第29話ミラside

 ミラside


 私はミラ・フォン・アスルーン

 アスルーン王国第三王女よ。


 私は飄々とした演技をしているけど、心の中はコンプレックスで埋め尽くされている。

 嫉妬心で一杯。


 第一王女のナディアお姉さまは社交的で皆から愛される性格。

 第二王女のルイーサお姉さまは強く頼もしい。


 私はナディアお姉さまにはなれないと思った。

 ナディアお姉さまは特別。

 生まれ持ってのヒロイン。


 私はルイーサお姉さまのように強くなりたいと思った。

 でもそれすら叶いそうもない。

 私には戦闘の素質すらない。


 バルナバスに剣を習いにディートリヒ家に行っていると言っているが、本当はお城にいたくないだけ。

 二人を見ていると嫉妬心でおかしくなってしまいそう。


 努力しているはずなのだけれど、全然上達しない。

 教えてもらっているバルナバスにも悪いと思う。


 ある日ディートリヒ家に行くと、バルナバスとエリアスが試合をしていた。

 互角。

 いえ、エリアスは試合が進むうちに成長している。


 このまま試合が進むとエリアスが勝つ。

 あの伝説の騎士のバルナバスが負ける? 信じられない。


 私はバルナバスが試合を止めて欲しがっているような心の声が聞こえた気がした。

 二人に声を掛けるとバルナバスが駆け寄ってきた。


 試合を止めてくれて感謝しているような顔に見えた。

 あのバルナバスが恐れをなすことがあるなんて。


 私はエリアスに興味を持った。

 ルイーサお姉さまのような力こそ正義みたいな考え方なのかと思ったら違っていた。


 大事なものを守るために力は必要だけど、それ以外の価値観も大事にしているように思えた。

 どちらかと言えば、ナディアお姉さま寄りの考えかと思うけど、ナディアお姉さまとも違った魅力を持っていた。


 私はエリアスに試合を挑んだ。

 何故なのかは分からない。

 その時はそれで何かが変わる気がしていたのかもしれない。


 初めから勝てる気はしなかった。

 鈍感な振りをしているけど、私は自分自身の弱さを分かっている。


 エリアスが本当は強いけど、適当に話を合わせてくれているのも分かっている。

 実力差は圧倒的だった。


 私が打ち込んだ木剣をエリアスは条件反射で弾き飛ばした。

 手加減していたのでしょうけど、体に染みついた技が自然に出てしまったのでしょう。


 私はエリアスの胸に飛び込んでいた。

 愛されることも、強くなることも叶わず、私には何もないと思い至った結果、何かに縋りたかった。


 エリアスの優しい表情や、纏っている雰囲気が、私を受け入れてくれる気がした。

 私は気持ちが昂ってエリアスに思いつくまま感情をぶつけてしまった。

 それを受け止めてくれた。エリアスは。


 私の長所は他人を思いやることなのだと。

 自分より他人を優先させていると。


 私が言ってほしかった言葉をエリアスは言ってくれた

 私は誰かに認めて欲しかったのだと気付いた。


 私の中の嫉妬心が消えていく。

 エリアスに会えて良かった。

 彼に会えていなかったら、私は闇に堕ちていた。

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