第34話決勝戦

準決勝のもう一試合が行われていた。

対戦カードはミラ様とルイーサ様だ。


「ぐ……がはっ……」


試合は一方的な展開だった。

ルイーサ様の攻撃でミラ様が倒れる。


ミラ様は立ち上がるが、ルイーサ様の攻撃で再び倒れる。


「ミラ、もうギブアップしろ」


「い、いやです……私はお姉様の様になりたかった」


「お前が私になれるわけがなかろう。ふざけるな」


「わ、私はずっとナディアお姉様とルイーサお姉様のようになりたかった。でも、エリアスは私自身を見てくれた。私は私のままで良いと。ここで退くわけにはいきません。私が私であることを証明するために!」


「何をわけの分からないことを言っている? この世は強ければ勝ち、弱ければ負ける。それだけだ。自分自身を認めるとか、認めないとかどうでも良い」


「ぐ……あ……」


もうミラ様に戦う力は残っていない。

立ち上がるのも難しそうだった。


倒れているミラ様にルイーサ様は剣を振りかぶった。


「終わりだ、ミラ」


「お……姉……さま」


だが、その剣がミラ様に直撃することはなかった。

俺が途中で受け止めたからだ。


「何をしている、エリアス?」


「エ……リアス……」


「君、何をしている! 失格にするよ」


審判から注意が入った。

ルイーサ様とミラ様も戸惑っている。


観客も何が起こっているのか分からず静まり返っている。


「失格になってもいい! ルイーサ様、もう勝負はついています。こんなことは止めて下さい」


俺はミラ様を抱きかかえ、ソフィアと姉様たちに託した。


「では、失格ということでいいかな?」


審判から確認が入る。

それだけのことをしてしまったから受け入れるしかないだろう。


「はい。覚悟はできております」


「待て。こんなことで優勝しても嬉しくはない。このまま決勝戦といこうではないか」


「!」


俺は失格を覚悟していた。

ルイーサ様は俺との決着をつけたいようだ。

まさかこんな展開になるとは。


「ルイーサ様がそう仰るなら……では、始め!」


「エリアス様、これ!」


ソフィアは木剣を投げ込んでくれた。


「どいつもこいつも甘ちゃんばかりだな、エリアス。何の得にもなりはしないのに失格の危険を冒すとは」


「不必要に痛めつけて何になるというのです。それに姉妹なのに何故? ルイーサ様はミラ様を愛している。だからこそ、ミラ様の武闘祭への出場を反対していた」


「愛などと恥ずかしいことをこのような衆人の前でよくも。ミラは身の程知らずだ。私に近づけると思っていたなら片腹痛い。城の中で大人しくしていれば良いものを」


「ミラ様はご自身の成長をルイーサ様に認めて欲しかっただけです。ミラ様は自分自身の弱さを認めていた。身の程知らずではありません」


「どいつもこいつも認めるだの、認めないだの、そんなことに価値はない。この世は強さこそが全てだ。このまま話し合っても決着はつかないだろう。剣で白黒つけるとしよう」


「ええ。本当はミラ様の気持ちを分かってほしかったのですが、仕方ないでしょう。俺は負けません!」


「行くぞ!」


ルイーサ様の攻撃が来た。

かなりいい太刀筋だ。

だが、俺は難なく回避する


『システムメッセージ:敏捷性が300上がりました。サイドアヴォイダンスのレベルが10上がりました。バックアヴォイダンスのレベルが10上がりました』


「ほう、今のを躱すか。中々やるな」


太刀筋は良いが、王宮剣術だ。

恐らく日々騎士団の猛者たちとしのぎを削っているのだろう。


ここまでくるのにかなりの鍛錬だっただろう。

だが、俺はモンスターと戦ってきた。


奴らの方が何をしてくるか分からない。

少しの判断ミスで命を落とすことになる。


それに対して人間は対策がしやすい。

性格が出やすいからだ。


ミラ様の様に漫然と斬りかかったり、ヴィルヘルムのように先手必勝を狙い、外れたらわざと攻撃を受け、己の打たれ強さを見せつけて相手を戦意喪失させる。


ルイーサ様はオーソドックスな戦い方だ。

力、速さ、技、全てのレベルが高いバランスタイプだ。


ヴォルフとカールとバルナバスの良いとこ取りしたような感じだ。

人間相手なら敵はいないだろう。


だが、俺とは相性が悪すぎる。

全ての動作が教科書通りだ。


常にどう攻めてこられたら嫌というのを頭の中でイメージしている俺からしたら、読みやすすぎる。


「はぁはぁ、中々素早いな、エリアス」


ルイーサ様は果敢に攻めてこられるも攻撃が当たらない。


敏捷性が500上がった。

サイドアヴォイダンスとバックアヴォイダンスのレベルが10上がった。


「今度はこちらから行きます」


「来るが良い。全て見切ってみせる」


『システムメッセージ:ルイーサに1000のダメージを与えました。攻撃力が500上がりました。シングルスラッシュのレベルが10上がりました』


「く……早い、そしてこれほどの威力とは……」


ルイーサ様は疲労とダメージからか、苦悶の表情をしている。


「だが、私にも譲れぬ想いがある。王家の人間としての責務。積み上げてきた自信。それらのためにも負けられぬのだぁぁぁ!!!」


ルイーサ様は渾身の一撃を放ってくるが、俺はカウンターを決める。


『システムメッセージ:ルイーサに2000のダメージを与えました。攻撃力が500上がりました。器用さが200上がりました。カウンターのレベルが10上がりました』


「くっ……おう……けの……にん……げんと……してまけられ……ぐはっ―――」


ルイーサ様は必死に倒れまいとしていたが、崩れ落ち、気を失った。


「しょ……勝負あり!」


決着がついた。

これで良かったのかは分からないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る