第36話第一王女ナディア
「ナディア様」
「エリアス」
ここで原作ヒロインと邂逅するとは思いもしなかった。
「申し訳ありません……」
「え? 何が?」
「ルイーサ様のことです……」
「ああ、そのことね。ルイーサが無事という報告を受けてるわ。気にしないで。それより、こちらこそありがとう。ルイーサを止めてくれて。あのままだったら取り返しのつかないことになっていた。ルイーサはミラに厳しいのよね。愛情の裏返しってことは分かってるのだけど。それとこちらも謝らないといけないことがあるの。君の反則負けが決まったの。ルイーサは構わないと言ったけど、審判団の協議で反則ということになったわ。ごめんなさい」
「ナディア様が謝ることではないです。俺はあの時、反則負けを覚悟したのですから」
「男らしいのね。ふふ、カッコいい」
「!」
俺は赤面してしまう。
大罪英雄と運命の勇者の女性キャラは、皆美しく魅力的だが、ナディア様はその中でも別格だった。
常時魅力バフがかかっている。
後光が差している気がする。
大会はルイーサ様の優勝ということになった。
俺は決勝が反則という事だけでなく、全ての試合が無効という扱いになったので、三位決定戦にも進むことが出来なかった。
本来、三位決定戦はミラ様とヴィルヘルムのカードだったはずだが、ミラ様が出場できる状態でなかったので、ヴィルヘルムが二位。
ミラ様が三位だった。
ルイーサ様とミラ様は一時的に意識を失っていただけで、怪我も少なく翌日城での表彰式と宴に参加することになった。
俺は入賞してないのに何故か二人に付いて行くことになった。
俺だけでなく、ソフィアやリア姉様とレア姉様も付いてくることになった。
そして、ヴィルヘルムもいた。
二位入賞したから、その表彰のためだ。
「二位で金貨100枚か。本当は優勝したかったけど、これだけあれば暫く美味いもんが食えるな。あっはっは! まぁ、騎士団への仕官は無理だったけどよ」
「え? どういうこと?」
例年、優勝者以外に二位や三位の者でも仕官できた例がある。
優秀な人材を逃さないためだ。
「騎士団のお偉いさんから言われたんだけどよ、俺の発言や素行が問題だったみたいだ。まぁ、自業自得ってわけだ。わっはっは!」
「そうなんだ。残念だったね」
「ふっ、私から騎士団に取り計らってやろうか? 君の実力は私も認めるところだからな」
え? ルイス様? あんなに盛大にぶっ飛ばされてたのに、ヴィルヘルムを許すのか。
流石王族。お心が広い。
ルイス様はすっかり元気になられていた。
「あんがとよ、王子さん。でもいいや。俺の素行が悪いのは事実だからな。今後のことはおいおい考えるわ。はっはっは!」
「ふっ、残念だな」
ルイス様のいつもの調子が戻って良かった。
俺たちは表彰式のために登城した。
受賞者は王様からお言葉をもらう。
優勝者と三位が王族なので賞金はどうなるのか分からないが、二位のヴィルヘルムは、もう賞金を貰っているみたいなことを言っていた。
「優秀な戦士を見つけるための大会だったのに、お前が優勝するとはな、ルイーサ」
「申し訳ありません」
「謝ることはない。お前が優秀だからだ」
「いえ、まだまだです。これから精進しなければなりません」
「うむ。それとエリアス、すまなかったな。そなたの反則負けについて私は反対したのだが、審判たちが譲らなくてな」
「いえ、私が選んだことで御座いますから」
「すまない、エリアス……」と、ルイーサ様が小声で謝ってきた。
「それと、そなた。ヴィルヘルムと言ったかな? 騎士団への仕官の件申し訳なかった。こちらも何とかなるように言ったのだが、騎士団が反対してきてな」
「いえ、本来騎士団への仕官は優勝者が手にするのが原則。私の力不足と素行不良が原因で御座いますので、お気になさらず」
ヴィルヘルム、王様にはちゃんと敬語で話せるんだな。
