第37話ヴィルヘルム&アルベルト&ルイーサ&ナディア&レオンside

 ヴィルヘルムside


 俺はヴィルヘルムだ。

 貧しい村の出身だが、武闘祭で活躍して成り上がるために帝都にやってきた。


 俺の相棒は魔狼のウルだ。

 何度噛みついても俺には効かねえことに呆れて俺にテイムされることになった。


 ウルに美味いもん食わせるためにやってきたが、門兵はウルをモンスター扱いしやがって。

 腹立つぜ。


 俺の機嫌が悪い時に貴族の坊ちゃんがメイドを伴って王都に入ろうとしてやがる。

 俺は何の苦労も知らない貴族が大嫌いだ。


 エリアスといったか。

 ぶっ飛ばしてやりてえ。





 王都では前夜祭が開かれていて、出店が出ているが俺は文無しだ。

 エリアスが恵んでくれようとしているが、俺は施しは受けたくねえ。


 だが、タイミング悪く腹の虫が鳴りやがる。

 エリアスは俺が負けた時に空腹のせいで負けたと言い訳される訳にはいかないと言いやがった。


 舐めやがって。

 気に入らねえが貰ってやる。


 クソ! こいつは気に入らねえが、飯は美味え。

 体に力がみなぎってくる。





 一回戦は王子様だ。

 エリアスも気に入らねえが、こいつもすかした態度で気に入らねえ。


 先手必勝でぶっ飛ばしたら一瞬で気絶しやがった。

 弱いぜ。


 それにしても、王子をぶっ飛ばすのは気持ち良すぎたぜ。

 賞金とか、仕官の話を忘れるくらい最高に気持ちよかったぜ。


 エリアスをぶっ飛ばせば、あんな気持ちよさがもう一度味わえるのか。

 待ち遠しいぜ。





 準決勝まで勝ち進んだ。

 相手はエリアスだ。


 先手必勝でぶっ飛ばしてやる。

 審判の開始の合図と同時に俺はエリアスに殴りかかった。


 俺の拳が奴の顔付近まできて、勝利を確信したが、奴の姿を見失ってしまった。

 そして激痛が走った。


 俺は町の喧嘩自慢や、ならず者と喧嘩に明け暮れる日々を送っていた。

 だが、どいつも俺に痛みを感じさせることは出来なかった。


 俺は痛覚が麻痺してるんじゃないかと思っていた。

 誰も俺に勝てないと思っていた。


 痛いというのはこういう感覚なのか。

 まずい。

 膝が笑ってやがる。


 俺の武器の跳躍力が発揮できない。

 もう一発来た。


 やっぱりいてえ。

 跳躍どころか歩くのもきつい。


 強がってはいるが、打開策が見えねえ。

 三発目。


 意識が遠のいていく。





 気付いたら医務室にいた。

 俺は負けたのか。


 エリアスがいた。

 改めて見るとこいつは甘ちゃんなんかじゃない。


 俺が想像もできない様な死線をくぐり抜けてきてやがる。

 俺の目は節穴だった。


 エリアス、こいつを認めるしかないようだ。





 アルベルトside


 僕はアルベルト。

 僕は貧しい村の出身です。


 僕が武闘祭に出場する理由は、この大会で活躍して騎士団に仕官するためです。

 そして、いつか魔族の脅威を取り除くことです。


 それと、幼馴染のエミリーに贅沢させてあげたいというのもあります。

 王都に入ろうとしたら貴族様に会いました。


 エリアス様という方です。

 エリアス様といえば、ディートリヒ家のご子息です。


 ディートリヒ家のご当主様といえば、レオン様です。

 レオン様といえば、この国で一番有名と言っても過言ではありません。


 エリアス様はメイドさんを伴っていたので、僕も偉くなってそういう生活を送りたいと思いました。





 僕の一回戦の相手はエリアス様でした。

 試合が始まった瞬間、僕の意識は遠のいていきました。


 気付いたら医務室でした。

 僕は一瞬で負けました。


 エリアス様の見た目に油断していたというのもあります。

 それ以上に力不足でした。


 力が欲しい。

 気持ちだけでは強くなれないと思いました。





 ルイーサside


 私はルイーサ・フォン・アスルーン。

 アスルーン王国第二王女だ。


 私の信念はこの世は強さが全てということだ。

 強さと言っても、単純な武力でなくその他の強さがある。


