第32話一回戦

 試合当日。

 俺たちは会場に来ていた。


 控室には俺とミラ様、ルイーサ様、リア姉様、レア姉様、ソフィア、そして第三王子ルイス様がいた。


 試合が始まるとこのメンバーで観戦することになる。

 席は最前列の特別席だ。


 ルイーサ様が俺たちと一緒に観戦するのが意外だった。

 そして第三王子ルイス様。

 この人、誰だっけ? 原作知識を思い返しているけど思い出せない。


 早速第一試合が始まる。

 カードは俺と……アルベルトだ。


 まさかこんなに早く原作主人公と当たるとは。

 係員が俺を控室まで呼びに来る。


 俺は試合場まで移動し、皆は応援席まで移動する。

 移動の道中、皆から応援されている。


「エリアス様、ファイトです」


「エリアス、頑張って」


「あんたを応援しにきたわけじゃないんだからね! あんたに勝ってほしいと思ってるわけじゃないんだからね!」


「……」


「ふん、お手並み拝見と行こうか」


「エリアス、華麗に決めてきたまえ」


 皆から嬉しい声援を受けた。

 最後のはルイス様だ。





 試合場に到達した。

 反対からアルベルトが入場してきた。


 まさかこんなに早く雌雄を決するときが来るとはな。


「アルベルト~、頑張って!」


 エミリーがアルベルトを応援している。

 残念だがその願いは叶わない。


 俺が勝つから。


「エリアス様、昨日はありがとうございました。でも、今日は全力で行かせていただきます」


「望むところだ、アルベルト。こちらも全力で行かせてもらう」


「アイテムと魔法の使用は禁止。ギブアップと私が戦闘不能と判断したら試合終了。双方よろしいか?」


「「分かりました」」


「始め!」


 俺たちの実力は拮抗して……いなかった。

 一瞬で勝負はついた。


「勝負あり!」


 俺の圧勝だった。

 ステータスも全く上がらなかった。

 この時点のアルベルトと俺では実力差が開き過ぎていた。





 俺は医務室に来ていた。


「僕は……負けたのか……」


 アルベルトが目を覚ました。


「アルベルト! 良かった、目を覚ましたのね」


 エミリーはずっとアルベルトのことを傍で心配していた。


「全然動きが見えなかった……負けたのもよく分かってないです」


「大丈夫なのか?」


「ええ、意識がだんだんはっきりしてきました。でも、悔しいです。完敗です」


「またやろう。待っている」


「はい。僕は必ず強くなります」


「では、俺は行くよ」


「エリアス様」


「?」


「昨日のご飯の味は忘れられません。ありがとうございました」


「お礼は姉さまたちに言ってくれ」


「?」





 俺は応援席に戻ってきた。


「エリアス様、流石です」


「エリアス、かっこよかったよ」


「あんたに勝ってほしいなんて思ってなかったんだからね! カッコいいなんて思わなかったんだからね!」


「……」


「まずまずだな。相手に恵まれたか」


 皆から褒められて素直に嬉しい。

 次の試合は……ルイス様とヴィルヘルムだ。


「華麗な勝利をお届けするよ」


「ルイスお兄様、頑張って下さい」


「ルイス、油断するなよ」


「ミラ、ルイーサ姉様、心配はいらない。華麗に決めてくるよ」





 二人が試合場に入場してくる。


「俺の相手は王子様かよ。甘やかされて育ったお坊ちゃんをぶっ飛ばせるなんてよ!」


「野蛮だね。華麗な王宮剣術を見せてあげよう」


 俺は嫌な予感がした。

 二人のモチベーションの差がありすぎる。


 目的が良い悪いは置いておいて、ヴィルヘルムの気力は漲っている。

 それに対して、ルイス様は油断しすぎている。


 ある程度余裕があるのは良いことだが、相手を見下し過ぎている。


「ん? 君は武器を持ってないのか?」


 審判から確認が入った。


「ああ、俺はこの拳一つでいいぜ」


 確かにルールではどの武器を使うか決まっていない。

 でも、ほとんどの参加者が木剣を使っている。


「ルール的には問題ないが……君が良いというなら許可しよう。では始める。アイテムと魔法の使用は禁止。ギブアップと私が戦闘不能と判断したら試合終了。双方よろしいか?」


「いいぜ」


「結構」


「始め!」


「ふっ、華麗な王宮剣術を見せてあげよう。君のような野蛮な者には優雅さが足りな―――」


 ルイス様が言い終わる前にヴィルヘルムはルイス様の右頬を殴っていた。

 ルイス様は場外まで飛ばされ、失神した。


「何を試合中にのんびり喋ってやがる。欠伸が出るぜ」


 ヴィルヘルムが言っていることは間違っていない。

 試合に集中していなかったルイス様が悪い。

 それでも納得できない俺がいた。


「弱い、弱すぎる。王家の人間てのはこんなに弱いのかよ」


「貴様ー! 舐めるなー!」


「止めて下さい! お姉様」


 ルイーサ様は今にも試合場に入って、ヴィルヘルムに斬りかかりそうな勢いだが、皆が必死で止めている。

 弟を殴られ、侮辱されたのだから当然だろう。


 ルイス様は医務室に運ばれていった。





 俺たちは医務室に来た。

 ルイス様の意識は戻らない。


「ルイス! ルイス!」


 ルイーサ様は無理矢理ルイス様を起こそうとしている。


「お止め下さい、ルイーサ様」


 ルイーサ様は医者から止められた。


「命に別状はありません。暫くしたら意識を取り戻すでしょう」


「すまない……取り乱した」


「いえ……」





 俺たちは会場に戻ってきた。

 大会は進み、ミラ様、ルイーサ様も順調に勝ち進まれた。


 準決勝が始まる。

 俺の準決勝の相手は……ヴィルヘルムだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る