少し見直した。
「堅苦しい話はここまでにして、宴を用意している。思う存分楽しむが良い」
宴の席には豪華な料理が用意してある。
皆、美味しそうに食べている。
特にヴィルヘルムが。
宴が落ち着いてきた頃、俺は誰かに腕を引っ張られて連れていかれようとしていた。
「隙あり!」
ナディア様だ。
宴の席を離れて静かな場所に二人でやってきた。
「二人っきりになりたかったんだよね」
「ナディア様……」
何故、俺と二人っきりになりたいんだろう。
「かっこよかったよ。エリアスが一番輝いていた。強さだけじゃなくて優しさも。ミラを助けに行った時には、私、痺れちゃったな」
「私の悪いところです。後先考えずに行動して。そのせいで反則負けになってしまいました。ははは」
ナディア様は俺の手の甲に掌を乗せてきた。
「悪いところじゃないよ。エリアスの優しさ好きだな。私もあんな勇気欲しいよ」
ナディア様は夜空を眺めながら呟いた。
「ところで話は変わりますが、俺の一回戦の相手を覚えていますか?」
「どうしたの、急に?」
大罪英雄と運命の勇者はフリーシナリオだが、ユーザーの間で正ヒロインはどっちだという議論がある。
原作主人公アルベルトの幼馴染エミリーと、第一王女ナディア様だ。
主人公を支え続けたエミリーこそ正ヒロインだ、いや、明るく社交的なナディアこそ正ヒロインだという声がある。
俺は個人としての意見は差し控えるが、正ヒロインと言われている人が、原作主人公をどう思っているのか気になった。
「いや~、単純に気になったので……」
「名前は何だったかしら……そうそう、アリガトウだったかしら。でも、直ぐに負けちゃって印象に残ってないのよね」
「アルベルトですよ! 何で感謝してるんですか!」
「そうなのね。本当に覚えていなかったわ」
まずいことになった。
原作のナディアルートはゲーム史における最高のハッピーエンドと言われているのに、そのナディア様がアルベルトのことを、モブキャラ扱いするなんて……。
俺のシナリオ改変によって歴史が動き過ぎてしまったのか……。
「ヴィルヘルムやルイーサ様、そして私を超える可能性を持っていたので、ナディア様に印象を聞いてみたのです」
「ふ~ん、そうなのね。エリアスしか見てなかったから、印象に残らなかったわ」
ナディア様は本当にアルベルトに興味がないようだ。
俺たちは宴の会場に戻った
「お姉様、こちら食べて。美味しですですわよ。うふふ」
「ああ。美味いな。ミラも沢山食べるが良い」
「美味しいですわね。うふふ」
ルイーサ様とミラ様が仲睦まじくしている。
俺はこの光景が見れただけで報われた気がする。
もう直ぐディートリヒ家に帰るのか。
色々あったが、王都を去るのは寂しいな。
そんな俺の心を見透かしたのか、ルイーサ様とミラ様が声を掛けてきた。
「エリアス、まさか帰ろうと思っているのではないのか。暫く王都でゆっくりしていけ」
「そうよ、エリアス。ゆっくりしていきなさい」
「父上が待ってますから」
「レオン様なら大丈夫だろう。ほら、食え、真の優勝者」
「そうよ。食べなさい、エリアス」
ソフィアとリア姉様とレア姉様も来た。
「エリアス様、沢山食べて下さいね」
「あんたのために取ってきたわけじゃないんだからね! あんたに食べてほしいんじゃないからね!」
「ん? ん?」
レア姉様は俺に食べ物を押し付けようとしてくる。
無言じゃなく、少し声を発してくれるようになった。
色々想定外のこともあったが、俺の努力で破滅の未来から変わろうとしている。
でも、油断はできない。
まだ見ぬ大罪英雄は三人いる。
そいつらと戦いたいし、まだ俺自身のステータスも上げ足りない。
まだまだ前に進むんだ。
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