第27話ヴォルフ&カール&バルナバス&レオンside

 ヴォルフside


 俺はヴォルフ・アイゼンバーグ。

 ディートリヒ家騎士団の教官長をやっている。


 俺は若い時、己が最強だと信じていた。

 冒険者で結構いい線までいっていた。

 何にも縛られない冒険者という職業で俺は一生生きていくと思っていた。


 ある日俺は分不相応な依頼を受けた。

 魔王軍が侵攻してきて、それを防衛するという依頼だった。


 流石に怖い物知らずの俺もこんな依頼、冒険者ギルドが受けるような仕事か? と疑問に思った。


 もちろん、王家とディートリヒ家が主となって行う作戦だったが、猫の手も借りたい王家が冒険者ギルドに応援を要請したようだった。


 俺は調子にのっていた。

 意外とやれる。

 魔族なんてこんなもんかと思った。


 俺は隊列を乱し、どんどん先に進んだ。

 だが、俺が倒していたのは雑魚だったようだ。

 全く歯が立たねえし、囲まれてしまった。


 怖い物知らずは早く命を落とすんだなと教訓を得たが、死んでしまったらその教訓も生かせそうもなかった。


 俺が死を覚悟した時、周りにいた魔族が殲滅された。

 レオン隊だ。

 レオン様はその後圧倒的な力で魔族軍の本体を殲滅した。


 俺は命を救われた。

 その後、俺はレオン様に心酔しディートリヒ家騎士団で働くことになった。


 俺は自分の実力が知りたかったので、レオン様に何度か手合わせを挑んだが、全く歯が立たなかった。




 騎士団の仕事は退屈だった。

 骨のない新人どもを育成する仕事だ。


 死と隣り合わせの冒険者時代を懐かしく思う。

 だが、騎士団の仕事を辞めるわけにはいかねえ。


 レオン様に命を救われたし、その力にも心酔している。

 いつかレオン様を超えてみてえって気持ちもある。





 ある日クリストフとソフィアが騒いでいた。

 ふん、魔法師団の同期か。

 いい気なもんだぜ。


 珍しいことにエリアスの坊ちゃんも一緒だった。

 あの怠け者の坊ちゃんが外にいる? 俺はレオン様を尊敬しているが、エリアスの坊ちゃんは気に入らねえ。


 世間の厳しさを知らねえ、女に守ってもらっている甘ちゃん。

 俺の頭の中の悪魔が囁いた。


 試合を装ってこいつをぼこぼこにする。

 甘ったれの坊ちゃんが泣いて許しを請うのも面白そうだと思った。




 試合が始まった。

 意外にもすばしっこい。

 だが、一発でも当てればこちらの勝ちだ。


 そんな俺の期待は裏切られた。

 坊ちゃんの一撃は想像より遥かに重かった。


 一撃で俺の体の自由が利かなくなる? そんなこと今までほとんどなかった。

 あるとしても、レオン様かバルナバスの爺。


 いや、爺の一撃より重くねえか? 俺はかぶりを振る。

 こんな小僧が伝説の騎士団長より上だと? そんな事認められねえ。


 坊ちゃんの動きについていけない。

 俺は防御が間に合わず意識を失った。





 俺は医務室で意識を取り戻した。

 負けたのか……。


 坊ちゃんは、『ヴォルフ、見た目で相手を判断するな』と、仰った。

 確かにその通りだ。


 幼い見た目に油断して俺は負けた。

 いや、油断していなくても負けていた。

 それほど実力差があった。


 レオン様の再来。

 俺はそう思った。





 カールside


 私はカール・ビュルガー。

 ディートリヒ家副騎士団長です。


 私の信念は、努力は必ず報われるということです。

 たゆまぬ鍛錬を続けていれば、どんな強者、悪にも屈さぬという信念です。


 努力の量なら誰にも負けない自負があります。


 ある日、ヴォルフがエリアス様と試合をすることになりました。

 怠け者が嫌いなヴォルフが何か理由をつけてエリアス様をいたぶるつもりなのでしょう。


 私もエリアス様には良い印象を持っておりません。

 怠惰な性格で有名なエリアス様。


 私の信念とは真逆な生き方です。

 レオン様は尊敬しておりますが、子育ては苦手だったのでしょう。


 エリアス様とヴォルフの試合は意外なことに一方的な展開となりました。

 才能なのか、どこかで隠れて鍛錬したのか知りませんがエリアス様はすばしっこいです。


 結果はエリアス様の勝利です。

 ヴォルフの粗暴な言動は好きになれませんが、彼の努力家なところは認めております。


 共に鍛錬に励んできたヴォルフが負けるのは複雑な気持ちです。

 騎士団の威信もあります。


 このまま黙ってエリアス様を帰す気はありません。

 ヴォルフが負けたのは相性が悪かったのでしょう。


 私のスピードにはついてこれないはず。





 試合が始まりました。

 私は油断していました。

 開始早々エリアス様の攻撃を食らってしまいます。

 エリアス様は『カール、油断するな。戦場なら終わってたぞ』と仰いました。


 油断していたのも事実です。

