間章

第39話アルベルトside

 アルベルト(原作主人公)side


 いくら剣の練習をしても強くなれない。

 村には非戦闘職の人ばかりで、師事出来る人もいなく自己流で練習しているが上達する兆しがない。


 かと言って魔法の練習をするわけにもいかない。

 僕には魔法の才能がない。


 魔法は剣以上に才能の影響が顕著だ。

 だから強くなるために剣の練習をしている。


 普段は村の中で剣の練習をしているが、腕試しに外にモンスターを倒しに行くこともある。

 でも、僕一人の力で倒せることはほとんどなく、エミリーに助けられている。


 エミリーは僕と同じく剣の才能はないが、魔法の才能はあった。

 僕がピンチになると、風属性魔法でモンスターを倒し、僕が傷を負うと治癒魔法で回復してくれる。


 貴族様でも二属性の魔法を扱えるのは一握りだという話を聞いたことがある。

 正直、嫉妬心がないと言ったら嘘になる。


 エミリーを守ると誓ったのに、これじゃ立場が逆だ。

 僕はいつも惨めな気持ちになる。


 ある日エミリーが病気で動けなかった。

 僕は家族の方と一緒に看病していたのだが、家族がついてくれているので僕はモンスターを倒しに行くことにした。


 今僕がやるべきことは、強くなることだからだ。





 村の外でオークに遭遇した。

 いつもはエミリーが倒してくれているので、強いと感じることはなかったが、僕一人では全く歯が立たなかった。


 僕の攻撃は効かないし、オークの単調な棍棒の振り回しさえ避けることが出来なかった。


「力が欲しい!」


 でもそれも叶いそうにない。

 僕は死を覚悟していた。


 僕に向けてオークは棍棒を振り上げた。

 その棍棒が僕に振り下ろされることは……なかった。


 オークに無数の線が走り絶命したからだ。

 倒れこむオークの後方には黒い鎧を着た人がいた。


 助けてくれた……?