 ナディアお姉様のような明るく社交的で人を惹きつける魅力や、ミラのような他人を思いやる力だ。


 それなのにミラは私のような強さを手に入れようとしている。

 腹が立つ。


 ミラの優しさは何者にも代えがたい。

 その優しさを大事にしてほしいのに、私に憧れている。


 私は憧れられるような人間ではない。

 汚い人間だ。





 武闘祭当日。

 何の因果か、私の相手はミラだった。


 ミラは、自分のことをエリアスが認めてくれた。

 成長を私に認めてほしいから戦っているという。


 もう認めている。

 ミラは素晴らしい。


 何物にも代えがたい。

 でも、私は強がった態度になってしまう。


 力こそ正義だと。

 心と行動が乖離していく。


 ミラを守りたいのに傷つけてしまう。

 誰か私を止めてくれ。


 エリアスだ。

 ありがとう。





 決勝戦はお互いの主張をぶつけ合ったが、そんなことはどうでも良かった。

 ミラを助けてくれたことに感謝しかない。


 実力的にもエリアスが上回っていることに私は気付いていた。

 ヴィルヘルムという平民との試合を見ていたが、私はエリアスの動きを目で追うのが精一杯だった。

 実際の試合だったら、追いきれないだろう。


 太刀筋の鋭さを見ていれば、威力も凄いのだろう。

 私の耐久力なら、もって二発か三発だろう。


 私は負けた。

 ありがとう、私を救ってくれて。

 ミラを救ってくれて。





 ナディアside


 私はナディア・フォン・アスルーン。

 アスルーン王国第一王女です。


 今日もルイーサはミラに厳しい。

 愛情の裏返しだと私は気付いているのですが、ルイーサは不器用みたいです。


 ミラは最近ディートリヒ家によく行っています。

 バルナバスに剣を教えてもらいに行っているようですが、本音はお城にいたくないのでしょう。


 ルイーサを見ていると、嫌でも自分の弱さが浮き彫りになってしまう。

 私もルイーサのようになりたくないと言ったら、嘘になります。


 でも、私は自分自身を認めたい。

 ルイーサにはルイーサの良さが、私には私の良さが。

 そして、ミラにも。


 ミラはディートリヒ家から帰ってくるととても明るい表情になりました。

 そして毎日、エリアス、エリアスと、エリアスの話題ばかりです。


 私はエリアスのことが気になりました。

 どんな魅力的な人なのだろう。





 武闘祭の日が来ました。

 他にも参加者がいるのに私はエリアスだけ目で追ってしまいます。


 カッコいい。

 物語の主人公みたいだと思いました。


 優しさや、強さが滲んだ言葉。





 準決勝の試合。

 ルイーサとミラの対戦です。


 私はこの試合は止めて欲しいと思いました。

 胸騒ぎがする。


 ルイーサの想いが爆発して駄目な方向に行きそうな予感がするのです。

 一方的な展開です。


 ミラがルイーサに勝てるわけがありません。

 私は目を背けたかったです。


 倒れているミラにルイーサは剣を振り下ろそうとしていました。

 止めて! 私の想いが届いたのかルイーサが振り下ろそうとした剣は途中で止まりました。


 エリアスです。

 審判は失格を言い渡そうとしましたが、ルイーサはそのまま決勝戦を続けようと言いました。


 試合はエリアスが勝ちましたが、審判団がエリアスの失格負けを決定しました。

 お父様が審判団に抗議しましたが、決定は覆りませんでした。





 ルイーサたちの表彰式が終わった後、城で宴が開かれました。

 そこで私はエリアスを連れ出しました。


 話をしてみると、思っていたよりも数倍素敵な方でした。

 アルベルトという知らない方の印象を私に聞いてきたのだけは、意味が分かりませんでしたが。


 エリアス、また話してみたい。

 私の心の中はエリアスで一杯なのでした。





 レオンside


 エリアス、リア、レア早く帰ってきて~!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る