 ですが、エリアス様の攻撃が早すぎて目で追いきれなかったのです。


 ヴォルフとの試合で感じていたこと。

 エリアス様の動きが速くて目で追うのが精一杯。


 私は日頃の鍛錬のし過ぎで疲れが溜まっているのだと思いました。

 試合が始まって冷静になれば、目が慣れる。

 そんな甘い事はありませんでした。


 完全に私が速さで翻弄されている。

 この速さのカールが。


 試合は私が敗れました。

 私の信念が崩れ落ちそうでした。


 努力を続ければどんな相手にも負けることはない。

 圧倒的な才能の持ち主はいる。

 魔族と対峙した時気付いていたはずです。


 奴らはこちらが努力したとか関係ない。

 弱ければ殺されるだけ。


 私が打ちひしがれていると、兵士たちが医務室に入ってきました。

 私を心配している? そんな馬鹿な。

 私は自分自身のことだけ考えて生きてきました。


 慕われるようなことなどした覚えはない。


 エリアス様は、『カール、仲間を頼ればいい。ヴォルフとバルナバスも頼っていい』と仰いました。

 バルナバス様も本当は頼ってほしかったそうです。


 私は自分一人で抱え込み過ぎていたのかもしれません。

 今後は誰かに頼ることも覚えていこうと思います。


 それにしても、エリアス様。

 本当にレオン様の再来なのですね。

 力だけでなく、考え方もレオン様そのものです。





 バルナバスside


 儂はバルナバス・クルーク。

 ディートリヒ家騎士団長じゃ。

 レオン様の強さと人柄に惹かれて長いことディートリヒ家で働いとる。


 儂の仕事はディートリヒ家を魔族や他国からの脅威から守ることじゃ。

 と言っても、ディートリヒ家は強大過ぎて攻めてくる者はおらん。


 日々の訓練は欠かさぬが、ちと退屈というのもある。

 どれだけ鍛えても力を発揮する機会がないのじゃからな。


 ヴォルフやカールは多少歯ごたえはあるが、まだまだ儂とは実力差が開きすぎておる。

 レオン様の若い時には手合わせしていただいていたが、あの方はお忙しい。

 それにご当主様がこんな爺さんと戦うのもおかしいじゃろう。


 ある日エリアス様が領外へ出ていかれるのを見た。

 レオン様の側近の兵士が言うには、ダンジョンに修業に行かれるとのこと。

 気にはなったが兵士が隠れて付いて行っておるし、ソフィアも付いて行っておる。


 帰ってきたエリアス様は強者のオーラを身に纏っていた。

 あの怠惰な少年に何があったのか気になった。


 魔法師団に入り浸って、魔法の練習までしておる。


 ある日ヴォルフがエリアス様と試合をすると言ってきおった。

 ヴォルフの悪い癖が出おったか。

 気に入らない者を試合を装っていたぶる。


 エリアス様への失礼な態度は許せぬが、儂は二人の試合を認めた。

 エリアス様の実力がどこまでヴォルフに通用するか。


 試合はエリアス様の圧勝で幕を閉じた。

 ここまでお強くなられたとは。


 続いてカールとの試合。

 カールが熱くなるとは思わなかった。

 騎士団の威信をかけるとは、あやつらしいとは思ったが。


 カールとの試合もエリアス様の圧勝じゃった。

 まさかカールをスピードで圧倒するとは。


 儂は危険じゃと思った。

 このまま負けを知らずに進むと、いつか手痛いしっぺ返しを食らう。

 エリアス様の今後のために、一度負けていただこう。


 エリアス様の剣は力強く、素早かった。

 じゃが、未熟じゃ。

 この爺にとって受け流すことなど容易。


 動きが早いのは目線や筋肉の動きを見ればいい。

 長年の経験じゃ。


 今度は儂の攻撃じゃ。

 エリアス様の動きが速くて捉えられん。


 何とか当てたがダメージはないように見える。


 恐ろしいことにエリアス様は戦闘の中で急激に成長なさっている。

 最初は儂が圧倒していたが、次第に力が拮抗してきた。


 儂の方が遥かに技は上回っておる。

 じゃが、力と速さではエリアス様の方が上。


 一進一退の攻防が続くが決着はつかない。

 能力が横ばいの儂と成長し続けるエリアス様では結果は火を見るよりも明らか。


 儂は後悔していた。

 騎士団の威信など関係ない、エリアス様の今後のために始めた戦いじゃったが、負けるのが怖くなった。


 騎士団長が皆の前で負ける姿を晒したくない。

 成長を続けるエリアス様に押され始めている。


 長年培ってきた技で攻撃を凌いでいるが、長くは続かない。

 何とか試合を終わらせる方法はないかと思う。


 情けないもんじゃ。

 これが老いか。


 負けを覚悟した時ミラ様から声がかかった。

 儂はこれで試合を終わりにすることが出来ると思った。





 レオンside


 またエリアス行っちゃうの~!!! 今度はリアとレアまで!

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