「このような矮小な存在も倒せんとはな。だがいいだろう。貴様の力が欲しいという願い叶えてやろう」


「力……?」


 僕は死を覚悟していたこともあり、呆然としていた。

 その様な状況で力を与えると言われても意味が分からなかった。


 鎧の人はシャドウと名乗った。

 恐らく偽名だろう。


 頭を覆う兜を被っているので声がこもっているのと、音魔法で性別が分からないように声を変えていた。


 シャドウさんは圧倒的な剣技を誇ったが、それを僕に教えてくれるわけではないようだ。

 何度も僕の中にある暗く澱んだ部分と向き合うよう促した。


「貴様は憎い者はいないのか?」


「憎い……? 僕は僕自身の弱さが憎いです」


「そういうことではない。誰かを殺したいほど憎んだことがあるかと訊いている」


「誰かを……そんな……僕は殺すよりも守りたい」


「ふっ、甘っちょろいことを」


 シャドウさんは僕が今まで会ってきた人の中で圧倒的に異質な人だった。

 だが、その圧倒的な強さに惹かれた。


 この力があれば、僕は変われる。






 エミリーが元気になった。

 でも、今までみたいにエミリーとずっと一緒に過ごすことはなく、隠れてシャドウさんと村の外で会った。


 エミリーとシャドウさんを会わせてははならない。

 そんな予感がしたので一人で会っていた。


 シャドウさんの本当に得意なことは剣ではないらしい。

 僕は信じられなかった。


 あれだけの剣技よりも得意なことが? シャドウさんはその力を見せてくれた。

 闇魔法だ。


 その力で凶悪なモンスターを一瞬で葬り去った。

 僕がその場にいるだけで恐怖で動けないほどのモンスターを、シャドウさんは意に介さない様子だった。


 理解不能なその力を怖いというのが正直な感想だった。

 でも、その圧倒的な力に心惹かれているというのも事実だった。


「どうすれば僕にも闇魔法が使えますか?」


「以前にも言っただろう。殺したいほど憎い相手がいるのかと。その感情こそ闇魔法の原動力」


「僕には闇魔法の才能はない……?」


「そんなことは一言も言っていない。貴様には才能があると思ったから声を掛けたのだぞ」


 意味が分からなかった。

 僕に闇魔法の才能が……? 何度も頭の中で反芻するが心当たりはない。





 それからもシャドウさんは闇魔法を見せてくれた。

 モンスターのあらゆる攻撃を闇の障壁で防ぐ。


 闇の波動は相手の抵抗を意に介さず、全てを飲み込む。


「例えば土属性魔法で障壁を展開したとしよう。相手の魔力が上ならば貫通されてしまう。闇魔法なら術者の能力差を覆し、その魔法を飲み込むことが出来る」


「凄い! 本当に僕にもそんな力が使いこなせるのでしょうか? 本当にそうなら僕にも誰かを守る力が……」


「ああ、貴様には才能がある。だが条件がある。その誰かを守るとかいう考えを捨てることだ。誰かを殺したいほど憎むという考え方に改めるのだ。自分自身と向かい合え」


 僕の中にはその様な感情など欠片もありはしないが、言われた通りやってみようと思う。


 先ずはエミリー。

 絶対にない。

 エミリーを幸せにするのが僕の原動力だ。


 次に村の人たち。

 これも絶対にない。


 貧しい暮らしだが、皆親切にしてくれる。

 感謝こそあるが、憎いという気持ちはない。


 僕の生活は村が全てだ。

 村の中にないのなら心当たりがない。


 いや、待てよ。

 僕が村を出る機会があったじゃないか。


 年に一回の武闘祭だ。

 優勝出来なかったから誰かを恨む? 優勝出来なかったのは僕自身の力不足だ。


 恨むなら自分自身だ。

 でも、シャドウさんが言うには、自分ではなく誰かを恨むのが闇魔法の原動力だと。


 思考を巡らせていると、ある人物が頭に思い浮かんだ。

 その人物のことを考えていると僕の中に暗く澱んだ感情が渦巻いていた。


 エリアス・フォン・ディートリヒ。

 僕が武闘祭で戦った相手。


 負けたのは僕が弱かったから。

 でも、衆人の前で恥をかかされた。


 接戦の末の敗北でなく、試合開始直後の敗北。

 ディートリヒ家の人間の初戦。


 会場は大注目だった。

 そのような状況で敗れ、僕は王国中から弱者と認識されたことだろう。


 それらの感情で始めは不快感で吐き気が襲ってきた。

 でも、深く深く思考を巡らせていると力が湧いてくる感じがした。

 僕の中に憎しみの炎が沸き上がってくる。


「そうだ。その感情こそ闇魔法の原動力。体に巡っているその力を手の平に集中しろ。試しにあそこにいるモンスターに撃ってみろ」


 力を制御できるか不安だったが、手の平に魔力を集中させた。

 魔法の才能のない僕が、自らに眠っている魔力を感じ取っている。


 近くにオークがいたので試しに闇魔法を放った。

 闇魔法はオークの体を突き破り、オークはその場に倒れ落ちた。


 信じられない気持ちだった。

 数日前までオークと戦って死にかけていたというのに。


 これが闇魔法の力……?





 それからもシャドウさんは僕の闇魔法の練習に付き合ってくれた。


「そうだ。もっと自分自身と向き合うがいい。その繰り返しが貴様の力を高める」


 僕は闇魔法を連発出来るようになっていた。

 今まで倒すことが難しいモンスターでも容易に討伐できた。


 僕の胸は高揚していた。

 この力があれば何者にも負けない。


「ふははははは!!!!! エリアス、殺す。必ず殺してやる。覚悟しておけ。あはははははは、あーはっはっは!!!」


 楽しみだ。

 エリアスは僕のこの力を見たらどう思うんだろうな。


 エリアスだけでない。

 僕の前に立ちはだかる者は全て殺す。


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