第30話暴食英雄ヴィルヘルム

 王都に向かう日。

 俺、ソフィア、リア姉様、レア姉様の四人で向かうことになった。


 今回の大会は魔法が使えないのでクリストフは参加できないし、有望な若手を見つけるための大会なので、ヴォルフ、カール、バルナバスは参加しない。


 四人が出迎えにきた。


「ソフィア、エリアス様を必ずお守りしろ」


「言われなくても」


「坊ちゃん、精々頑張んな、がははははは!」


「エリアス様のご活躍期待しております」


「ほっほっほ、楽しみですな」


「皆、行ってくるよ」





 俺たち四人は馬車で王都に向かう途中だ。


「エリアス、あんたと一緒にいたいからついてきたわけじゃないんだからね」


「はぁ、何か目的があるのですか?」


「だから、気分転換よ! 久しぶりに王都に行ってみたくなったのよ」


「リア様、最近王都に行かれたのでは?」


「ソフィアうるさいわね。また行きたくなったのよ」


「……」


 相変わらずレア姉様は無口だ。

 リア姉様とミラ様がレア姉様がお喋りと言っていたのが信じられない。


 その後もリア姉様は『あんたのためじゃないんだからね』を連発していた。

 分かったっちゅうの。





 王都の目前にきた。

 俺たちは馬車から降りた。

 門兵と若い男が言い争っている。


「何だよ、こいつは中に入れないってのか?」


「モンスターは中に入れない。諦めろ」


「誰がモンスターだ! こいつは相棒だ」


 男は巨大な魔狼を連れていた。

 テイマーか。


 この男の顔に見覚えがある。

 確か原作に出ていた。


 暴食英雄ヴィルヘルムだ。

 短い金髪、精悍な顔つき、鍛えられた肉体。


「何があった?」


「は、これはこれはエリアス様、この男がモンスターを王都の中に入れようとしてまして……」


「だ~か~ら、こいつはモンスターじゃなくて相棒だっつってんだろ。ん? 何だおめえ?」


 ヴィルヘルムは俺たちを舐めまわすように見回した。


「恰好からして貴族様か? いいご身分だぜ。メイドまで連れちまって」


「エリアス様への侮辱は許しませんよ」


「同じく。平民みたいだけど、ディートリヒ家の人間を侮辱してただで済むと思うの」


「貴様ぁ、この方たちはディートリヒ家の方々だぞ! その態度は何だ!」


「へぇ、レオン……様のねぇ。今回の大会で優勝したら騎士団に仕官できるみたいだけど、ディートリヒ家で雇ってもらうのも悪くねえか。小僧、お前も出場するのか? お前みたいな偉そうなガキをぶっ飛ばすのも面白そうだ。あっはっは!」


「この男、消しましょうか」


「ソフィア、やっちゃって」


「ちょっと、皆落ち着いて。おじさん、俺も出場するよ。そこで決着つければいい」


「誰がおじさんだ。俺は若けえんだ! おめえみたいな弱そうなガキが俺に勝てるわけねえだろうが。甘やかされて育つとこうも非常識になるもんかね」


 舐めてるわけじゃない。

 この中でヴィルヘルムの強さを分かっているのは俺だけだろう。


 今は魔狼を連れてるからモンスターテイマーだろうけど、原作終盤で出てくるヴィルヘルムはドラゴンテイマーの異名で呼ばれていた。


 圧倒的なタフさで、ドラゴンから攻撃を受けても平然としていることから、伝説的なドラゴンたちが呆れ、こいつには何をしても効かないとテイム、いや、渋々付いて行くという感じだった。


「やっぱり消しましょう」


「私もいい加減腹が立ってきたわ」


「ちょっと、二人とも落ち着いて! って、レア姉様も。何で掌をかざしてるんですか! こんなところで魔法を撃つ気ですか!」


「ここでやってもいいんだぜ。俺はおめえみたいな甘やかされた貴族をぶっ飛ばしてえ! さぞかし気持ちいいんだろうな! はっはっは!」


「そしたら優勝賞金の金貨1000枚貰えないけど。それでもいいなら俺はここでやっていいよ」


「ちっ、舐めやがって! ここは見逃してやらあ。金貨1000枚ありゃ暫く美味いもん食い放題だからな。ウル、ここいらで大人しくしてろ」


「分かった」


「わっ! モンスターが喋った!」


「だから、モンスターじゃねえって言ってんだろうが!」


 姉様たちはディートリヒ家からほとんど出ないから、喋るモンスターと遭ったことがないのか。

 俺はダンジョンで骸骨のおじさんと戦ったからある。


 それと転生前には、漫画やアニメ、ゲーム、ラノベで当たり前のように見てきた。

 だから皆ほど驚きはない。


「門兵さん、この魔狼を見かけた市民から騎士団に通報が入り、やってくるかもしれないが、上手く言っておいてくれないかな? もし市民を襲いそうな様子があったら迷わずに討伐していいから」


「あぁ? ウルに手を出してみろ。ただじゃおかねえぞ!」


「かしこまりました、エリアス様。難しいですが、そのように手配いたしましょう」


「ありがとう」


「小僧、てめえは必ずぶっ飛ばしてやるからな!」


 ヴィルヘルムは行ってしまった。

 騒がしい男だ。




 今度は若い男女が王都にやって来た。


「エミリー、ついにやってきたよ。王都だ」


「そうね、アルベルト。わくわくするわ」


 一難去ってまた一難。

 今度は原作主人公とその幼馴染の登場だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る