第31話前夜祭

 アルベルトとエミリーの二人は、俺たちの近くまでやってきた。


「貴族様、こんにちは」


「こんにちは。君も武闘祭の参加者?」


 俺は知っているけれども質問する。

 原作の時系列まで来ていないが、アルベルトの目的は武闘祭の参加で間違いないだろう。


「はい。優勝して騎士団に仕官しようと思っています」


「そうなんだ。頑張って。俺はエリアス。敬語じゃなくてもいいよ」


「まさか。貴族様にタメ口なんて恐れ多い。でもいつか貴族様みたいに偉くなってみせます。僕はアルベルトと言います」


「よろしく。アルベルト」


 原作が開始していない時点なので、アルベルトの実力は強くないだろう。

 でも、その瞳には強い光が宿っていた。


「では、失礼します」


 二人は先に行ってしまった。

 特にトラブルもなく、アルベルトは好青年といった印象だった。





 王都は武闘祭の前夜祭が行われていて賑わっていた。

 ディートリヒ家も栄えているが、王都もかなり栄えている。

 数多くの出店が出ている。


 リア姉様が食べ物をたくさん買い込んで俺に渡してくる。


「あんたに栄養を蓄えて、優勝してほしいから買ったわけじゃないんだからね。あんたに食べて欲しいから買ったわけじゃないんだからね」


 じゃあ、何で買ったんだ……。

 レア姉様も無言で俺に食べ物を渡してくる。

 食べろということなのか……。


「ちっ、腹減ったぜ。こんなに出店が出てるのに文無しとはな」


「アルベルト、お腹空いたね」


「ああ、今はお金はないけど、優勝してエミリーに贅沢させてあげるよ」


「アルベルト……」


「ちっ……イチャイチャしやがって……ムカつくぜ」


 ヴィルヘルムとアルベルトとエミリーだ。

 三人はお腹が空いてるみたいだ。

 三人は俺の原作知識だと貧しい村の出身だったと思う。


 俺はリア姉様とレア姉様から貰った食べ物を三人に手渡そうとする。


「あぁ? どういうつもりだ、小僧。施しのつもりか? ぐううううううううううううううううううううう」


「腹の虫がなってるみたいだけど? 腹が減ってたから負けたなんて試合後に言い訳されても困るからね」


「てめえ! 後悔するなよ。クソ! 美味ぇ、美味ぇよ。優勝したらこんなに美味いもんが毎日食えるのかよ。負けられねえ」


 意外と素直なところがあるんだな。


「エリアス様、いただけません」


「アルベルト、折角だから貰おうよ。長時間の移動でお腹空いたでしょ」


「二人とも気にしないで食べて。これで試合に負けてなんて言わないから。正々堂々と勝負しよう」


「では、お言葉に甘えて。美味しい……優勝してエミリーと一緒に王都に住むんだ。絶対に仕官してエミリーに贅沢させるんだ」


「美味しい……エリアス様、ありがとうございます」


 喜んで貰ってよかった。

 納得してない人もいるが。


「あー! それ、あんたにあげるためじゃないけど買ったやつー! あんたにあげるために買ったんじゃないから人にあげないでよねー!」


 リア姉様、言ってる意味が分かりません。

 俺にあげるためじゃないなら、人にあげてもいいと思うけど。


「おい小僧! 飯奢ってもらったからといって手抜きはしないからな!」


「エリアス様、僕も全力で挑ませてもらいます」


「ああ、二人とも正々堂々と勝負しよう」


「ふん、じゃあな」


「失礼します」





 それから俺たち四人は引き続き王都を回った。

 ソフィアと姉二人は相変わらず俺に食べ物を無理やり食べさせようとしてくる。


「エリアス様、栄養付けて頑張って下さいね」


「あんたに食べてほしいわけじゃないんだからね! 絶対に食べて欲しくないんだからね!」


「……」


 リア姉様食べて欲しくないのに何故無理やり食べさせようとする。

 レア姉様、無言で食べ物を押し付けてくるな。





 城の方角に近づくと、ミラ様と合流できた。


「よく来たわね、エリアス」


「お久しぶりです。ミラ様」


「そんなに久しぶりってわけでもないでしょ? ふふふ」


「ミラ様、楽しそうです」


「ミラ、楽しそうね」


「そうかしら? ソフィア、リアさん」


 俺たちが談笑していると城の方からさらに人がやってきた。


「エリアス、リアとレアか」

 第二王女、原作では傲慢英雄のルイーサ・フォン・アスルーン様だ。

 腰まで伸びた髪、凛とした雰囲気、白銀の鎧を身に纏っていた。


「エリアス、武闘祭に出場するようだな? 精々怪我をしない様に頑張ることだな」


「かしこまりました」


 ついつい委縮してしまう威圧感だ。

 優勝しますとか軽々しく言えるような空気感ではない。


「ミラ、出場辞退しろといったはずだ。お前では無理だ」


 それは俺も思っていることだが、姉妹で直接口にするとは。

 厳しいお方だ。

 いや、考えようによっては優しい気もするが。


「ルイーサお姉さま、私も成長したのです。それをお姉さまに見て欲しいのです」


「そうは見えんがな。お前もナディア姉さまのように公務に努めていれば良いのだ」


「バ~カ、バ~カ、ルイーサのバ~カ。ミラの気持ちを考えてあげなよ」


「何か言ったか? リア」


 怖い物知らずだな、リア姉様。


 と思ったら、『ぴゅ~ぴゅ~』と口笛を吹きながらルイーサ様とは逆の方向を向いて誤魔化している。


「いつまでも騒がしい奴らだな。まあ、そこが羨まし……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。では、私は城に戻る」


 凄い威圧感だった。

 王族の責務からくるものだろうか


「私も城に戻るね。また明日」


「おやすみなさい、ミラ様」




 俺たちは宿に着いた。

 

 今日は色々あったけど、なんだかんだで楽しい一日だった。

 後は、明日優勝するだけだ。

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