第28話シナリオブレイク(嫉妬)
翌日、騎士団に行くとバルナバスとミラ様が剣の稽古をしていた。
「えい! とりゃ!」
「ほっほっほ」
剣は得意ではないのかな。
わざわざバルナバスに稽古つけてもらう必要なさそうだが。
「おう、坊ちゃん」
「おはよう、ヴォルフ」
「どうだい? 滑稽だろ? わざわざ爺さんに稽古つけてもらう意味あるのかね。がははははは!!!」
「失礼だって、あははは……」
ヴォルフの意見を心の中で否定できない俺がいる。
「あ、エリアス。おはよう」
ミラ様は俺に気づいて近寄ってきた。
「おはようございます、ミラ様。朝から頑張ってますね」
「え、そうかな? えへへ」
ミラ様は頑張るという言葉に異常に反応した。
社交辞令で言ったつもりだったが、とても嬉しそうだ。
「ところで今いらっしゃるということはかなりお疲れではないのですか? あれから王都に帰られてまた来られたということですよね?」
「まさか。ディートリヒ家本邸に泊まったのよ。リアさんとレアさんと夜遅くまで女子トークしてたのよ。レアさんがお喋りで中々眠らせてくれなかったのよね」
俺、やっぱりレア姉様に嫌われてる? 俺といる時全然喋ってくれないし。
「そうだったのですね。ところで、ミラ様は武闘祭に参加されるのですか?」
「もちろんよ。ルイーサ姉様もご参加なさるわ。王族は強くあらねばならない。ルイーサ姉様の好きな言葉ね。ふふふ」
ルイーサ・フォン・アスルーン。
アスルーン王国第二王女で、原作では傲慢英雄だった人。
武闘祭に二人も原作の大罪英雄が出場するのか。
何が起こってもおかしくない。
俺が不安な気持ちで考え事をしていると、ミラ様が声を掛けてこられた。
「お~い、お~い、エリアス。どうしたの?」
「申し訳ございません。考え事をしていました」
「まあいいわ。エリアス、試合しない?」
「え?」
「何よ? 馬鹿にしてるの? それとも怖気づいた? これでも結構やるのよ、ふふふ」
困ったな……。
「バルナバス、エリアスと試合するから審判やってちょうだい」
「ほっほっほ。これはどういうことですかの」
勝手に話が進められている。
俺はバルナバスに小声で耳打ちする。
「バルナバス、ミラ様の実力は分かっている。俺と試合をしたいらしいけど、手加減するから安心してほしい」
「ほっほっほ、なるほど。かしこまりました」
「?」
ミラ様は怪訝な顔をしている。
「それでは武器はお互い木剣でよろしいかな? アイテムと魔法の使用は禁止。双方よろしいですかな?」
「分かった」
「いいわ」
「始め」
「てい、そりゃ!」
ミラ様は木剣で打ち込んでくるが、遅いし威力もない。
俺は適当に受け流す。
ステータスが上がることもない。
「はぁはぁ、やるわね、エリアス」
その後も打ち込んでくるが俺に当たるわけがなかった。
「私はルイーサ姉様のように強くなりたい!」
ミラ様の気持ちは痛いほど分かるが、剣は才能と努力が合わさって真価が発揮されるもの。
今後努力を続けていけば強くなれるかもしれないが、現時点での俺との実力差は開き過ぎていた。
「エリアス、分かってないようね」
「?」
「私は自分が弱いことを知っている。貴方が強いことも知っている。貴方が適当に話を合わせてくれていることも。それについては怒ってないわ。私が弱いから悪い。でも、私にも譲れない想いがある!」
ミラ様が打ち込んできた木剣を俺は条件反射で弾き飛ばしてしまう。
「しまった―――」
ミラ様は俺の胸に飛び込んでくる。
「うわあああああああん! 何で私は弱い。ルイーサ姉様の様に強くない。ナディア姉様のように国民皆から愛されているわけでもないの!」
「ミラ様……」
「……」
「ミラ様の口から出るのはご家族や他人のことなのですね」
「私は自分を持ってないって言いたいの?」
「そうではありません。あなたの良さは他人を思いやることです。その優しさがあればルイーサ様より強く、ナディア様より愛される人になれると思います」
「エリアス、エリアス、うわあああああああん!」
偉そうだったかもしれない。
これで良かったのかも分からない。
でも、ミラ様がナディア様より愛される人になれるといったのは嘘じゃない。
ミラ様が王都に帰る日になった。
「エリアス、必ず王都に来なさいよ。すっぽかしたらただじゃおかないからね」
「行きますって。心配しないで下さい」
ミラ様は腕をぶんぶんと振りながら馬車に乗り込んだ。
俺はその馬車が見えなくなるまで見送った。
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