアス君の人間界での暮らしはどういうものなんだろう。
辛い思いをしてなければいいな。
ご飯はちゃんと食べてるのかな。
病気してないかな。
怪我はしてないかな。
半魔というのが発覚して、迫害されてないだろうか。
再開の約束が果たせていない。
いつか会いに来てくれるのだろうか。
「好きな人はいるのかな」
いやだ、私、何考えてるんだろう。
でも、その考えが頭の中から離れない。
私が思いを巡らせていると嫌な感覚が襲ってきた。
近くか遠くか分からないけど、この世界のどこかで黒く暗く澱んだ力が沸き起こってくるのを感じた。
途轍もなく嫌な感覚だ。
人や魔族の負の感情を凝縮したかのようだ。
世界に何かが起ころうとしているの? 誰かが良くない力を使おうとしているの?
この力にエリアス君を近づけてはならないということを本能が訴えかけていた。
私は保護してもらった恩があるから半魔の庭を出られない。
エリアス君と遠く離れた私が願うことは一つ。
「エリアス君、生きて」
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